08
「えーと、クエストクエストっと」
私はシャカリキになって掲示板の依頼を探している。
アルベールに滞在してもう10日目。
私のパーティも5名?となったので食べさせていくにはお金が必要なのだ。
「ねえ。こっしー」
「はい?」
「1テラってこないだ勘違いしちゃったケド、1000メガじゃないよね?」
「はい、恐らく1000メガが1ギガ、1000ギガが1テラではないかと」
「くぅ~、どんだけウィリアムさん、お金、持ってたのよぅ」
ますます報酬を貰い損ねたことに悔しさがつのる。
「あ、ユンちゃんの前ではこの話はしないようにね」
「魚意」
ユンちゃんとロキが私が渡したお金でみんなの分のパンを買ってきた。
「モエミ、買って来たよ」
「うん、ありがとう、向こうのテーブルでみんなで食べましょう」
「うん!」
ちなみにロキは人の姿をしている。
理由を聞いたところ森の精霊の加護を受けているとか......よくわからないケド。
「どうだ、俺の人の姿は?」
そう言いながらロキはミルの隣に腰掛ける。
「はあ、まあ、いいんじゃねえの」
「なんだ?ツレナイ返答だな」
「いやいや、ユンがお前の事を好いているんだろう?」
「ああ、俺も姫様のことは好きだぞ?でも、それはライクだ。俺はお前にラブなんだ。俺と子供を作ろう?いいだろ?」
「ばっか!......もぐもぐ、やっぱうめえなこれ!」
ミルはロキの言う事をまったく相手にせずパンに夢中だ。
「まあ、いずれ、お前は俺に夢中になるだろうがな」
「へっ!大した自信だな」
「何話してるの?」
モエミが二人の間に割り込んできた。
「な、なんでもござらんよ?ハハハ」
「変なの......それでモエミ。これからどうするの?」
「うん、さっきから適当なクエストを探しているんだけどいいのがないなあ」
「クエスト?」
「うん、誰かの依頼を成功させてお礼としてお金をもらうの。それでご飯が食べれるってわけ」
「そうしないとゴハンが食べれないの?」
「そうよ、お金がないとお布団でも寝られないし、ご飯も食べれないの」
「う~、ユンもがんばるね!」
ユンちゃんはパンを片手にがんばるポーズをとった。可愛すぎる。
ふと私は疑問が浮かんだ。その疑問をユンちゃんに投げかけてみる。
「ねえ、森に住んでいた時はご飯はどうしたの?」
「ロキが持ってきてくれたの」
「あ、そう......」
私はロキが人間用の食事をどうやって調達してきたのか大体、想像がついたのでロキに問いかけはしなかった。
でも、今後の為に一応、注意しておくことにした。
「ロキ、今後は略奪行為は禁止します。もし破ったら私達のパーティから追放するからね?」
「......承知した」
ロキは渋々だが、納得してくれたようだ。
ふいに私達のテーブルの後ろから声が聞こえた。私はその内容が非常に興味深いことだったので耳を傾けていた。
「......ということでウィリアムの野郎はやっぱり敵のスパイだったんじゃねえか?」
「裏切ったから敵国の暗殺者に殺されたってところか......」
「ええ!?火事じゃないの?」
「......わからんなあ、ウィリアムはタバコは吸わなかったしな。火が出る理由があまりないだろう」
「メイド達もいたのにな。なぜ気が付かなかったのか」
「メイドもグルなんじゃない?素性も何も調べないでウィリアムさんは自分の外見の好みだけで雇ってたらしいし」
「ほぉ」
私はユンちゃんにこの話を聞かせたくなかったので全員がパンを食べたのを確認すると噴水の前のベンチでデザートでも食べようと提案した。
ただし、こっしーだけは私達がいたテーブルにしばらく留まらせることにする。
「じゃ、こっしーお願いね」
「魚意」
☆
噴水前に私達は移動し新鮮な果物のジュースを飲んでいた。
「お!うめえな!さすがガバだぜ!」
ミルはジュースを一口飲むとそう叫ぶ。
「ガバ?グァバじゃないの?」
「いやいや、姫様。これはガバですぜ?」
「へー、そうなんだ」
私も一口飲んでみると甘酸っぱい風味が口の中一杯にひろがった。決して臭みはなく爽やかな感じだ。
「あ!ほんとだ!おいしいね!」
「へへん」
なんだかわからないがミルはドヤ顔をしている。
私達からちょっと離れて座っているロキのほうを見て見るとユンちゃんと供においしそうに飲んでいた。
「ああしてみると実の兄弟みたいね」
「そうでござるな。それはそうとこれからどうするでござる?」
「実を言うとね。さっき気になる依頼があったんだ。その依頼もずーっと張りっぱなしみたい」
「まさかまさか......」
「『痴話喧嘩を止めて頂きたく 報酬500ギガ』」
「......」
「それでその報酬の依頼主は......モーツ・バーン」
「わちゃー」
「あなたと何か関係あるの?」
「それは親父殿でござる」
「あ、そうなんだ」
「いかにも」
「じゃあ、これやってみようかな」
「これもやめておいたほうが良いでござるよ」
「なんで?」
「解決するのは無理でござる」
「そんなのやってみないとわからないじゃない?」
「じゃあ、それがしはここでパーティを抜けさせて頂くでござる」
「え!?」
「申し訳ありませぬが......」
「あ、そう。へー、あなたの武士道っていうのはそんなもん?」
「......」
「じゃあ、もう、私達を見かけても声をかけないでね」
「なんだか、冷たいでござるな」
「なによそれ?どっちがよ!」
「わかったでござるよ。それがしも行くでござるがあまり目立ったことはできませぬがそれでもいいですか?」
「うんうん、これからもよろしくねミル!」
「はい......はあ」
私は危ういところでレベル500を超える騎士を手放すところであった。
「へ?なにか実家に帰るのが嫌な理由でもあるの?」
「んーまあ、親にこんな姿を見られたくはないっていうのはありますぞ?」
「え?どうして?ミル、強いし頑張ってるじゃない?」
「親からしてみればそれがしには誰かを守る為に剣をふるうのではなく綺麗なドレスでも着て家にいて家を守って欲しいと考えてますゆえに」
「はー、ミルは兄弟はいないの?」
「おりません」
「なるほど」
「でも、それがしはそれがしで考えて行動しているのでござるよ?」
「へ?どういうこと?」
「バーン家を存続する為にこうして婿探しの旅をしているのでござる!!」
「はあ、なるほど。そういうことだったのか」
「ですです!!なのでこっしーをそれがしにくだされ!」
「はあ?なんでそういうことになっちゃうの?絶対にダメ!!」
「ちぇえ」
「まったく!あなたはすぐにそういうことを言うんだから!こっしーは諦めてね!!」
「あきらめきれませぬ。それだけこっしーはそれがしの理想の男性なのです!......あれ?こっしーは?」
ミルは力説していたがこっしーの姿が見えないのでそう言った。
「さっきの私達が食事していたテーブルに残してきた」
「へ?」
「私達がいたテーブルの後ろの人達がウィリアムさんが敵国に暗殺されたとか言ってたからその話を聞かせる為に」
「ほうーそういうことですか」
「ねえ、ミル、なんで隣同士の国なのにこんなに仲が悪いの?」
「それはお互いの国王が領土拡大の為に虎視眈々と機会を伺ってるから......じゃないですかね」
「はあ、領土拡大ね。昔から聞く話だけど争いで人の命を奪ったりとか領土拡大することがそんなに大切なのかな?」
「......姫様は優しいでござるな」
「そお?別に普通だと思うケド」
☆
私達はこっしーが帰ってきたと同時にミルの実家、バーン家に行くことにした。
その道中で私はこっしーからどうやら本当にウィリアムさんは敵国の暗殺者に殺されたという情報を得た。
そして私は大切なことに気づく。
「ねね、ミル、ここからあなたの家に行く途中に川とか湖とかある?」
「ん?あるでござるよ。湖が」
「そう、よかった」
「......こっしーでござるか?」
「うん、そう」
「こっしーは長い時間、人の姿でいられないでござるか?」
「そう、みたい。今までに3日くらい人の姿でいたことがあったけど本人の意思とは関係なく勝手に鯉に戻っちゃうことがあったよ?」
「そうでござるか」
「うん」
「それは難儀でござる」
「だからあなたにはもっといいところの素敵な男性がいいんじゃないかな?」
「......」
「痴話喧嘩解決で500ギガもくれるなんて絶対あなたもいいところのお嬢様なんでしょう?」
「そうかもしれませぬがその依頼を解決するのは至難の業でござる」
「喧嘩の原因ってなんだかわかるの?」
「父上は浮気。母上は勝手に買い物を毎日しておりますゆえに」
「え!いいな!」
「そんなんで家で二人が顔を合わすとお互いのことを咎めているばかりの毎日でござる」
「でも、そんなんで500ギガもくれるなんて」
「甘いでござるぞ姫様。今までに誰もがそれがしの家を訪れてなんとかしようとしましたがどうにもなりませんでした」
「まあ、なんとかなるでしょ」
ミルのご実家はアルベールの市場から意外と近く、私とミルが話しながら歩いているうちにいつのまにか湖を通り過ぎて立派な豪邸に私達は到着した。




