12
「ん?ん~......」
「ミル?」
「......モエミさん?」
「良かった!気がついたのね!」
護衛をしてくれるのかと思われた国の兵士達が盗賊に襲われて撃退をした次の瞬間、私達を襲ってきた。私を庇って隊長の刃に倒れてしまったミルだったがユンちゃんの治癒能力のおかげで回復し意識を取り戻した。
「あ!あの後はどうなったのかしら?」
「あなたがやられてからこっし~とロキは鬼神のごとく怒りまくってあっというまに隊長もろとも兵達を全滅させちゃったよ」
「そうですか......こっし~様が......見たかったですわ」
「ロキもよ!ロキも!」
ミルがこっし~のことだけを想ってぽわんとしているので私は焦ってロキも活躍したことを懸命にアピールする。
「......こっし~様は?」
「川へ洗濯に行った。命の洗濯」
「ロキは?」
「山へ薪を取りに行ったよ。ユンちゃんも一緒」
「そうですか」
「......ガンゲーロまでもう少しだね!」
「......そうですね」
「どうしたの?なんかまだ痛いところとかある?」
私はミルの様子が元気なさそうだったので気を使った。
「いえ、身体の方はもう大丈夫です。ただ、心の傷が......」
「心の傷?」
「ええ、それはこっし~様じゃないと癒されないのです」
「......」
「こっし~様が隣で優しく愛の言葉でも囁いて頂ければ1発で直ると思うのですが......」
「それはダメー!!」
「......ああ!!こっし~様こっし~様!!どうして貴方はこっし~様なのですか?どうしてあなたは鯉なのですか!......どうして貴方はモエミさんの従者なのですかあ~~~!!およよ......バーン・嗚咽・サイレント!......あぅぅ......」
ミルは散々、手を振り回しそう叫んで泣いている。
「ただいま、戻りました。ん?ミル様、起きられたのですね。何よりです」
こっし~はそう言って私達に微笑む。あわわ、よせってそんな素敵な笑顔を見せられたら......
「こっし~様!!」
ほおら言わんこっちゃない。ミルはこっし~に飛び掛かり抱きついた。
「ミ、ミル様......」
こっし~は困った顔で私を見ている。......だから私を見んじゃねえ、自分の意志で跳ね除けなさいよ。
「ミル様、落ち着いてください、皆が誤解しますので離れてくださいませんか?」
「イヤですイヤです!!もう離れません!!......お慕い申しております!!こっし~様!こっし~様ぁ!!」
ぐっ!!もうこれ以上この状況に耐えられないので私はこの場を離れることにした。こっし~が困った顔で私の事を見るのもなんかムカツクし。
私はユンちゃんとロキを探しに山を登り始めた。山といってもそんなたいそうな山ではなくちっさい山だ。するとすぐに2人を見つけた。2人は崖から下の方を見ている。
「2人とも何を見てるの?」
「あ!モエミ!あれがきっとガンゲーロの街だよね?」
ユンちゃんの指さす方向には民家がたくさん並び大きな工場が2つ煙突から煙をあげている。
「あ!うん、多分そうだね」
「ガンゲーロはおいしい食べ物あるかな?」
「え?あはは」
私はユンちゃんの言ったことに思わず笑ってしまう。まあ、確かにこの世界では食べることくらいしか楽しみなんてなさそうだけど。今まで私の楽しみも食べることだけだったし。
「さ、2人とももう戻りましょう?2人が取ってきてくれた薪がないと火もおこせないし」
「うん」
私は2人が取ってきてくれた薪を少し手に持つ。そして私の黒い心があることをロキに囁いてしまう。私はロキの耳の傍に身体を寄せる。
「ミルが無事に目を覚ましたわ。それで今、こっし~と2人きりよ」
「なんだと!?」
ぼわわわん
ロキはみるみるうちにガーゴイルの姿に変身し、薪を鷲づかみにしてさっさと1人で山を降りていってしまった。私の狙い通りの行動だった。これでミルの邪魔をしてくれれば......誰かに性格が悪いと言われても構わない。こっし~は誰にもあげない。私の鯉なのだから。そう、これは私の恋。なんぴとたりとも私の邪魔はさせない。
「もう!ロキィ!」
ユンちゃんはそう叫ぶがもうアフター・ザ・カーニバルだ。
「行っちゃったね。私達も帰りましょう?」
「うん......」
ユンちゃんも何か面白くなさそうだった。
「ねえ、ユンちゃんはロキのどんなところが好きなの?」
「優しくて強いところ」
「へえ~」
「おにいちゃんとは正反対......おにいちゃんはもういないけどね」
「ユンちゃん、私もね、お兄ちゃんいるんだ」
「へえ、モエミにもおにいちゃんいるんだ!どんな人?」
「私のお兄ちゃんもね、みんなに嫌われていたんだ。友達も1人もいなくてね」
「......私もおにいちゃんのせいで友達が全然できなかった」
「え?あ、あはは......やめる?この話?」
「ううん、聞きたい。モエミのお兄さんの話」
「でもね、ある日お兄ちゃんが事故にあってね。記憶が無くなっちゃったんだ」
「ふうん」
「で、なんか事故以来、性格が変わっちゃって優しくなったの」
「へえー」
「友達もいなかったのに彼女が出来て家に連れてきてたよ。で、私もそのころにはお兄ちゃんのこと好きだったからヤキモキしてたなあ」
「へえ、いいなあ......私もおにいちゃんのこと......好きになりたかったよ......グスッ」
「......ユンちゃん」
たまらず私はユンちゃんを抱きしめた。ユンちゃんを抱きしめながら私も元の世界の事を考えていた。兄はどうしているのだろうかとか静香さんとはまだ続いているのだろうかとか。......元の世界に戻るには本当にどうしたらいいんだろう。
☆
私とユンちゃんがテントを張った場所に戻ってみるとこっし~達はおとなしく座っていた。ミルを巡ってこっし~とロキが対決でもしたじゃないかと思ったがどうやらそうではなさそうだ。
「ん?なんか、静かね。どお?ミル、落ち着いた?」
「......はい」
何か元気がない。私は何があったのかこっし~に聞いてみる。
「こっし~、何かあったの?」
「何もございません。モエミ様」
こっし~の様子から見て本当に何もなかったんだろう。こっし~の挙動からして嘘、偽りがあるようには感じ取れなかった。なので今度はロキの様子を探ってみることにした。
「......」
「ロキ、何かあった?」
「ん?何もないぞ?」
どうやら、ホントに何もないらしい。私は違和感に囚われながらとりあえず拾ってきた薪に火をつける。するとみんなが薪の火を中心にして集まってきた。しばらくの間、みんなは無言だった。
☆
「おー、あんたがモエミさんか。メッサーから話は聞いているぜ。......うん、鉱石は10トンちゃんとありそうだな」
ガンゲーロの工場長はボリノーク伍長と言った。伍長は私達が運んできた鉱石の数々を見渡すと満足そうにして報酬のお金を私にくれた。
「じゃあ、縁があったらまた会おう」
人のよさそうなオジサンだったが恐らくもう会うことはないだろう。私の中でそんな予感がした。......いや、ただしくは私が会いたくないだけなのだ。この人と再び会うことになるとしたらそれはとても面倒なことになっている。理由はわからないけどそんな感じがしてならない。
「はい、ありがとうございました」
私達は伍長に頭を下げると早々にその場を立ち去ろうとした。しかし、すぐに一人の重騎士とその部下らしき兵隊が二人、私達の行く手を阻む。そしてその重騎士が信じられない言葉を私達に放った。
「私はノティス国、新鋭隊長のジーク・バハムート少佐です。あなたがたにスパイの容疑がかけられています。お城までご同行願いますか?」
「はい?」
私は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。すると私の隣にいるミルがすぐにその重騎士に反論した。
「ジーク、私達はスパイではありません」
「......ミル?ミルか?」
「えっ?えっ?」
ミルとバハムート少佐と名乗るその青年はどうやら顔見知りのようであった。
「いやあ、ミル、久しぶりだなあ!君が親衛隊を辞めてからもう一年か」
「......そうですね」
「ん?なんか姿、形は同じだが雰囲気とか仕草とか......昔と違うな?」
「......」
「『それがし』はどうした?......わかった!お前、恋をしているな?」
「......そんなことはどうでもよろしいでしょう?とにかく私達はスパイなどではありません。私達に構わないでいただきますか?」
「なんだ?久しぶりに会ったのに釣れないなあ。.....まあ、バーン家のお前の仲間がスパイなどではあるわけがないな。......おい、帰るぞ!」
バハムート少佐は部下と思わしき兵隊たちに声をかけ帰っていった。
「ミルってば昔、親衛隊にいたの?」
「......」
私はミルの顔を覗き込んでそう話したがミルは下を向いて唇を噛みしめるだけで返答はなかった。