通称”氷結”とは、何者なのか。
俺の国は”竜”と契約する為の魔術式の知識がほとんどなかった。
でも、俺は憧れ焦がれ、得ることができた。
「君を気に入りました。私めが引き上けましょう」
だが、その竜はもう一人と契約しているそうだ。
それは残念だったが、三大竜の一頭の直属部下らしい。
それを手放すのは惜しく受け入れることにした。
『Rより』
コウキは報告書の束を見ていた。
「ヤナダ君、この報告書に目を通しておいてと渡されたんだけど。”氷結”って、氷属性なんだよね?」
「そう、そう」
ヤナダは教科書を見ながら、帳面に課題を記していた。
二人は夕食を終え、勉強会をしているのだ。
「氷って、魔力の消費が激しいよね?長期戦はまず向いてないし、近距離戦でないと氷が持続しない」
ヤナダは報告書をチラリと覗いて、「あー」と呟き、教科書から目を離し、こちらを向いて続けた。
「と、思うじゃん。定石で対処しようとしたら酷い目にあったよ、ってのが、その報告書で。”氷結”に会ったら即、逃げないといけない。いや、逃げられないか」
「え、この報告書通りなの!?」
驚きを隠さずに、コウキは目を丸くした。それにヤナダは慣れたように、納得した顔を浮かべる。
「やっぱり、最初は信じられないよね。射程距離、火力、持続性、速力、全て定石を超えている。反則だよね。まぁハルキがいるおかげで、対処はなんとかなっているだけど。いないと、死人が続出するのが怖いとこだよ…」
「氷属性が一番得意として扱う人って、失礼だけど…最弱…」
コウキは少し言いづらそうにしてから、小さめの声で言う。
「失礼だけど、そうだよね。攻撃速度は遅いのに消費も激しい。いいことなかったから」
ヤナダは頬杖しながら、詫びた様子は一切の否定なく肯定する。
「ハルキ君がいると死人がいないの?」
「うん、死人はいないね。あ、ハルキ曰くね。そこまで、大きな争いではないのと相手に優秀な感知型がいるのが理由だってさ。謙遜だよね」
ヤナダは答えながら、手を止めていた課題を再開する。
「ハルキ君同様に、相手の隙があるところが視えるってことかな?」
「そうだね。同様かもだけど、ハルキがいると対処されるってことはハルキの能力よりは格下」
きっぱり言いのけるヤナダは本当にハルキを大きく評価している。
ひと段落した課題。勉強会はお開きにし、「また明日。おやすみ」と告げてその場を後にした。
コウキは寮に戻りながら、窓から写る夜空見ながら自室へ帰った。
***************
コウキはふと目覚めた。
窓の外は、まだ薄暗い。二度寝をするには、気分が乗らずそのまま起きていることにした。
自室では、暇な為に食堂の方へ向かう。
「静かだな…」
食堂を覗くとそこには、肩に手ぬぐいをかけたハルキがいた。
すぐにハルキはこちらを向いた。
「コウキ、おはよう。早いね」
机には、書類と食べ終えた後のお皿、飲みかけの水。
「ハルキ君こそ、まだ夜明けなのに…早いね…」
詰まった話し方で話すコウキ。
「どうしたの?」
「え、あの、ハルキ君は四年前事件を…」
ハルキは隣にどうぞ、と言って横の席に手招く。
「四年前…ああ、それがヤナダと喧嘩になったっていう火種かな」
「え?あっそうなんだよね…配慮が足らないって…あ」
しまったという顔を浮かべてハルキの顔を伺うが、怒ったり、困ったりするわけでもなく、優しい顔をしていた。
「確かに、配慮がなかったね。特にヤナダは誰よりも気遣い屋さんだからね」
その言葉に胸がチクリと音がしたような気がした。心が少し曇ったような気持ちだ。
「うん。最初から気にかけてくれて…仲直りできてよかった」
少し顔色を伺うような視線を向けられたように感じた。
「そうだね。僕もヤナダから相談を受けていたから、仲直りできてよかったよ」
気遣い屋さんといえば、ハルキもそうだと思った。
でも、それは心の中で呟くだけだった。
二人の会話に少しの静寂ができた。
「そろそろ、人が来る頃だね。僕は部屋に一度戻るよ」
またあとでね、と言い、ハルキが食堂を出ると彼の代わりと言わんばかりに数人かが入ってきた。
食堂は賑わい始める。同年齢ではなく、指令室の人や先生たちが多い。
まだ陽が昇り始めたばかりだからだろう。
***************
***************
「あ、ヤナダ君」
「やぁ、まだ寝ないの?」
広場でゆったりしていると、髪を濡らしたヤナダが現れた。
「うん。なんか、眠れなくてさ」
外を眺めながら言うと、ヤナダが隣に座る。
しばらく彼は無言でいた。一緒に外を眺めていたわけだが、彼はどこか上の空だった。
「…考えていたんだ」
ようやく口を開けたが、なんの脈絡のない言葉だった。
「?…何を?」
素朴に返すと、また少し間があった。
「高階級者だから、知らない。
知らないから、失礼な人だと終わるじゃなくて、知ってくれようとしてくる人がいるなら知ってもらうのが寄り添う為に必要なんじゃないかなって」
「え?」
聞きたいが聞けずにいた。踏み込んではダメなんだと、思って諦めようと努めていた。
今朝はハルキ君に会って、聞きたい気持ちでいた。
それを堪えての、まさかの展開だ。
「実はね。コウキに酷いこと言った後に、ハルキに相談したんだよね…」
今朝、確か彼も「相談にのった」と言っていた。
ハルキ君なら、もしかしたら答えてくれるかもと様子見ながら聞いたが、はぐらかすようにしたのは、これがあるためなのかと感じた。
「四年前の容疑者というより、反逆者だよね。そのこと知りたいだよね?」
「いいの?」
「将来、上官になるかもしれないだろう?それか、もっと上の方とか。もしそれになった時の為にも、知っていて欲しいだ」
大きく頷くと、それが可笑しかったのかヤナダ笑う。
二人は久しぶりにいや、初めて心のそこから笑い合った。
コウキは心が晴れたような気持ちになった。
「ヤキワスレに視察者が行くだろう?それに…
ヤナダが知る反逆者のことを話してもらった。
その聞いた話しを自分の中で改めてみた。
反逆者の話を聞くには、イセフさんのこと知っている必要があった。
イセフさんは高階級の中でも、上位の地位の持ち主だ。それだけではなく、彼は実力があった。
そんな彼は、すぐに上部の会議に参加できた。
低階級と共に訓練を受けたり、市民とも関わりを持ち、評判も良かった。
だから、批判などでることはなかった。例え、彼が15歳という若さでも…
市民や低階級の者に指導して、力を持つ者見抜いていったそうで。
指導者の地位も得た彼は、ヤキワスレの視察者となり、その土地に出向いた。
危険である、その土地を出向けたのは彼の実力の権限の強さからだった。
そして、彼は将来の反逆者を自国に招き入れた。
反逆者の実力は本物で多くの功績をだした。
でも、理由はわからないが不満があったのか、それとも、快楽殺人者だからか。
四年前、”彼女”は反逆を起こした。
犠牲者は二千もの優秀な兵士たち。
死傷者は多く。その後すぐに狙ったかのようにダクゼェアから兵士が襲ってきた。
傷ついていた兵士たちの防衛はままならず、勝利することができなかった。
四年前起きた事件はその反逆行為とダクゼェア襲撃事件だ。
ヤナダ君はもう一つ教えてくれた。
ハルキ君のことだ。
僕がまた「簡単にハルキ君に聞こうとしそうだったから、先に手を打っておくよ」ということらしい。
裏切る前、2年くらいだったか”彼女”はハルキを招き入れそうだ。
彼女に指導者、視察者の権限などなく、突然、連れてきて
「自分が連れてきたから、指導は私がする。手を出さないで」
と、言って虐待とも言える扱いをハルキにとったそうだ。
それ故にハルキが反逆を共に諮ったとは思われず済み、
そして、ハルキは僕らと関われるようになったそうだ。
彼女が死んだ日、安堵するハルキをみたそうだ。
ヤナダは「あの虐待で心が傷ついたと思うんだ。少し気を使ってあげてほしいんだ」
と最後にそう言い、遅い時間、僕たちはお開きにした。
ヤナダ:スズレとゼアとは長い付き合い。
体術を得意とするが、魔法は水を得意とする。
座学はC教室。簡単に言えば、中間辺りの成績である。
コウキと同じくらいの身長をしているが、実際は少し大きい。
髪色はこげ茶色である。