クローバー七枚目
二人で旅の支度をすると、不思議なことにこれから旅をする楽しみが増えた気がして、でも、人魚は旅支度をするのに手間取っていたからいつもより時間がかかった。
「じゃあいこうか」
そうして二人で静かに歩いていく。雪原うさぎにとっては見慣れた場所で、人魚にとってはまだ良く知らない場所をいくらか歩いていると空が暗くなりかけてきたのではやめに町の宿屋に一晩泊まり、また歩いてついた場所は町から大分離れた森の奥、青い壁の西洋風の屋敷だった。
「後輩が住んでて、魔法くわしいんだよ」
呼び鈴を押すとしばらくしてドアが開き、出てきたのは仮面をかぶった赤毛の少年だった。
「誰かと思ったら雪原うさぎ先輩じゃないですか」
困惑しているような驚いたようなトーンでそう言うと、少年はふたりを招き入れる。
「頼み事をしにきたよ。魔法の」
暖炉の薪が燃える音が聞こえるくらい静かにあるいていた少年は振り向いて二人を見る。
「あれ……?お芝居見に来たわけじゃ無いんですね」
お芝居?と人魚は首をかしげる。海の中で生活していたときには見たことは無かった。
「一人八役できるのもすごい珍しいけどちがうんだよね」
「じゃあいったい」
これは自分が言うべきだろうと思った人魚は、すぐ取り出せる一にしまっておいた筆記用具と髪を出して描き込み、少年に見せる。
『わたしがこの姿をしているときも会話が出来るようになれると聞いて、ついてきました』
「この姿……じゃあお姉さん、人じゃ無いの?」
「人魚ちゃんだよ」
雪原うさぎはそっと捕捉する。
少年は仮面を外してまじまじと人魚を見つめ、なにか納得したように頷いた。
「あ、うん。そっか、代償にしてるんだ」
「てっとりばやく会話がしたくて、魔法でなんとかならない?」
「んー……出来ますよ。ちょっと待ってて」
屋敷の奥に行った後輩を見てから、聞きに来て正解だったようだ。と雪原うさぎは人魚をみると、人魚はきょとんとした表情をうかべている。しばらくしてやはり足音も無く後輩は青い石のネックレスをもって戻ってきた。
「はいこれ。つけてるあいだは普通に喋れます」
「あっさりあるもんなの?」
「ちょうど道具があったので、それに、人魚さん綺麗だからささっとつくりました」
にこにこしながら後輩は人魚にネックレスを差し出し、人魚はそれを手に取って首につけるとほんの一瞬だけ石が綺麗な光を放った。
「……あ」
おそるおそる人魚は自分の声を出して、それで自分で自分の声に驚く。
「魔法すごいね」
「……ありがとうございます。後輩さん」
綺麗に透き通った声で人魚はお礼を言う。
「あ、名乗ってなかったね。ヤマタです。八岐大蛇」
「じゃ、帰るね」
「いや……来客は久しぶりなので、甘酒飲んでいって下さい」