はじめまして、ヤナダですよ。
はじめて会う人に嫌われるなんて、当たり前なのかもしれない。そう思ってしまうような本を読んだ。でも、私は変えれるとも思う。きっかけがあれば、どんな立場であろうと変えれると思う。そのきっかけになれるといいのだけど…
『Yより』
食堂は閑散としていた。
もう時間も遅く、食べている人間もいない。
その食堂を後にして、ヤナダは廊下を歩くと見知った影が見えた。
「あ、ヤナダ。夕食、遅かったんだね」
「ハルキ」
「ん?どうしたの?」
疲れた表情のヤナダにハルキが心配そうに尋ねる。
心配されているとわかり、首を振りながら、「疲れただけ」と呟く。
「そう……そういえば、今日は参加できなくて悪かったね」
「…それだよ。ハルキいないからジャナは好き勝手するし、ゼアは新入りを取り込もうとするし、大変だったんだよ」
「ごめん」
ハルキの申し訳ない表情で謝罪を受けるが、腕にある書類を横目で見ればこっちが申し訳なくなる。
「いいんだよ。それより、多いね…」
ハルキは首をかしげるが、視線で悟ったのか「そうでもないよ」と呟く。
「お風呂には入った?」
なんの脈絡のない質問に戸惑いながら、横に首を振る。
「なら、少し取っ組み合いでもしようか。今日のこと聞かせて」
普段、周りの心を気遣って、こうしても、僕の心気遣ってくれる…
「お前だけだよ!本当に!ゼアはなんで、あんなに文句が多いの!?態度悪いの!?」
とりあえず、今日は許してほしい。忙しいの知ってるけど、今日はとことん愚痴を聞いてもらおう。
***************
「おはよう、コウキ」
「ヤナダ君、おはよう」
「準備運動終わった?」
「まだ…」
コウキが一枚の紙を見ながら、落ち込み気味で呟いている。
それを覗き、肩を軽く叩く。
「すぐ慣れるよ。それに…」
それは個人の鍛錬表が書かれている、その紙は今朝、管理担当者に渡されたものだろう。
管理は教室の編成や調査班に参加への許可を下すところではある。
だけど、このB教室では、教室の者だけで構成することが当たり前であんまり関与されない。
だから、関与されたは珍しいとか言われただろうな。
「実際に動くときは、基本は自分自身だからね。まぁ感知型と連携のが基本だけど」
「ヤナダ君は実践経験って、あるの?」
「うん。この教室は、みんなあるよ」
「え!?」
知っていただろうコウキが大声で驚いて、周りをキョロキョロと見ながら顔を赤くしたのに、僕はは少し笑ってしまった。ブツブツと小さな声で「いや、わかっていたんだけど…わかってたんだけど…」とコウキが呟いていると、ゼアが二人の近くにきた。
「おはよう、早いな。二人とも」
「あ、ゼア君、おはよう」
コウキの後にヤナダも挨拶を返すが、ゼアに少し近づいてコウキには聞こえない声で話をした。
「あんまりにも、昨日の雰囲気が悪かっただろうね。管理に関与されちゃったね」
「そうだな…。でも、ちょっと、言い合ったぐらいじゃねぇか」
「まぁ気をつけようよ」
「ああ」
コウキが二人の内緒話に入れず、複雑そうな顔を浮かべているとなにか思い出したかのような顔をした。
「ゼアくん、そういえば、管理の子に『喧嘩早いのそろそろ、治らないのかって聞いといて』って言われたんだけど」
名前は教えてくれなかった…、と最後に付け足すようにボソッと言うと、ゼアは誰かわかったらしく、面倒臭いと顔に書かれているような表情を浮かべている。僕も見当がついた。
「スズレちゃんだろうね。あ、管理の子ではないよ」
「あいつは感知型だから、管理の仕事を手伝ってるんだ。あと、出身が同じなだけだから」
バツの悪そうにゼアが付け足すように言う。
「えっと…付き合ってる子…?」
コウキが恐る恐る、見当違いなことを聞いてしまい、軽くゼアに叩かれてしまった。
「スズレちゃんは違うよ、ねぇ、ゼア」
僕はコウキにされたのとは比にならない酷く痛い蹴りが飛んできた。
***************
昼食食べながら、僕は協力戦での合わせの話をコウキにしていた。
「そういえば、コウキ。お前、慣れたか?」
それに突然、ゼアが話の邪魔をする。
「まだ二日だし、慣れてなくても仕方ないよ」
質問に補うように心配しなくていいよ、という意を込めた表情も浮かべるとコウキは安心した顔で小さく頷く。
「まぁまだか」と食べ終わったゼアが立つ。
「んじゃ、俺、先行くな」
二人でゼアを目だけで見送る。コウキは手を振っていたけれど。
「そういえば、ハルキくん。来なかったね」
コウキが思い出したかのように言うので、種明かしでもしてよろうという気持ちに僕はなった。
周りの人らには聞こえない、小さな声でコウキに教えた。
「…実はさ、来れないって聞いてて。あ、昨夜ね。でも、管理棟になんとかして、今朝の鍛錬表を管理からってことにしてくれるように手配してくれたんだよね。ハルキ」
あんまり脈絡のないことが言ったせいか、最初はコウキは目を丸くしていたが理解したようだ。
「そうだったんだ。早く会いたかったのが本音なんだけど…。昨日の雰囲気は確かに嫌かも」
「でしょ!あ、明日は来れるってさ」
「そっか!よかった」
食堂が少し騒ついているように、二人は感じた。その騒ぐ理由になった人物がコウキの後ろを見て、次は僕が目を丸くした。
「やぁコウキ君、B教室は馴染めたかい?」
「イセフさん!!」
コウキが後ろを向くより、早く僕がその場に立って、名前を叫ぶかのように呼んだ。
周りもボソボソとだが、嬉しそうに「イセフさんだ」と各々で言っている。
「ヤナダ、元気そうでなによりだよ。それで、コウキくんはどう?」
イセフと呼ばれた、その人は高階級で人望が厚く、顔も凛々しく、整っていてる。
女子にも、本当に、人気で、その上、まだ若いのに上層部の大臣の位の一人。高階級で下階級の教室に混じるコウキだ、きっと彼も憧れだろう。
「だ、だいじょうぶです!問題ないで…問題よね…?ヤナダくん、どう思う…」
「問題ないですよ!いや、コウキならすぐに慣れると思います!」
思った以上にテンパっているコウキに上手く手助けしてやろうと親指を立てて、大きく縦に首を振ってやる。
「ヤナダがいうなら安心だな。まぁ、よかった。じゃ、また見に行くよ」
イセフはその場を後にしながら、周りと人らの言葉を返し、姿が見えなくなった。
「どうしよう!イセフさんに話掛けて貰ったよ!」
「え、あ、そうか。B教室には割と見に来てくれんだよ」
こっちも久しぶりにイセフさんにあって高揚しているが、それ以上にコウキが興奮していて、なんとも嬉しそうな顔するものだから、意地悪い言い方だが、面白かった。
「そうなの!?」
僕もコウキも、やや興奮気味に会話する。
話に熱が入り、イセフさん素晴らしさについて二人で語った。
午後の座学は二人とも遅れた。
***************
授業の終わりを告げる鐘がなる。
それと、同時に教室を出る。
「あ、スズレちゃん。B教室、今日は珍しく早かったんだね」
「ああ、ヤナダ君。管理の仕事を増やすようなこと、とハルキ君の仕事を増やすようなことは、やめてよね」
呆れ顔で言うが、これは彼女の通常であり、本気で呆れているもしくは怒っているわけではない。
常に冷静に冷静な判断を告げるのが彼女のらしさだ。
「いや、ごめんね。僕もゼアにはまいちゃっててね」
僕がハハッと笑うと同時にゼアの拳が背中に命中した。
「ほどほどにね」
助けてくれるとは思っていないが、若干冷たいのが彼女らしい。
だが、助けてほしいのが本音だ。
「何がほどほどだよ。座学の成績がいいだけの奴が」
「スズレちゃんは優秀な感知型だし、前線で戦うわけじゃないだがらさ」
僕は多分、ゼアの怒りの逆鱗に触れるのが特技なんだろう。
ついうっかり、言ってしまう。
”優秀な感知型”と”前線”で思い浮かばせてしまうのだ。
「あ?ハルキはどうなんだよ!?」
ほらね。
今日もいい音が響きます。
B教室の授業で始まる者対象の時間割
朝 (6:30 食堂が開く)
8:30 魔法・体術・剣術などの鍛錬
昼 (12:30 昼食休憩)
13:40 座学授業開始
午後授業開始時刻はどの教室も同じである。
3教室の授業で始まる者対象の時間割
13:40 座学授業開始
16:40 座学授業終了
座学授業の終了時刻は3・4教室は同じである。
座学終了からは自由活動である。
夜 (食堂は21:30まである)
B教室に属す者は鍛錬場自由に出入りが可。
他の水準教室は使用する鍛錬場ごとに署名により、許可が下りた者のみの使用を許可されている。
(成績の悪い、水準より下になったなどの者を優先に使用をさせるためである。)
ここは魔法や鍛えることが主ではない。ここは兵士、司令官などの育成する場である。そして、魔法水準が規定以上の者だけがこの学び舎に入学を許可している。
*今回はヤナダ視点なので、ヤナダのB-3教室を時間割化してみた。