2-023
◇
窓ガラスから漏れ出る月光が、室内を淡く照らし出していた。
俺は身に纏う装備品を確認し、ベッドの上に置いていた【砂上の傷跡】を手に取る。
刀身と柄全てが漆黒に彩られた《魔剣》は、月の光を受けながら鈍色に輝いている。
ミリアとヴェイルはすでに商人ギルドの警備へ向かっており、俺は今『白鷹の止まり木亭』の借りた部屋の中で装備を確認している最中だ。
狙うはただ一つ。商人ギルドの倉庫内にある《魔剣》、【結実の徒花】。
魔女から言い渡された対価―――その依頼を達成するために。
と、部屋の扉がコンコン、と叩かれる。もしや、宿のオーナーであるリリィが来たのかと警戒するが、扉の向こうから聞こえてきた声に警戒を解いた。
「おにーさん、ちょっといいかな?」
アインの声だ。
俺は扉を少し開けて、アインの顔を確認する。にこりと笑った本当の『魔剣商人』を、俺は室内へと招き入れた。
頼んでおいたことを確認してきてくれたのだろう。俺は、アインに背を向けながらその結果を確認する。
「どうだった?」
「うん、竜を喚ぶ《魔剣》だけど、ボクが持っている《魔剣》の中にはないよ。……それに、ボクも初めて聞いたよ。竜を喚ぶ力を持つ《魔剣》なんてさ」
「お前でさえも分からないのか」
「分からない、というより……そんな力を持つ《魔剣》、考えられないんだよね」
意味深なセリフを言ったアインに、俺は思わず振り返った。
「考えられない?どういうことだ?」
「そもそも、《魔剣》っていうのは、『矛盾』っていう力を媒介にして有り得ない事象を世界に発現させるモノなんだ。だけど、竜を喚ぶ程度の力を持つモノを《魔剣》だなんて呼ばないんだよ」
「程度……ってお前、竜を呼ぶ力があれば、あらゆる国を崩壊させることも可能なんだぞ?」
程度、などと言ったアインの言葉に驚きを隠せない。
竜を喚び、操る力を持つ《魔剣》があれば、世界に存在するあらゆる国を一方的に蹂躙することも可能だ。
そんな強力な力を、程度などと言うアインが信じられなかった。
「そもそもこの世界には『使い魔』と呼ばれる召喚魔法も存在する。ボクやおにーさんが魔女と契約している魔法のパスも、その魔法を元にしているんだ。つまり―――」
つまり、竜という存在を『使い魔』というパスで繋ぐことも不可能ではない、と。
『使い魔』は、召喚魔法と呼ばれる魔法によって従者の契約を与えられた生命体を意味している。
常に契約者に隷属し、召喚者の補助を行う存在だ。
「竜を喚ぶ力が、そもそも『矛盾』じゃないってことか」
「その通り。だからね、竜を操り、呼び寄せる《魔剣》なんて存在するはずがないんだよ」
それならば、クロスリードに現れた竜は、何らかの目的を持ってこの都市に出現しているということになる。
だが、その結論も何か引っかかるような気がした。
「……何か釈然としないな。それじゃあ竜がこの都市に出現している理由が存在しない」
竜は知性を持っている。クロスリードに現れている理由が見当たらない。
なにかしらの意味を持って現れている、と考えていいとは思うが……その意味は当人……いや、当竜に訊かなければ分からないだろう。
この案件は保留にする、とアインに伝える。後でローガンに報告することにして、今は目の前の仕事に専念するべきだ。
「……おにーさん。後もう一つあるんだけど……」
何か含みを持ったアインの言葉に、俺はその様子を確認する。
「【結実の徒花】なんだけど、あの《魔剣》、妙な違和感があるんだ」
「違和感?」
はっきりとしない言い回しに、俺は首を傾げる。
「あのメイドさんが、【結実の徒花】には治癒の力があるって言ってたじゃない。確かにミリアさんと同質の力を持っているのなら、とてつもない歪みを持つはずなんだけど……歪みが小さすぎる」
矛盾の歪みが、小さい?
アインのみが感じ取れる、『矛盾』という力の歪み。
魔女はミリアの治癒の力を「世界には存在し得ない力」と言っていた。もし、その治癒の力と同じ力を持つ《魔剣》ならば、その『矛盾』も極大のものになるはずだ。
「魔女から【結実の徒花】の回収を依頼されたのは、世界に与える『矛盾』の影響が大きいからって思ってたんだけど、どうにもおかしいんだよね」
「あの魔女も、何を考えてるか分からないからな……」
どうせ、俺の苦労をあの領域で楽しく見ているんだろう。
頭を掻いて、俺は【砂上の傷跡】を腰に差す。
「まあいい、つまるところ、俺が【結実の徒花】を回収すれば、お前の疑問も解消するってことだろ?」
「そうだったらいいんだけど……今から行くんだよね?」
「ああ、そろそろ頃合いだな。あの商人ギルドの女には悪いが、さっさと盗んで終わりにする」
その言葉に、アインは苦笑した。……俺が特別悪いとも思っていないことを察している。
「じゃあボクは、リリィさんに夜食でも用意してもらって待ってようかな。ミリアさんとおじさんは警備中なんでしょ?」
ミリアは事情を分かってるから、俺を見かけても見逃してくれるだろうが、おっさんと鉢合わせた場合、面倒なことになるか。
「まあ、問題ないだろ。侵入ルートは確保してるからな」
腰に差した【砂上の傷跡】を抜いて、目の前に掲げる。
鈍色に黒く輝く刀身。その輝きに、一切の衰えはない。
「また後でな。俺の夜食も取っといてくれよ」
軽い冗談に、アインは微笑んだ。
「夜食についてはリリィさんに頼んでおくよ。油断はしちゃだめだからね。……っていっても、おにーさんにはいらない言葉か」
にこにこと微笑むアインに苦笑しながら、俺は【砂上の傷跡】の『矛盾』を開放する。
視界が剥離し、千切れた紙切れと炎に包まれるような周囲の異常が発現していく。
視界の先のアインが手を振っているのが見えた後、俺の存在は別の場所へと移っていた。
【砂上の傷跡】。
空間を超える力を持つ《魔剣》。
その力の根源は『信頼』と『認識』。
ミリアと共に歩んだ場所に瞬時に転移するこの力は、その途中に壁や扉、岩などの障害があっても安々と突破してしまう。
クロスリードに着く前にこの《魔剣》の力を確認してみると、次のことが分かった。
一つ。転移できるのは、その場所を歩んでから一週間以内であること。
二つ。ミリアと歩んだ場所ならば、力を開放するときにミリアがいなくとも発現させることができる。
三つ。転移する場所に人やモノが存在する場合、転移することができない。
確かに、俺はこの《魔剣》を『理解』しているが、全ての力を把握しているわけではない。
俺が把握している力は、「空間転移」と「幻術耐性」である。
魔女がエトワール大森林に展開していた霧の幻影結界―――彼女が言うには、『絶霧迷宮』という魔法らしいが―――その効力は、【砂上の傷跡】にとって無力に等しいものだった。
空間認識を狂わせ、周囲の視界を奪う霧の結界。それでも、空間を掌握する【砂上の傷跡】は、その結界をたやすく斬り捨てる。
それは、適性者である俺にも適用されるルールであり、【砂上の傷跡】を持っている限り、俺に幻術や結界の類は通用しないし、その力を看破することができる。
つまるところ―――
切り替わった視界に視線がぶれる。
窓一つ無い部屋の中は暗闇に満ちていて、すぐに視覚の鋭敏化を行った。
商人ギルド倉庫、その中にある骨董品の数々が、明瞭な視界に映っていた。
次の瞬間。
部屋の中で発現された視覚鋭敏化の魔法に、魔術結界と迎撃魔法が起動する。部屋の中に、ボッ!という音がすると、空間内に無数の赤い光点が出現した。
それは侵入者である俺を認識すると、こちらへと収束する。
一つの輝きで相手の神経系に痛烈な刺激を与える、痛覚干渉の迎撃結界。だが、その魔法は俺の体に触れるか触れないかのところで、火が掻き消えるような音とともに消失した。
【砂上の傷跡】が成す、空間に作用する力全てを無力化する異端の能力。
魔術結界および迎撃魔法は、空間にあらかじめ仕組んでおく魔法だ。『空間』を支配する【砂上の傷跡】に、下位の力が及ぶはずがない。
「ったく……なんだかんだで便利だな《魔剣》ってやつは」
静穏を取り戻した室内で、俺はやれやれと独りごちる。
【朔夜の影絵】もそうだが、錬金術によって精錬されるような護符や、『勁き炎護』のように対象に抵抗力を持たせるような魔法を使用しなくとも、こんな馬鹿げた力を発現させるのだから、《魔剣》というのは本当に恐ろしい。
一度深呼吸をして、鼻の先にある一つの骨董品に俺は近寄った。
黄金の装飾、無数の小さなダイヤモンドが丁寧に嵌められており、これだけでも相当な価値を持っていることが窺い知れる。
……魔女から回収を依頼されたはいいが、なぜ、この《魔剣》を回収しなければいけないのか、ということを今更考える。
依頼という命令のため致し方ないとは思うが、それでもこの《魔剣》を回収する理由が見当たらない。
アインが言っていた、『矛盾』が小さい、という言葉。
商人ギルドのメイドが言っていた、治癒の力を持つ、という言葉。
その二つが、《魔剣》が内包する『矛盾』をも負けないような『矛盾』を内包しているのだから。
アインからこの《魔剣》を渡すことになるとは思うが、その理由についてひとつ魔女に確認したい気持ちだ。
だが、魔女が自身の領域に俺を向かい入れる可能性があるとは思えず―――
「……まあ、結局はあの魔女次第ってことになるんだろうな」
あの魔女、本当に性根が腐っている。
自分に都合の悪いことは決して口に出さないために、頭の中で何を考えているのかアインも含めて俺も理解することができないのだ。
はぁ、とため息を吐いて、俺は目の前にある《魔剣》に手を伸ばした。
が。
ぞわり、と背筋が粟立った。それは背筋から離れず、ずっとこびり付いたまま俺に危険信号を伝えてきた。
確かに今、殺気のようなものを感じた。
なんだ、と周囲を見渡すが、特に異常はない。
異常は、ない。
更に増していく強烈な殺気に、ある種の確信と予兆のようなものを感じて左目の呪いを発現した。
周囲を見渡す。
薄く空間を漂う紫の魔力。
骨董品に内包された、魔力の輝き。
【結実の徒花】が内包する漆黒の闇。
左手側の壁からじわりと漏れ出す、深い深い暗闇の侵蝕。
「―――!!」
脳内で鳴り響いた警鐘が本能を刺激し、俺の体を後方へと下がらせる。
その刹那。
体を震わせるような大轟音が、部屋の中に木霊した。
壁が何かの力によって破砕し、部屋中を瓦礫と砂煙が舞い踊る。
部屋の中を縦断した何かは右の壁をも悉く崩壊させ、人が複数人通れるような大穴が出来上がった。
崩壊した壁の直線に遺る、ゆらゆらと揺らめく青い火炎。
一体、何が起こった。
盗賊稼業を慣れ親しんだために、侵入先では口を開かないようにしているのが功を奏したのか、目の前で起こった謎の破壊に無様に喚き立てるようなことはなかった。
なかった、が。
恐ろしいほどの破壊力だった。ドでかく空いた大穴の先を恐る恐る確認してみると、この倉庫に至るまでの通路や部屋の壁全てを破壊されている。
その先に佇む、二人の人物。
片方は自分の身長よりも少し小さい弓をこちらへ向けており、もう一人の人物は、両手に短剣らしきものを携えている。
その姿に、俺は驚愕した。
たった今この破壊をもたらしたのは、先にいる二人の人物に違いない。
だがそれ以上に。
この破壊をもたらしたのは、おそらく片方の人物が構えている弓の力であるという事実。
―――盗賊か!?
硬直している俺の姿を見て、謎の人物の動きがピタリと制止した。
「……貴様、何者だッ!」
ローブを被った片方の人物の声は低い。俺の黒一色の姿に、全てを察したようだった。
「盗賊!?まさか、【結実の徒花】を奪いに来たか……!?貴様のような愚か者に、その王冠は渡さんぞッッ!!!」
短剣を構え、恐るべきスピードで接近してくる。見れば、四肢に緑光が纏わり付いていた。間違いない、あの男、風系統の強化魔法を行使している。
「―――ちっ!」
盗賊という立場上、こういうときは逃げるのが当たり前なのだが、【結実の徒花】をここで逃すわけにはいかない。
驚異の速さで振るわれる二刀の短剣を、俺は懐から取り出した【砂上の傷跡】で応戦する。
一撃をいなし、二撃を弾く。三撃目を躱して、四撃目の攻撃は弾き返した。
四方八方に振るわれる二刀に、俺は防ぐことしかできない。
【砂上の傷跡】の転移はおよそ一秒ほどだが、これほどまでの速さで攻撃されては、力を発現する隙がない。
「ふんっ!!」
そんな考え事をしていたからか、両手の短剣に集中しすぎたか、男が俺の足元を払った。
横に倒れそうになる体をなんとか持ち直そうとして、体勢が崩れる。
「!!?」
「どうだっ!!」
両手の短剣が、俺の首元を狙って突き出される。
恐るべき一撃。だが俺は―――
「―――シッ!!」
そのまま体勢を崩しながら、相手の腰よりも深く体を落とし、相手の踵を斬り裂こうと【砂上の傷跡】を突き出した。
一瞬。
横から迫りつつある脅威を感じて、肉体の強化によって成せる体の強制的な移動で、その場から退避した。
元いた場所に突き刺される、青い炎の塊。
横を見れば、弓を構えたままの状態を維持しているもう一人のローブを纏った人物の姿。
―――遠距離からの援護か。
状況は二対一。しかも、盗賊の二人組の方も相当な手練だ。二刀だけでも難しいのに、その立ち姿に隙はない。
この男と戦えば、遠距離からの攻撃を回避する暇がない。
しかも、あの弓。妙な矢を放っている。矢ではなく―――炎。
青の炎が室内を淡く照らし出す。そして、その炎の周囲の変化に、俺は瞠目した。
床が凍りついている。
炎は床を侵しながら、その周囲を凍てつかせている。火炎で延焼する床は、その延焼に従って白い霜が降り始めていた。
魔法でもない。マジックアイテムでもない。あの武器は。あの弓は。
「……ッ!!《魔剣》だとッ!?」
「―――おおおおおおッッ!!」
二刀を振り払う力と、突進力によって、防御した俺の体が後方に飛んだ。そのまま周囲にある骨董品をなぎ倒しながら地面に打ち付けられる。
「ぐっ……こ、の……!!」
がらがらと崩れる骨董品と瓦礫に埋もれながら、なんとか体を起き上がらせた。肉体の強化をしているためダメージは少ない。
が、こんな戦いを繰り広げている間に、屋敷内の様子は変わっていく。
遠くから、複数の人物が走っている音と怒声が聞こえてくる。この屋敷の警備兵と……おそらくミリアたちも含まれているだろう。
早く脱出しなければ、面倒なことになるのは明らかだ。
目の前で仁王立ちしている男もその音が聞こえたのか、俺を見下ろしながら口を開く。
「貴様のような愚か者は殺してやりたいが……そんな暇はないようだ」
そう言うと、後ろにあった【結実の徒花】を手に取った。
このままでは……《魔剣》を盗られる。
「待てッ!!」
「賊めが……私たちの宝を奪おうなど、女神イシュリンデもお許しにはならんだろう」
―――イシュリンデ?
その名を、俺はどこかで聞いた気がした。
かつて、親父と旅をしていたとき……どこかでその神の名前を。
信仰心が深く、神に誓って絶対の正義を成す。
高潔で、プライドの高い種族の神。
まさか。まさかこいつらは―――
勝ち誇ったようにかろうじて露出している口元に笑みを浮かべた男の言葉は、すぐに掻き消された。
発砲音が空間を轟く。
その音の方向へ顔を動かした男の目の前で、赤い輝きが瞬いた。その光は肥大化したと思うと、爆炎となって周囲に拡散し、黒煙を発生させる。
男は顔を覆いながら黒煙を振り払い、煤で汚れたローブを翻しながら、目の前に現れた脅威に歯噛みした。
「……なん……これはッ!!!」
「いやぁー遅くなっちゃったけど、ギリギリ間に合った感じかね」
「き、貴様……ッ!」
忌々しそうに立ち尽くす男の目の前には、色素の抜け落ちた癖のある灰色の髪を頭の後ろで括り付けた人物が。
ヴェイルは、気だるそうな表情をしながら盗賊の男に【変幻なる真理】の銃口を突きつけている。
と、俺とローブの男の姿を視認して、はて、とでもいうように首をこてんと傾げた。
「ってあれ、なんか変なことになってる?仲間割れ……っていうか、盗賊お二人?」
「魔剣商人の私兵か……!!チッ!!面倒な……!!」
「あーまあいいや。ふたりとも捕まえれば良い感じよね?よし、じゃあその場を動か―――」
「後は任せたぞ!!」
ヴェイルの警告は途中で断ち切られ、ローブの男は片腕に持っていた【結実の徒花】を、遠くで弓を構えていた仲間の一人に投げつけた。
筋力強化によって、直線状に凄まじい速さで投擲された【結実の徒花】は、もう一人のローブの人物に器用にキャッチされた。
ローブの男の言葉を聞いたもう一人の人物は、その場を後にして逃走を開始する。
「くそっ……!!待て―――!!」
「おおっと、待ってよー。ちゃんと人の話聞くべきよー?動いたら爆発しちゃうからね?動いちゃダメだからね?」
おっさんの言葉に、俺は舌打ちした。
こういうときに限って仕事をちゃんとするとは、面倒なことこの上ない。
俺は仕方なく、手に握っていた【砂上の傷跡】の力を具現化させる。視界が歪みながら、驚きで目を見開くおっさんの姿を確認したが……今はそんなことどうでもいい。
発現した異常の後、俺はギルド前の入り口に姿を現した。
ミリアとおっさんにあの盗賊の男の対応を任せることにして、【結実の徒花】をなんとしても回収しなければいけない。
俺は、逃走したもう一人のローブの人物の方向へ追跡を開始する。
―――いた。
屋根の上を伝いながら、クロスリードから逃走しようとしている後ろ姿。
俺はすぐに肉体強化の魔法を施して、その後ろを追跡する。
風系統の強化を施しているというのに、目の前を走るローブの人物に追いつくことができない。
肉体強化の他に、妙な魔法を併用している?
なんとか突き放されないように追跡するが、ローブの人物も俺が後ろをつけてきたことに気付いている。
やがて、クロスリードの外壁にたどり着いたが、それでもローブを纏った人物は、逃走をやめない。
壁の近くにあった家の屋根の上で一度立ち止まったかと思ったら、なんと外壁をそのまま飛び越えてしまった。
「逃がすかッ―――!!!」
俺もすぐに外壁を飛び越えて、着地しようとする―――が。
その先ですでに、上空に向かって弓を構えている。
「―――ッ!!」
俺は【砂上の傷跡】の力を発現させ、中空からこの場所に近い地点に転移を行う。
上空から掻き消えた俺に一瞬怯んだようだったが、背中にかけた袋の中に【結実の徒花】をしまい込み、またもや逃走を開始した。