それでも彼は - 2 -
「よくぞ参った。アルト・ゼノヴェルトよ」
「勿体ないお言葉で御座います」
城の、王の間。俺は膝を曲げ、王に頭を垂れた。
敬語を使うのは面倒だが、兵士四人が国王の前に仕え、俺がナイフを手に持ち動き出しそうものなら、鈍色に輝く剣で俺の頭と胴体を切り離すことだろう。
口元に白い髭を蓄え、物々しく喋る王からは、確かな威圧が感じられる。これが王族の威厳というものなのだ。王は、大臣が箱から開けた壺を見て、その鋭い目を細めた。
「壺か。我が愛娘も、お前が持ってくる骨董品を楽しみにしていてな」
これはまた物好きな…。何の価値もない骨董品に対して、こんなにも高評価を貰えるとは思わなかった。
大臣が壺を兵士に渡すと、奥に控えていた金貨の袋をこちらに渡してくる。
商人に褒美を与える余裕がある、ということがこの王都の富裕さを表している。……少なくとも、表面上は。
恭しく感謝の言葉を口にし、俺は王の間から退室した。
金貨は二十枚程だ。まぁ、通常の褒美よりも多い方か。
さて。
兵士たちが国王の間の扉に控えているのを目線で確認し、俺は城の中を観察する。城の中をうろついていれば怪しまれるのは必然だが、品物を納品してきた商人には、まだ城の中にいる権利が与えられる。いわゆる通行証だ。もし何か言われても、「城の中が複雑すぎて迷ってしまった」とでもいえば、親切な兵士が案内をしてくれるだろう。そう言われたときに退散すればいい。
俺は、ディモンから仕入れた情報を元に、宝物庫の場所を確認に来たのだ。
宝物庫の場所は城の二階。堅牢な檻が行く手を遮っているらしいが、そんなものどうだというのだ。
俺は魔法が使える。単純な作りならその檻を切り裂くことも可能だ。
正直、先天的に魔法が使える体質で良かったと思っている。この世界では、魔法は神からの賜りものだ。使えない者が7割だと言われている。生まれた時から使える者、成長してから使えるようになる者。一体なにがそれを分けているのかも分からない。正真正銘「神からの賜りもの」と言う訳だ。
だが俺は、神なんて信じていない。当たり前だ。神がいるなら、この腐った世の中はとっくに平定されているはずだ。宗教やらなんやら、信じられないことばかりだ。
城内をうろつきながら、俺は二階の、宝物庫に繋がるであろう扉を確認し、城を出た。やるなら早くやった方が良い。【漆黒の風】は今日、また現れる。そんな通告を城下町の奴らに大々的にやるつもりはないが、また騒ぎ出すのは目に見えている。
やれやれ、と俺は肩をすくめた。すっかり盗賊稼業も板についてきたということだろうか。こんなことを続けていればいずれ捕まるのは分かっているが、困窮者たちを助けるためには、やるしかない。
――――やるしかないんだ。