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義賊のマテリア  作者: 夕日
それでも彼は
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それでも彼は - 1 -

目覚めて最初に、天井の木目のシミが見えた。欠伸を一回して、俺はゆっくりと体を起こした。

窓の外から朝の日差しが入りこんでいた。はっきりとしない意識で、頭をポリポリと掻いた後、支度を開始した。

俺の家は二階建てだ。城下町の大通りから外れた一角にある。1階には骨董品が並んでおり、商店を営んでいる。といっても、買いに来る者など1週間にいるかどうかだ。

朝食をわざわざ作るにも面倒くさい。そもそも料理はあまりしないため、昨日余ったパンと干し肉で済ませてしまおう。

朝食の後、一階に降り、店の前のcloseの看板をopenにする。人通りは少なく、この店に興味を持つ者など一人もいない。

十数分ほどカウンターの前でボーッとしていると、一人の大男が店に入ってきた。それは、俺が良く知っている友人だった。


「おう、アルト。相変わらず客一人いないな」


入店早々、そう嫌味をいった男は、腕組みをしながら俺を見下ろしている。


「うるさいな。俺はこういう暇なのが一番いいんだよ」


「へいへい、そうかよ。っても、一世代前の骨董品なんて時代遅れだろ?お前も俺と同じように東洋の陶器とか売りだしてみろよ。繁盛するぜ?」


「お前は好きにやってりゃいいよ……そんなことを言うために、ここに来たんじゃないんだろ?ディモン」


ガハハハ、と笑う目の前の髭面の大男を睨みつけて、俺はカウンターの下にあった昨日の戦果を取り出した。目を輝かせて、ディモンが中身を探る。


「ほぅ…ルビーにサファイア…ダイヤに…おっ!こりゃあ純金だな。今回もなかなかじゃないか!」


「逃げる時に金貨のほとんどをばら撒かなきゃいけなかったけどな」


あの大通りの奴らが俺に気づかなければ、金貨をばら撒く必要なんてなかったのだ。

ディモンが大笑いする。


「【漆黒の風】様のご登場を見ちまったら、あいつらが大盛り上がりするのは当たり前だ!お前は城下町の有名人だからな」

「……そのせいで仕事がしづらいんだよ」


【漆黒の風】。二年前から城下町に現れた、貧しい者たちに、富裕層の貴族から盗んだ金品を差し出す義賊。その評判が広がり出すのにさほど時間はかからなかった。

城下町の奴らは刺激的な出来事に飢えているのか…。


「お前は城下町のヒーローなんだ。もっとシャキっとしてろって!ほら、これが換金額だ」


金品の換金。ディモンはそのために、この店へと来ていた。俺は死んでしまった親父の職――商人をやりながら、義賊を続けていた。換金は、商売で繁盛しているディモンに任せている。

商人が盗人をやっているとは、兵士たち並びに平民たちも思ってはいないだろう。

ムッとしたまま、渡された袋の中身を見る。

まぁ、これで貧困層の全員は1ヶ月ぐらいは楽して暮らせるか。

と、ディモンが何か思い出したようにこちらを見た。


「そうだ、お前、これから王城に行くんだろ?」


「ああ、商品の献上をしないとな。面倒くさいが、後で何言われるか……」


「商人の義務だろ?しっかりしろよ、アルト」


商人は通常、半年に一度、商品を王城に献上しなくてはいけない。大体は食糧や金貨などだが、珍しい陶器などを献上する商人も多い。

俺は金貨を一つ取って、手の中で弄ぶ。


「今回も骨董品でいいか」


「……相変わらずの面倒くさがりだな」


面倒くさいもなにも、献上する品は何でも良いことになっている。なにを言われようが、王からの要望がなければ、今ある骨董品の一つで十分だ。



木の箱に入れた壺を持ちながら、俺は王城へと続く大通りを歩く。そこら辺では、大道芸人が口から火を噴く芸をしていたり、食材を売り出す露店が大通りを埋め尽くしていたりとなんとも雑多な大通りだ。

と、一際民衆が集合している場所に通りかかった。大衆の向こうにあるのは、王城などからの通達が貼られている掲示板だ。

箱を片手に持ちながら、大衆がどよめいている掲示板へと目を移す。

大きな見出しで書かれていたのは、【漆黒の風】という一文だった。昨日の夜、有名な商人の自宅で、金品が盗まれたことが事細かに書かれているようだ。

【漆黒の風】の人物像については語ったようだが、何しろ全身黒づくめだ。的確な情報はほとんどない。

……とはいっても、油断して捕まることは絶対に許されない。

その次に書かれていたのは、明日の午後、王女が城下町の視察に来るという情報だった。

ふと周りを見渡してみると、記事を見て歓喜の声を上げている平民達がいる。子供たちの一人が親から借りてきた黒のローブと黒い頭巾を着て、「僕は【漆黒の風】だぞ!」という遊びをやっている。手首を後ろに縛られた少女が「助けて【漆黒の風】様!」と言っているさまを見て、俺は深く息を吐いた。

というか、俺は盗人だ。他人を助けるような柄じゃない。

周りで話しこんでいる老人や兵士達は、王女が城下町を視察することに色々言葉を交わしているようだ。王女が城下町に降りてくることはかなり珍しいことで、一年に二回程度しかない。王が親バカなのか、もしくは暗殺者からの奇襲の心配をしているのかもしれない。

結局、俺には関係のないことだ。壺の箱を持ち直して、早く家に帰りたいと思いながらも、城への道を急いだ。


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