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義賊のマテリア  作者: 夕日
矛盾の剣
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矛盾の剣 - 1 -

第2章開始です。

目を開けて、数分の間、部屋の天井を見続ける。天井の木目をなぞるように眺め、起き上がろうとして断念する。

昨日の騎士団長との戦闘、そして屋敷侵入時に使用した魔法の数々。許容を超えた魔法の行使により、体がいうことを聞かない。片手だけでも動かすのがやっとだった。

ベッドの横にある水差しをなんとか手に取り、一口飲む。昨夜ここに帰った後、俺はあまりの疲労に、ベッドに倒れるように寝てしまった。


水差しを元に戻し、窓の外を確認する。随分寝てしまったと感じていたのだが、どうやらまだ朝の早い時間帯だ。群青の残る空に、鳥が羽ばたいている。

あの後、宰相と騎士団長はどうなったのだろうか。ミリアもあの場に残ったままだったが、どんな顛末を迎えたのだろう。

動かない体。俺は仕方なく目を閉じる。

これで、貧民街の状況も良くなるだろうか。もう、目の前で幼い子供が死ぬところは見たくない。

病魔に侵された者たちが、なんの力にもなれず息を引き取る、そんなことあってはならない。

数えきれない思考の中、疲労という睡魔に勝てるわけもなく、俺はまた静かに夢の中へと落ちていった。



――――



曖昧な思考の中、俺は右手に感じる温もりにゆっくりと目を開けた。

窓の外を見ると、日が高く昇っていた。正午前だろうか。


「良かった!目が覚めましたね!」


明るく、嬉しそうな声を聞いて、俺は首を動かす。

そこには、俺の右手を掴んで優しく微笑む少女の姿があった。


「……お前、どうやってここに……」


流れるような銀の髪、白のワンピースが清楚な印象を強く引き立て、とても良く似合っている。

ミリアは安心したように胸を撫で下ろした後、真剣な表情で俺にぐっと近づいてくる。


「そんなことよりも!あんな魔法の使い方しちゃダメですよ!」


「いや……そんなことよりもって…お前本当にどうやってここに来た……ッ!」


俺は自分の体の異変に気付く。ベッドから飛び起きるように体を起こし、両手、両足を確認する。

どんなに動かそうと努力しても動かなかった体が、羽のように軽くなっている。


「なんだ……?一体どうなって……」


「もうっ!アルト、ちゃんと聞いて下さい!あんな魔法の使い方、二度としちゃダメですからねっ!」


その言葉の意味が分かって、俺は嘆息した。


「……問題ない。いつものことだ、慣れてる」


ミリアはむっとした表情のまま俺に顔を近づけてきた。


「詠唱を強制的に省略して、たくさんの魔力を注げば魔法は発動しますが、それでは体への負担が多くかかってしまいます!こんなことを続けていたら、寿命が短くなる可能性があるんですよ?」


魔力の莫大な供給による、詠唱時間の短縮。俺が盗賊として活動する際、ほんの数秒で魔法が行使できるのは、未完成な魔法詠唱に膨大な魔力を付加しているからだ。

魔法の具現化と詠唱は相反関係にある。詠唱を長く唱えれば魔法の安定性が保たれるが、その分無防備な時間も増える。逆に詠唱を短くすれば魔法の安定性は低くなるが、無防備な時間が少なくなる。

そして俺のその後者の使い手だ。安定性が低くなるならば、多くの魔力を供給してやれば魔法の安定性は保たれる。


「昔からこの方法を使って自分の魔力の量を増やしてきた。今更寿命なんて関係ない」


「昔から、ですか……?」


「ああ、親父のやり方に習ってな。体がとっくに慣れてるんだ。体が動かなくなることだって数えきれないほどあった」


「…………」


それを聞いたミリアは、悲しそうな顔を俺に向ける。

おそらく、そんな無茶な方法で魔力の許容量を増やしている俺は、体のどこかに異常をきたしているのかもしれない。

日常生活の中で体の不調を感じたことはない。しかし、魔力によって引き起こされる異常は未知の病と同じだ。

ミリアがそこまで心配するということは、身近に魔力の過剰使用によって命を落とした者でもいたのか?

王国の繁栄のために生き永らえなければならない王族という立場で、そのような無茶をする者はいないとは思うし、魔法を使用できる者は少数だ。魔法によって起こる事象を、一体どこで学んだのだろうか。

―――ミリアの知り合いに、魔法を使える者がいるのか?

気まずい状況になっていく室内。

王族の内部事情をあまり深く掘り下げたくない。俺は話題を変えるべく口を開く。


「それよりも、あの後どうなったんだ?宰相は?騎士団長は?税金の不正についての処罰は?」


ミリアはそれを聞いて口元を微かに綻ばせた後、


「お茶でもしながらお話しませんか?今日はお城にあった茶葉を持ってきたんです」


俺が気を使ったのが分かったのだろう。脇に置いていたバスケットを持って、ありったけの笑顔を見せた。


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