表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義賊のマテリア  作者: 夕日
それでも彼は
4/102

それでも彼は - 3 -

月が城下町を見下ろしている。少し雲が多いが、むしろ有り難いぐらいだ。暗い方が見つかりにくい。

自室で黒装束に着替える俺を見て、その出発を見届ける為に来たディモンが顔をしかめている。


「はたから見れば、魔物みたいだぞお前」


「うるさい。誰の為にこんなことを続けてると思ってんだ」


「ボロボロの家で生活してる子供やら、爺さん婆さんの為、だろ?……なんだかんだ言ってお人良しだよなぁ、本当に」


ディモンは肩をすくめた。


「気をつけろよ。城の警備は厳重だ。見つかれば生きて帰ってこれねぇかもしれねぇ」


「俺を誰だと思ってるんだよ。あの、【漆黒の風】だぞ?」


「本当は、そんな二つ名くだらねぇと思ってるクセによ。ったく、ちゃんと帰って来いよ?」


最後に黒頭巾で口を覆い、装備の確認をする。


「捕まったらお前も同罪、って王の前でバラしてやるから安心しろよ」


「へいへい、頑張ってこい」


悪友にニヤリと微笑みながら、俺は家の裏口から外に出た。路地裏の闇にまぎれながら、俺は屋根の上を伝って王城へと近づいていた。

心臓の音が、頭の中に響いてくる。なにしろ王城だ。生半可な覚悟で攻略できる場所ではない。王城が自らの眼前に迫って行くうちに、緊張感が俺の体を支配していく。

この王都では、城下町を警備する衛兵と、王城を警備する兵士がそれぞれ警備に当たっている。さらに王城はクライスラ騎士団の連中が鎮座している。生半可な警備ではない。

王城の門の前、俺はその陰に隠れながら、視覚鋭敏化の魔法を使い、兵士の数を観察する。

門の前に二人。庭には十人ほどの兵士が巡回しているのが確認できた。


「――――『青海を凪ぐ、南風の加護を』」


静かに唱えられた魔法によって、両足に気流が発生する。それは大きな上への圧力を持って、俺を王城の東にあった塔の最上階へと突き上げた。

周りからすれば、弱い風が吹いてきたようにしか感じないだろう。下にいる兵士達を見れば、俺に気づくようなこともなく、庭と城門の見回りを続けている。

ふぅ、と一回息を吐き、腰に下げた鉤爪ロープをレンガの縁に引っ掛ける。ぐい、と三回ほど引っ張り、しっかり引っ掛かったことを確認した後、俺は二階の窓へとロープを伝う。

おなじみの手法で、ナイフに武器強化の魔法をかけ、窓ガラスを内側から開けた。

入りこんだ2階王城の通路には、兵士一人いない。真っ暗なその通路には、ただ赤い絨毯と高級そうな骨董品が並べられているだけだった。


「……なんだ?一体どういうことだ?」


宝物庫に続く扉の前にも、兵士は見当たらない。ラッキー!と大声で叫びたくなる…訳がない。明らかに不自然だ。城内には有り余るほどの兵士がいるはずだ。それなのに、宝物庫前に兵士がいないというのは状況的におかしい。

……しかし、ここで引き返すわけにもいかない。

俺は怪訝に思いながらも、宝物庫に続く扉を開け放つ。その先には、幾多に配置された鉄格子が行く手を遮っている。

鍵穴がないのを見ると、特殊な方法で開けなければならない鉄格子か。

後ろの扉をゆっくりと閉めた俺は、鉄格子の解除…もとい破壊を試みる。


「『風の導きよ』」


手に持ったナイフに、武器強化の魔法を具現する。息を落ちつかせ、腰を落とす。後方に構えたナイフを、体重移動と共に、鉄格子へと振りかざす―――


「待って下さい!!」


いきなり後ろから、制止を求める大きな声が聞こえた。あまりの大声にぎょっとした俺は、ナイフの勢いが収まらず、前方へと転がった。

頭をさすった後にハッとして、ナイフを片手に後ろへと振り返る。最初に目に入ったのは、暗闇にも負けない銀色の髪だった。手に持ったロウソクの光が、その美しい顔を露わにしていた。切れ長の目に、整った顔立ち。鼻筋はすっと通っており、薄いピンク色の唇。しかし、どこか幼さの残る顔立ちだった。歳は俺と同じくらいだろうか。豪華な白のドレスを身に纏い、こちらを見て―――目を輝かせている。


「まさか本当にお会いできるなんて思ってもみませんでした!兵達を引かせていた甲斐があったというものです!さぁ、こちらへ!一緒にお茶でも致しましょう?」


「は、はぁ!?」


どういうことだろうか。俺の持っているナイフにも気にも留めず、両手で俺の手を掴み、引っ張って行こうとするのだ。それも、かなりの力で。


「ちょっと待てちょっと待て!離せ…ッ!このッ…!」


「いいえ、離しません!一年以上待って、やっといらっしゃって下さったのですから!色々な話を聞きたいんです!昨日忍び込んだ屋敷のこととか、三ヶ月前の大豪邸での脱出劇とか!」


「何言ってんだ!離せって…言ってるだろっ…!」


「むッ…。そんなに暴れるのでしたら、兵士を呼びますよ。アナタのお話を聞くまで、私、意地でもこの手を離しませんッ!」


兵士を呼ばれるのは厄介だ。……というか、待てよ?一年以上待った……?

ということは、この女は、この俺が――【漆黒の風】が王城へと盗みに入るまで、二階の兵士全員を追っ払っていたということか?

あまりの出来事で思考が回らない俺は、目の前の人物がその豪華なドレスを翻すその動作を見て、やっとこの女の正体が分かったのだ。


「お、お前……まさかこの城の……ッ!?」


こちらを見てニッコリと微笑むと、


「ええ、私の名前はミリア・K・クライスラ。この国の第三王女です」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ