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義賊のマテリア  作者: 夕日
矛盾の一矢
83/102

2-016


「まさか魔剣商人サマがこの都市に来てるたぁ思いもしなかったぜ。なぁお前ら?」


後ろに控えている男たちが、リーダー格の男を持ち上げて笑い声を上げた。

どうやら、この受付員との会話を盗み聞きしていたようだ。

餌として釣り上げる対象が、こういう奴らを含むからこそミリアを遠ざけようとしたのだ。


「気安く肩を触るな。お前たちと関わっている暇はない。失せろ」


「ああ?それが日々の暮らしを守ってる冒険者にかけるセリフかよ?」


「挨拶の方法も知らない冒険者なんて、依頼人に切り捨てられるのがオチだろう。まずは名乗ったらどうだ」


俺の言葉に、男の眉がピクリと動く。


「テメェこそ、ちゃんと分かってんだろうな?魔剣商人がクロスリードをめちゃくちゃにしたのは、この都市にいる奴ら全員が知ってんだよ」


―――この都市を、めちゃくちゃにした?

その言葉を聞いて、頭を抱えそうになった。親父がクロスリードに来るのを嫌がっていた理由を、なんとなく察してしまったからだ。


「悪いが、俺は二代目なんでな。初代の魔剣商人がしでかしたことを俺が償う理由はない」


男が舌打ちする。が、その後ニタリと厭らしい笑みを浮かべる。


「まあ、ンなことどうでもいいんだ。わざわざテメェがこの冒険者ギルドにおいで下さったんだ。俺が言いたいことは分かってんだろ?」


「断る」


俺の即答に、男は一瞬呆気に取られた表情を見せる。


「テメェ―――」


「お前らにやる《魔剣》はない。そもそも、《魔剣》を扱えるとは到底思えない。お引き取り願おうか」


「ふざけんなッ!!テメェがギルド長に秘密裏に《魔剣》を渡そうとしてることは知ってんだぞ!!それを公にされたくなかったらさっさと《魔剣》を―――」


「秘密裏に《魔剣》を取引だと?そこまで頭の中が空っぽなのか。秘密裏に取引するっていうんなら、こんな場所にわざわざ来る必要がない。お前らみたいな乞食共に出くわすからな」


「て、めぇ―――!!」


男の顔が怒りで歪む。俺たちの喧嘩をそわそわとしながら眺めている受付員の少女も、どうするべきか悩んでいるようだ。

馬鹿共に付き合うのはうんざりだ。俺はミリアに声をかけようと後ろを振り向いたが、そこでヴェイルがミリアに何かを囁いているようだった。

と、なぜかミリアが覚悟を決めたような目をこちらを見て、頷く。

……一体、何を言われた?


「はいはい、喧嘩はダメよー?喧嘩はね?」


にこやかな表情で、ヴェイルが割り込んでくる。嫌な予感に、俺はヴェイルに囁く。


「おい、おっさん。何か面倒なことを……」


「ここで、お兄さんが提案ね。題して、『《魔剣》貰えるかな?第一回、魔剣商人との決闘大会』!!!……ってね?」


―――このおっさん、本当に殺す。


「ルールは簡単。オレたち護衛二人プラス少年一人対冒険者様御一行四人の決闘をやる。もちろんこっちは《魔剣》を使わないよー。普通に剣と魔法で勝負。これでオレたちが君たちに負けたら、《魔剣》をいくらでもあげる。いい話っしょ?」


「おっさん!勝手に決めるんじゃない!」


「そんなこと言っても、お姫さんはやる気満々だよ?」


と、ミリアが俺の傍らに立って苦笑気味に微笑んだ。


「私の魔法修練にぴったりだから、とヴェイルが。私はそれに賛成です。アルトを守れないと、護衛としては半人前ですから」


先程あの少女に言ったことを現実にするために、この場をもって証明するということか。

だがそれでも賛成などできない。


「正気じゃない!いいか、相手は腐っても冒険者だ。戦いを知らないお前が熟練者との決闘なんて……」


「少年、それ本気で言ってる?」


「おっさんは黙ってろ!いいか、決闘だといってもその延長線状は殺し合いだ。ミリアをそんなことに巻き込むわけにはいかない」


「少年、お姫さんの覚悟は聞いたんでしょ?それなら、お姫さんをバカにするのは許されないっしょー」


「な、に言ってんだ……俺はバカになんて……」


「してるよー。なんにも出来ない無能の護衛ってさ」


ヴェイルの言葉に息を呑む。

……ああ、俺はまた無意識に……


「お姫さんのこと、信じてやらなきゃねぇ。すっごい努力家よ、少年が過保護に守ろうとしてるお姫さんは」


俺はミリアへと顔を向ける。その視線にミリアは笑顔で頷いた。


「話はまとまったかよ、魔剣商人。俺たちはそれで問題ねぇ。どうやらそっちにいる護衛の一人は役立たずみてぇだがな、俺たちをバカにしたことも含めて、本気で行かせてもらうぜ。冒険者ギルド前の広場で待ってるから逃げんじゃねぇぞ、クソガキ」


仲間たちとゲラゲラと笑い声を上げながら、仲間を引き連れてギルド前の広場へと向かっていく。

俺たちの様子を見ていた冒険者たちが、興味ありげに話し出すのが聞こえた。


―――おい、魔剣商人だってよ。


―――魔剣商人?本物なのか?


―――魔剣をかけての決闘か。良い見世物だ、見に行こうぜ。


―――酒とつまみ持って観戦だ。


喧騒に潜む、無自覚の悪意。


「ち、ちょっと待って下さい!決闘なんて、許可できません!」


俺たちが一旦落ち着いたのを見て、少女が声をかけてくる。焦りの表情を隠しきれずに、書類を持ったままどうしよう、どうしようと呟くのが聞こえた。


「……ローガンを待つまで、いい暇つぶしだ」


「なに言ってるんですかっ!都市内で騒ぎを起こすと後々面倒なことになるんですよ!?あの人達、先日Bランクに昇格した冒険者なんです。いくらなんでもそんな相手と……人数だって不利ですよね?そ、それに……ミリアさんはそこまで戦い慣れていないんですよね?」


あいつら、あんなナリでもBランク冒険者だったのか。

最低ランクがDとして、Bランク冒険者は凶暴な魔物を相手にできる一級の冒険者だ。そんな奴らに、数で劣っている自分たちが勝てるわけないと思っているのだろう。

少女からの質問に、ミリアははい、と肯定する。


「対人の戦いはあまり……クロスリードまで来る前に低級の魔物と戦うことはありましたが、それぐらいですね。それに、初級の定式魔法しか使えなくて」


それを聞いた少女の顔色が、真っ青になっていく。

まあ、当たり前の反応だ。Bランクの冒険者に、初級の定式魔法など効くはずがない。


「け、決闘はダメです!ローガンさんが来るまで待機を――」


「はいはい、分かった分かった。じゃあお姉さんには、決闘の判定をお願いしようかなー?」


「私の話聞いてました!?決闘はダメだって言ったんですよ!?」


「はいはいーじゃあ一緒に行こうねー」


「ちょ……無理やり……やめてくだっ……!」


両肩に手を置かれた少女が、小さな悲鳴を上げながらギルド前の広場に連れて行かれるのを見届けて、俺はミリアへと近寄った。


「ミリア、俺が援護する、だから――」


「いいえ、援護は必要ありません。アルトは、絶対に私より前に出たらダメですよ!護衛の意味がなくなっちゃいますから」


「……相手は手練の冒険者だ。いくらなんでも、初級の定式魔法しか使えないお前が活躍なんて……」


と、そこでミリアが俺の額に手を置いた。なんだ、と思ったら、次の瞬間、額に衝撃が走る。

むーっと口元を引き結んだミリアに、どうやら額を中指で弾かれたらしい。


「いいですか、初級の定式魔法だから勝てない、なんて道理は絶対にありません。絶対にアルトにいいところ見せますからね!」


ぷんぷんと怒りながら、そのままギルドの入り口へと足を進めていく。

額を押さえながら、俺はため息をつきそうになった。


―――また、怒らせてしまったか。


援護しようにも、もし決闘に介入でもしたら、今後口を効いてくれなくなるかもしれない。

憂鬱になりながらも、俺はミリアに続いてギルド前の広場に向かうことにした。

……おっさんの思い通りになっていて、なんともやるせない気持ちになってくる。



およそ十分。

たったそれだけで、広場前は冒険者たちの大群衆に取り囲まれていた。

その中心には、俺たち魔剣商人御一行と、Bランクの冒険者四人組。

そして、その向かい合う距離の間に、ギルド受付員の少女が涙目になりながら立っている。


いままさに、決闘が始まるところだ。


あの少女に、悪いことをしているなぁ、と俺も胸中穏やかではないが、平静を取り戻そうと取り留めのないことを考えてみる。


「良い見世物になるぜ!なあ、魔剣商人サマよぉ!」


対峙している冒険者の男が、声を張り上げて俺を挑発する。

片手に持っているのは、鈍色に光る刀身を持ったブロードソードだ。その他の冒険者は斧が一人、魔法の触媒となる背丈の半分程の杖が一人、残る一人は短剣だ。

なるほど、自分のやるべきことを考えて武器を持っている。腐ってもBランクの冒険者だけのことはあるか。


「はいはい、挑発も喧嘩もなし。じゃあルールの確認ねー」


と、ヴェイルがコートの内ポケットから何かを取り出した。見ると、宝石のように赤く輝く角錐の結晶だ。

何か小さく呟いたと思ったら、その輝きが空間に拡散する。すると、所持している武器と自身の体に白色の光が纏わり付いた。

強化魔法を封じ込めたマジックアイテムか。


「《勁き炎護(エンチャント・フレイム)》の防御効果を武器と体に付加させたから、まあ致命傷になるような傷は受けないよー。さてと、じゃあ決闘のルールだけど、全員を降参させるか気絶させた方の勝利っていう簡単なルールでいいよね?もちろん、マジックアイテムとか《魔剣》の使用はなし。正々堂々と行こうー」


そのルールを聞いた冒険者の男たちが笑い声をあげる。


「構わねぇさ!こんな簡単に《魔剣》が手に入るんだ。さっさと始めようじゃねぇか!」


―――いや、ちょっと待て、そのルールは……。


「おい、おっさん!」


「もーなによ少年。まだ何か言いたいことがあるん?」


「当たり前だろ!マジックアイテムと《魔剣》を禁止したら、ミリアはともかく、おっさんは武器を持てなくなるだろ!」


「え?もちろんそうだよー。素手で戦うに決まってるじゃんー」


能天気とか言うレベルじゃない。このおっさんの考えていることが全く理解できない。

相手はBランク冒険者。それを武器なしで戦おうというのだ。通常では有り得ない。


「―――ッ!!俺の短剣を貸してやるから、さっさと構えろ!!」


「えーいいよー。少年はオレたちの後ろに下がっててねー。多分お姫さんの魔法に巻き添え食らうから」


「おっさん、アンタ……まさかミリア一人でッ!!」


「ちょっとちょっと、待ってよ。ちゃんと援護はするよ?お姫さんがどこまで一人で出来るか確かめるだけだからさ。もし危なくなったらオレも戦いに参加するし」


「ふざけるな!ミリア一人でBランクの冒険者四人に勝てると思ってんのか!?早く俺の短剣を持て!!」


「……少年さー、お姫さんが初級の定式魔法しか使えないから負けるって思ってるん?」


当たり前だろう。初級の定式魔法など、威力も著しく低い。

もちろん直撃すれば大きなダメージにはなるとは思うが、そもそも直撃させられない。

初級の定式魔法は、安定性こそあるが、発動するまでに一瞬のロスが発生する。それは詠唱後の魔法具現化のロスだ。発現する地点や軌道は、魔術詠唱後の行動で大体把握できてしまう。

睨み続ける俺の様子に、ヴェイルはため息を吐く。


「お姫さんはさ、そりゃ初級魔法しか使えないまだまだ未熟な魔術師だよ?でもそれはただ魔法を知ってるっていう意味ならの話」


「……知ってる、なら?」


「お姫さんの土台には、魔法学の知識があるっしょ?あんまり舐めてると、痛い目見るよー?」


ヴェイルは俺の肩をぽんと叩いて、片手を上げた。


「おーい、ギルドのお姉さ~ん。そろそろ初めていいよー?」


ブンブンと両腕を振るヴェイルに、少女は納得のいかなそうな表情のまま、大声を上げた。


「なんでこうなっちゃうのかなぁ……はぁ……。―――で、では、行きます」


一瞬の静寂。身構える冒険者と、詠唱行動に入るミリア、なんのモーションも起こさずに棒立ちのまま突っ立っているヴェイル。

そして、それを見ながら後ろで控える俺の、滑稽な姿だ。


広場を駆け抜ける風が戦い前の静けさを爽やかに凪ぎ、


「―――始めっ!」


―――決闘が始まった。


「『紅の魔弾よ!』」


一番最初の行動は、ミリアからだった。

右手の人差し指を虚空に突き立てて、短縮した詠唱を行った。指先から螺旋状に火の粉が集まり、拳大の火の玉となって撃ち出される。

『火弾』の魔法が目標目掛けて飛来するも、冒険者の男は面倒臭そうにブロードソードを払って火球を打ち消した。


「火の初級魔法たぁ本当に無能の護衛みたいだなぁ、魔剣商人サマぁ!」


四人全員が戦闘態勢に入り、こちらへと近づいてくる。


「『疾走れ、鮮烈なる炎蛇よ!』」


大きく広げた両腕を、魔力の軌跡を伴って上下に逆転させる。そして、片手を地面に強く叩きつけた。

魔力の干渉を受けた地面が津波のように唸り、ばかっと割れた。そこから、炎柱が立ちのぼる。

炎塵を撒き散らす火炎の柱は地面を抉り取りながら、4つの柱となって敵対者へ襲いかかる。


「今度は『火炎蛇 (フレイム・ロード)』かよ!無駄だ、そんなノロマな魔法当たるわけねぇだろ!」


『火炎蛇』もまた炎系統の初級定式魔法だ。

立ち上る炎柱が地面を這うように進み、やがてそれは壁となる。素早い魔物の妨害に使用する魔法だが、やはり人間相手では簡単に避けられてしまう。


「『黒鉄の断絶、具現せよ!』」


地に置いた手から、黄色の魔力の輝きを発生させ、指定範囲の地面を揺るがせた。

『地断』。

圧力に負けた地面がひび割れ、無数の石礫が飛び散った。


「ちっ!鬱陶しい魔法ばっかり撃ちやがって!!邪魔だっ!!」


剣のなぎ払いによって石礫が弾かれ、その攻撃さえも無意味であったことを突きつけられる。

やがて収まった『地断』の静寂の後、冒険者の男たちはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべていた。


「なるほどなぁ。たしかに、そいつは護衛じゃ無能の中の無能だな。こんな弱小の定式魔法、俺たちのような冒険者には無意味だぜ?」


「……」


「あぁ?無言たぁ……なんも通用しなくてビビっちまってんのか、嬢ちゃんよぉ?」


ミリアを嘲り笑う男共に、それでも彼女は無言を突き通していた。


―――魔剣商人の護衛だって?初級の魔法しか使えないのにか?


―――おいおい、なんだよ、つまんねぇなあ。


―――そもそも、魔剣商人だなんて嘘なんじゃねえか?


周りいる観衆が、疑念と落胆を含めたセリフを呟いていた。

余裕そうな表情を見せる冒険者たち。俺はすぐに腰にあった短剣を持とうとしたが――


「少年」


前に立つヴェイルに制止させられた。

一体何なんだ。もうすでに、ミリアの魔法では彼らを倒すことなど不可能だと分かってしまったではないか。

初級の定式魔法は、対人に向かない魔法ばかりだ。

詠唱後の魔法発生のラグはもちろん、一つ一つの威力が強いとは言えない。

つまるところ、初級定式魔法は、魔術師にとっての『訓練用の魔法』なのだから。


「こっちもちゃんと魔法を撃っとかないと、惨めな思いさせちまうよなぁ?――おい、やれ」


後ろに控えていた杖持ちの男が、詠唱を開始する。

魔力が体を巡り、真紅の螺旋の輝きが体を覆っていった。


―――炎刃、紅き鳳仙花の如く。炎塵、舞い落ちる花弁の如く。天覆う鮮烈の渦に、逃れ得ぬ者なく


「優しい俺たちに感謝するんだな。炎系統の本当の威力見せてやるからよ、ちゃんと受け取れよ?」


―――天空を衝く(しるべ)の烽火。憤怒の化身よ、全てを侵し、燃え爆ぜよ。


ジリジリ、と大気が灼かれる音がした。

延焼する炎の螺旋が天を覆い、やがてそれは巨大な姿となる。


炎が、そこにあった(・・・・・・)


それは巨大な鳥。炎系統を象徴する炎神――鳳凰の具現化。


鳳翼顕現(フェニックス・ブロウ)


「ほほー、こりゃああれだな、炎系統の中級定式魔法」


「中級定式魔法だと!?これでか!?」


「炎系統の魔法は、攻撃的な意味だと『侵食』の具現だからねぇ。中級でも見掛け倒しだなんて言えないし」


空を舞う炎の鳥の空虚な眼が、敵対者を見定めたように俺たちを射抜いた気がした。

―――炎の塊となった炎鳥が、こちらへと降ってくる。


「ちぃっ!流石に見ているだけなんて出来ないからな―――!!」


「いいから、少年、ステイ」


「こんな時にバカなこと言うな、おっさん!!」


「はいはい、お姫さんをよく見て。ね?」


迫りくる炎鳥をじっと見上げていて、ミリアから目を逸らしてしまっていた。

すると、ミリアは目を瞑りながら何かの魔法を唱えているようだった。


―――普遍を司る四大の一よ。悪辣なる不和、死の根源、災禍の予兆を打ち祓え。


バギリ、と何かが折れるような音がした。だが、それはミリアの足元からだった。

詠唱の完成とともに、足元の地面が盛り上がり、巨大な壁を形成した。

それは徐々に巨大なドーム状の壁となり、俺たちを包み込む。


その直後に、壁の向こうで轟炎の塊が炸裂した。


みし、みし、という土の軋む音がドームの壁から聞こえたが、炎が侵食してくる様子はない。

完全な、外界との隔絶。守護の魔法。

地系統における初級定式魔法、『地蓋殻(ウォール)』。


物理攻撃に弱い土塊の魔法だが、炎や風、雷などの魔法攻撃に絶対的な耐性を持つ守護魔法だ。


暗いドームの中で、ボッ、と火の付く音が聞こえた。見れば、ミリアの人差し指から小さなロウソクのような火が上がっていた。


「アルト、ヴェイル、大丈夫ですか!?」


「さっすがお姫様。守護の魔法も使えるとか、将来有望よ有望」


「……冷や汗をかいたぞ」


俺の返事を聞いたミリアが苦笑する。


「相手が水の魔法を使ってきたら為す術がなかったのですが……ごめんなさい、不安にさせてしまいましたね」


「お前の魔法の才能についてはよく分かったよ。……俺の知らないうちに、色々な魔法を覚えてたんだな」


「アルトを驚かせようと思って、色々と訓練してたんですよ?地系統の守護の魔法は役に立つので始めに覚えたんですが、アルトが強すぎて使う機会がなかったんです」


……それはなんというか、申し訳ないというかなんというか。


「それで、この後どうするんだ?やっぱり俺も決闘に参加したほうがいいんじゃないか?」


「少年、野暮ってもんよ」


「……もしこの魔法が解けたら、あの四人が武器持って襲い掛かってくるぞ。ミリア一人じゃ荷が重すぎる」


「いいえ、そんなことありません」


と、ミリアが俺の言葉を否定した。

表情に一切の不安は見られない。むしろ、もう勝っているかようだ。


「少年、お姫さんはあらゆる布石を打ってるんよ。チェックメイトってやつ」


「な……に?」


一体、いつ?あの四人組に勝てるような布石を打った?ただ初級の定式魔法を撃っていただけではないか。


「はい、後は―――」


ミリアは、これから起きることを、饒舌に語った。

それは、魔法のみ(・・・・)を知るものでは成せないこと、なのだろう。


「本当にそんなことが起きるのか(・・・・・)?俺もそんなこと知らなかったぞ」


「長い間初級の定式魔法を使ってきた人なら分かるかもしれないけど、訓練用だなんて舐めてる人たちは、ほとんど知らないだろうねぇ」


「はい、ですから安心してください、アルト」


ミリアは自信を持って告げる。


「この土の壁を解いた時、チェックメイトです」


次回、日曜日更新予定です。(可能であれば早めに更新します。)

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