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やたらと何かに焦っているようなカレハさんを宥めて、そこらにあった椅子の私の隣の席に座ってもらう。
私は一息ついた。座ってもらったはいいが特に話しかけることがない。
偶然、備品の紅茶とカップが目の前の棚に置いてあるのが見えた。私は右手で熱魔法の術式を組んだ。
「あ、そうだ。何か飲みます? 偶然そこに備品の茶葉もあることですし」
「め、滅相もございません! 私なんかがそんな……嗜好品なんて恐れ多い!」
私の提案にカレハさんは驚いていた。というか、さっきから自分を卑下しすぎだろう。
「おっと、あれあれ。間違えて二つも淹れてしまいました。勿体無いから飲んでくださいよお」
勿論一つだけ作ろうとした紅茶を間違って二つ淹れる間違いなんてする訳が無いのだが。私はカレハさんに紅茶を手渡した。
「熱いので気を付けてくださいね」
「あ、ありがとうございます……」
紅茶を受けとるカレハさんの指は凄い細くて白くてとても綺麗だった。ただ、手先が少し荒れていたのは気になった。
「で、話を戻しますが、カレハさんはいつもこんなに早くから掃除を?」
カレハさんはゆっくりと頷いた。
「は、はい。私、本当に戦闘も、それ以外の仕事もてんで駄目で、人並みに出来るものといったら掃除くらいしかみんなにしてあげることなんて出来なくて……だから……」
「なるほど。それでこの部屋はこんなに綺麗なんですね。カレハさんのおかげですね」
「違います!」
カレハさんが怒ったように否定した。
「はい?」
「私のおかげ? 馬鹿みたいなこというのはやめてください! それに、みんなのことを掃除も出来ないダメ人間のように言うのはやめてください! 掃除私が勝手にやってるだけなんです! 私なんて居なくても綺麗ですのに、まるでみなさんが掃除ができないなんてことを言わないでください」
「いえ、そういう事を言いたい訳では。というか私そんなこと言いました?」
「みんな凄い人なんです! 私なんかじゃ及びもつかなくて、優秀で格好よくて、みんな強い信念を持って動いてて、……とにかく凄い人たちなんです! 私なんかなんの役にもたててないんです! みんなすごいんです!」
「わ、分かります。分かりますし分かってますよ。カレハさん含めて私がダメだと思っている魔法少女なんてこの世に一人も居ませんよ」
露骨にカレハさんの顔が真っ赤になるのが分かった。
「わ、私なんかも……? いや、私なんかが! 私なんかのおかげでなんてことはありません! この部屋だって掃除は確かに私がしてますけどこの部屋が綺麗なのは……でも、やっぱり私なんかのおかげなんかじゃ……! 私なんか何の役にも立てないんです!」
そう言ってカレハさんはまた立ち上がって雑巾を持って窓を拭きはじめた。
「掃除の邪魔です! また来てください! 私なんか何もしてませんから! いいですね、それだけは覚えていてください!」
なぜかカレハさんを怒らせてしまっているようだ。
どうして怒らせてしまったのか分からないのが、これが私の実力不足なのだろう。
出ていかないと許さないという目でカレハさんがこちらを見ているので出ていかざるを得なくなった。しかし。「待ってください」部屋を出ようとすると後ろからカレハさんの小さな声が聞こえてきた。
「紅茶ありがとうございました。とても美味しかったです」
……これは好意的に捉えてもいいのだろうか。私のことが好きか嫌いかどっちなんだ。