クローバー1枚目
彼女のことを好きな人も嫌いな人も、雪原うさぎと呼んでいた。人間であったこともあったけれど、いつの間にか、何がどうしたのかは覚えておらず。気付けばそうなっていた。
肩まで伸びていてふわっとした髪に、眺めで細めの白い耳。ぶかぶかな上着を着て、片手剣をもって氷のはった川の上に突き出ている石から石へ跳ねて移る。
一年中雪の降り積もるこの国の青空は、雪原うさぎが何処に行って戻ってきても大好きという位置で揺るがないもので、そんな日はこうして外に出て目的地も決めずに移動をする。
「わ」
川を渡り終えた先に積もっていた雪は思ったより分厚く柔らかかったのか、一気に全身沈んだ。
気を取り直して沈まないようなところを気を付けて歩いて、あまりいかない町につく。
長時間焼いた穀物のなにかとかそう言うのはおいといて、雪原うさぎは剣から水筒に持ち替え真っ先に青い鳥居の神社に行って、そこで巫女に甘酒を詰めてもらうように頼む。
普通の参拝客はせいぜい一杯くらいで、水筒に詰めてくれと頼むような者はそもそも現れなかったけれど。
何処の神社にもいつもおいてあるし、そう珍しくもなければ、参拝客など祝日や祭りのときくらいにしか大幅に増えないので、作っても余ることを雪原うさぎはよく知っていた。
「あなたどこから来たの」
巫女は驚きつつ、けれど慣れた様子で甘酒を雪原うさぎの渡した水筒に入れる。
「元紅葉の山の真ん中から」
「遠いのによく来たわね」
「この辺、魔物は出ない?甘酒のお礼に何体か倒そうか」
「晴れてる日は現れないわ」
水筒に入れられた甘酒は飲まずに、あらかじめ紙コップに注がれた冷めた甘酒を飲みながら雪原うさぎはふーと息を吐く。
「じゃ、お守り買っていこうかな。道中祈願みたいなの。あったでしょ」