07
女重騎士ミル・バーンとガーゴイル・ロキとの決闘は熾烈を極める。
一進一退の攻防が続くがこの決闘は意外な形で決着がついた。
ロキが再度、ミルに向かって突進をかけたところ小石につまづき気躓いたところをミルはロキの側面に回り、みねうちでロキは気絶してしまった。
何ともしょぼい結末だと思われるだろうがこの戦いにはいろんな意味が込められていた。
まず、ロキは翼を使って空中から攻撃をしてこなかった。
空中に自ら逃れればミルが攻撃する手段はなくそれは卑怯だと思ったのだろう。
地表すれすれでの攻撃のみを繰り返していた。
そのロキの意を汲んだのかミルも自らの剣技のみで正々堂々と戦っていた。
「ロキ!ロキ!」
こっしーから離れるとユンは気絶したロキのところへ行く。
そしてミルの攻撃を受けてアザになっている腹部に手をかざす。
するとユンの両手から暖かみを感じる光が輝きだし、ロキのアザはみるみるうちに消えて行った。
その様子を私達は呆然と見届けた。
「ユンちゃんあなたはヒーラーなの?」
「ヒーラー?何それ?治癒できる人のことをそう呼ぶの?」
自分の好きなロキを傷つけた私達にユンちゃんは答えてくれた。
正直、無視されると思ったけれど。
「ユンちゃん、怒ってないの?私達のこと?」
「どうして?」
「だってあなたの大好きなロキを傷つけて......」
「怒ってないよ?戦いが始まればそういうものでしょ?ロキは私の為に戦ってくれた。だけどロキは負けた。私の為に戦ってくれたロキを私は治療する。ただそれだけ」
「はあ」
この時私はユンちゃんに違和感を感じた。この子は何かちょっとズレている。
ほどなくしてロキは意識を取り戻す。
「ウ、ウ、ウ......」
「あ、ロキ!起きた!」
「そうか、俺は気を失っていたか」
恥ずかしそうにガーゴイルはポリポリと自分の頭を掻いた。
「小石に躓くなんて俺も、もう年かな」
「いやいやいや強かったでござるよ?......空中からヒット&アウェイで来られたらそれがしの鎧もいずれ壊されお主のその鉤爪でそれがしの肉体は貫かれていたでござろう」
ミルは寝転がっているロキにそう話す。
「ふっ、何を言う。人間のくせに。俺の方こそまったくお前に勝てる気がしなかったぞ?それにお前、手を抜いていたな?他にもいろいろ技が使えるのではないか?」
「いやあ、そんなことはないでござるよ」
ミルも身体をのけぞってそう話す。
「俺も、まだまだだな。そうだ、お前ら。姫様を連れて行くのなら俺も連れてってくれないか?お前達といればもっと強い奴と戦えるよな?」
「はあ」
ガーゴイルってこんなに向上心ってあったっけ?私が何かのTVゲームをやった時のガーゴイルって殺す、喰らうっていう本能のままに行動する印象しかないんですケド。
まあ、でもパーティの人数が増えるのは心強い。私はすぐさまに了承した。
「でも、私、うちに帰らないしおにいちゃんにも会わないよ?」
「う......」
ユンちゃんは当初の私達の目的をしっかりと覚えていた。
「ユンちゃん、私にもね、おにいちゃんがいるの」
「え?モエミにも?」
「うん、私も昔はおにいちゃんが大嫌いだった。自分勝手で横暴な言葉使いと乱暴な態度。でもね、最近は変わったんだ、うちのおにいちゃん。優しくて言葉使いも丁寧で......」
「ふぅん、モエミは自分のおにいちゃんが好きなの?」
「うん、今は好きだよ?」
「......私だって自分のおにいちゃんだもの。好きになれるものなら好きになりたい」
「好きになれるよ。だって家族でしょ?」
「うん、ユン、もう一度頑張ってみる」
ロキも私達と一緒に行動することが決め手となってユンちゃんは私達と一緒に自分の家に帰ることを了承してくれた。
「いやあ、良かった良かったこれで......1テラ......むふふ」
私は報酬をもらったら早速、何をしようかなと考えはじめた。
しかし、結果としてこの報酬はもらえなくなってしまう。まさにいらぬ狸の皮算用だ。
☆
「モエミ様、向こうのほうで火の手があがっておりますぞ!」
野宿をし、寝袋で寝ていた私にこっしーは慌てて知らせに来た。
「え?あっちってアルベールの街じゃん?ここからはまだまだ遠いし私達がどうすることもできないでしょ?今は寝ましょ!」
私はそう言って再び寝袋の中にうずくまった。ちなみにこっしーは自分の攻撃魔法としても使っているが火が大嫌いである。
「は、魚意」
こっしーもそう言うと川の方に一人歩いて行った。
ロキとユンちゃんとミルは何をしているのか気になって私は寝袋の中で聞き耳を立てた。
「どうやら我が姫様は眠りについたようだな」
「ああ、そのようでござる」
「お前、人間の女にしては変な言葉使いだな」
「ああ、お前らみたいなケダモノの性欲の対象にならないようにな。普段からそう気をつかっているでござる」
「なるほどよく見て見ればお前、中々に良いカラダをしているな」
「馬鹿野郎!見るんじゃねえ!......お前まさか、今までにユンを......」
「姫様には手を出したことはない。安心しろ。俺はロリコンではない。どちらかというと熟女が好みだ」
「別にお前の好みなんかどうだっていい。それがしも寝るぞ」
「なあ、寝る前に大人の付き合いをはじめないか?」
「なんだ?大人の付き合いって?」
「交尾だ」
「あほか、そういうのは同族同士でやってくれ。人間の女を襲うんじゃないぞ?そんなことしたらそれがしが叩っ斬るからな」
「お前となら強い子ができると思ったんだがな。残念だ。気が変わったら言ってくれ。俺の方はいつでも準備万端だ」
「バカ、それがしはもう寝る!」
私はその会話を聞いていてドキドキして目が覚めてしまった。これでは寝られない。そうだこっしーの様子でも見に行こう。
川で気持ちよさそうに1匹の錦鯉は泳いでいた。あれが多分こっしーだ。
その鯉は私に気づき水面上を軽くジャンプした。
ぽわわわ~~ん
みるみるうちにその鯉は人の姿に変身した。
「どうされました?モエミ様?」
「ん?うん、ちょっと寝られなくてね。邪魔だった?」
「いえいえ、トンでもありません」
「そ?なら良かった」
私とこっしーは川辺に腰掛け水面に映っている月を見ていた。
「ねえ、こっしーなんでこんなことになっちゃったんだっけ?」
「実は今まで黙っておりましたが多分、私のせいです」
「こっしーのせい?」
「はい、向こうの世界で池の中から流れ星を見たのです。その時わたしめは願ってしまいました。もっとモエミ様に近づきたい。強くなってモエミ様を守りたい」
「へー」
「そしたら光に包まれてこのようなことに......」
「そういうことだったのか」
「モエミ様にはなんとお詫びしたらよいのか」
「ううん、私は、嬉しいよ?こっしーとこうやってお話しできたんだもん」
「いやいや、鯉の分際で人間に恋するなどと......」
「あはは、何それダジャレ?」
「いえ、そういうつもりでは......」
「......向こうの世界には帰れるのかな?」
「わかりませぬ。もし帰れるとすれば......この世界でやるべきことをクリアすれば帰れるのではないでしょうか?」
「そうだねえ、私もなんかそう感じてた。なんだか世界観がゲームチックだし」
「......もっとモエミ様とお話ししたいのですがそろそろ寝ませんと......」
「あ、そうだね」
「わたしめの予想では明日はなんだか大変なことが起きそうでして......」
「ふうん、なんだろ?さっきの火事かな?」
「それはわかりませぬが......」
私とこっしーは小一時間くらい話したがやがてそれぞれの寝場所に戻って行った。
☆
「燃えたのはウィリアムさんの家だってよ!」
私達がアルベールの街に帰って来たらそんな男性の声がまっさきに聞こえてきた。
「え?」
ユンちゃんは慌てて走り出した。ロキもその後を続く。
やがてウィリアムさんの家に着くがそこは見事な焼け野原になっていた。
「お、おにいちゃん?」
ユンちゃんは信じられない光景をただボーッと見つめていた。
私は通りすがりの人に聞いてみた。
「あのー、ここに住んでいた人はどうなっちゃったんですか?」
「ああ、ウィリアムさんね。お気の毒だったけど死んだみたいだよ」
「え?そ、そんな!」
「メイドさんも5人くらいいたけど、主人をほったらかして逃げたらしいよ。で、死んだのは主人1人だけ。なんだか哀れだねえ」
その話をユンちゃんは聞いてしまった。
「お、おにいちゃんが死んだ......」
「ユンちゃん!」
私はすぐさまユンちゃんの元に走りユンちゃんを抱きしめた。
「仲直りしようと思ったのに......どうして?......ユンが悪い子だったから?......うわ~~~ん!」
「......ユンちゃん」
私は泣き叫ぶユンちゃんを抱きしめた。
「うわ~~~~~ん!」
そして私も泣いた。ユンちゃんの悲しみとクエスト成功報酬1テラを貰いそこなったことに。




