文芸部の部長は変な人で
あらすじに書いてある通り、シリーズ4作品目です。
これだけ見ても、話は分かりにくいと思います。できることなら1作品目から見ていただけると幸いです。
まだ終わっていませんので、多分続きます。
僕の名前は明。
文芸部所属の一年生だ。
この文芸部の部長の名前は高山彩。長い黒髪で、いかにも清楚な外見とはうらはらに、どこか中二病をこじらせた人である。
そんな部長と過ごし始めて、気づけば夏休みになろうとしていた。
期末テストを乗り切った部長は気分が高揚したらしく、だからかこんなことを僕に突きつけてきた。
「夏休みの活動は週七日に決まったわ」
「ちょっと待ってください!」
「どうしたの?」
「ブラック過ぎないですか?」
「それはどうでも良いのよ。明君」
「いや良くはないです。せめて完全週休二日制にしてください。夏休みの宿題をする時間をください。ブラックな環境は断固反対!」
「安心しなさい。残業時間は五時間だけだから」
「月の合計ですか?」
「一日の平均よ?」
「月の残業時間百時間を余裕で超えています。超絶ブラックじゃないですか。一体どこに安心すれば良いのですか」
「私と出会えるのよ?」
部長はそう言って、笑った。
「どういうことですか?」
「だって、私は今年卒業するから。明君と部室で出会えるのは残りわずかだから。少しでも多く遊びたいもの」
部長の言葉に僕は思わず口を閉じてしまう。
どうして部長がまだ引退をしないのかが分かってしまった。
「でも、週七日の活動は無理です。部長」
「だったら、週五日にしましょう」
夏休みの活動は週五日になった。
夏休みの午前から、午後まで。ただずっと部室で駄弁るだけ。
ただそれだけの活動だった。
「暇だからすごろくをしましょう。明君」
部長はそんなことを提案した。部室のテーブルの上にすごろくのマップが広がった。
「すごろくですか?」
「いいでしょ? 明君」
「まあ良いです」
そんなことですごろくが始まった。
「6ね。3進むマスだから、3進む」
「5です。5回休み。待ってください!」
「どうしたの?」
「休み、多くないですか? というか、今になって気づきましたが、酷いマスが多くないですか?」
「だって私が作ったもの」
「でしょうね。市販さながらの出来ですが、マスに部長のいいところを百つ話すとかありますから」
「おすすめのマスは、この好きな人を校内放送で叫ぶかな」
「部長がそのマスに止まる可能性があることを部長は気づくべきです」
なんて話をしなければよかった。
五回休みのマスに止まった部長を追い越した僕のコマがそのマスに止まった。
「…………」
「さあ、明君。今は夏休みだから、誰もいないし。ね?」
「いやです。断固拒否します」
「じゃあ、ここで私にだけ言えば良いよ。誰かいる?」
部長が首を傾げた。
「いません」
僕は弱い。
本音を語ることはできなかった。
「そ。じゃあ、休み終わったから次私だね。4マス。あ」
部長のコマが同じマスに止まる。
「じゃあ、放送室に行ってくるね」
「行かなくて良いです。ここで良いですから。僕に話せば」
「そう? だったら。私が好きな人は、明君」
その言葉に内心ドキッとするも、続けて部長は話す。
「あと、若葉ちゃん。静流さん。ごっちゃん。あっとくん。みっくん。エクセトラ、エクセトラ」
「誰ですか? その人たち」
「クラスメイト。明君、もしかして内心ドキッとした?」
部長が不適な笑みを浮かべる。
その質問に僕は答えなかった。
その日、午後から急に雨になった。
「夏なのに」
「日本海側ですからね。仕方がないです」
「傘持ってきてない」
「弁当忘れても傘忘れるな。ですよ。部長」
「それどこの言葉?」
「日本一雨の多い県の言葉です」
僕は鞄から折り畳み傘を取り出した。
「使ってください」
「部下の体調管理はボスの務め」
「ボスの大量管理は右腕の務めです」
「だったら」
部長は僕の傘を受け取って。
「前みたいに、一緒に帰る?」
「いえ。止めときます」
「どうして?」
「どうしてもです」
僕は部長のことが好きかもしれない。
その気持ちはふつふつと膨れ上がってしまった。
「そ。じゃあ、私は帰るわね。本当に借りて良いの?」
「良いですよ。明日、返してくださいね」
「分かった」
部長は静かにそう言って、部室を出ていこうとした。
その後ろ姿は部長らしくなかった。
「部長」
「何?」
だから、僕は言わなければならないと思った。
「今日。すごろくをしましたよね」
「したけども」
「好きな人を叫ぶマス、いないと言いました」
「言ってたけども」
「実はいます」
僕はその心をはっきりと言葉にした。
「僕は部長が好きです」
部長は目を丸くする。
「だから、付き合ってください」
その言葉に部長は考え込む素振りなく、すぐに答えてくれた。
「ごめんなさい」
その日。
僕の恋は終った。