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18.約束破りの青少年が放つ言霊伝達

 ただいま自宅かくれんぼ中。本人の希望により鬼は毎回なつめです。

 今度も最初の脱落者は僕でした。隠れ続ける興奮を味わいたいのに。

 でもルールです。縁側にて他のみんなが失格するのを待ちます。別に悔しくなんかないですから。うぐぐ。


「いやあ、見付かっちゃったよ。キュウリのいいにおいに負けてつい」


 えさに釣られた敗退者は桐谷さんでした。やはりカッパ。滝沢さんと同じくキュウリに目がないです。


「でも不思議だよね。なつめちゃんは、なんで鬼をやり続けるんだろ?」

「なんか、人を追い詰めるのが快感だって話してました。黙ってやられる側は納得できないとかで」

「あらら、へんなの」


 桐谷さんはあきれていました。誰でもこういう反応すると思います。

 にしても、桐谷さんと二人で会話するのは初です。明るい人なので話題が豊富なイメージです。


「そうだ、あにきから聞いたよ。妖怪変化おめでと!」

「ありがとうございます。めでたいのかな?」

「たぶんね。少なくともボクは嬉しいかなっ。悠くんとの距離が縮まった感じがするし」

「はい。……ですね」


 無邪気に喜んでくれる桐谷さん。さらっと人懐っこいこと言われると妙にどきどきしますよね。


「ところで、あの着ぐるみって何なんですか?」

「ふふん、なにをかくそう、あれはカッパの皮膚なのさっ」

「……皮膚?」


 布とかそういうのじゃなかったんですか。


「カッパは成長すると脱皮して、人間の姿になるからね。脱皮ってスゴいんだよ。体の穴という穴から粘液が出て、ぐちゃーって爪とか髪の毛が剥がれて、中から全身血管だらけの」

「わ、分かりました。もう大丈夫ですおえっ」

「そう?」


 グロテスク注意でした。これが真実かどうかは確かめたくないです。


「じゃあ滝沢さんは、元は着ぐるみの姿だったんですね。……怖いなあ」

「んー、そうだと思うよ。ボクは人間形態のあにきしか知らないけど」

「え」


 意外な言葉でした。兄妹なら昔の姿も知っていて当然のはずなのに。


「ホントの兄妹じゃないんだ、ボクとあにきは。血の繋がりはないんだよね」

「……そうだったんですか」


 桐谷さんは表情を変えることなく、すんなりと訳を教えてくれました。


「カッパは基本、親子三人で暮らす妖怪なんだけどね。ボクもあにきも、両親が死んで一人ぼっちになっちゃってたんだ」

「……寂しいですね」

「あにきとは、昔から仲良かったし。お互いつまんなかったのかな。ボクとあにきは、いつの間にか家族になってたよ」


 過去を乗り越えているからこそ、桐谷さんは暗くならずに話せているのだと思います。


「あいつと親子とか、ましてや恋人なんてありえないからさ! 兄妹でいいやーって感じ。いいのは顔だけだもん、あにきは」

「たしかに、滝沢さんカッコいいですよね」

「あーあ! なに話してるんだろボクは。悠くんのせいだからねっ!」

「すみませんでした」

「……えへへ、ありがと」


 やけくそっぽく叫んだ後、微笑みがこぼれた桐谷さんの表情は、初夏の空のように晴れていました。


「でも最近は、あにきのこと好きかな……少しだけね。……あっ、今の誰にも言わないでよ! すぐ記憶から消滅させて!」

「が、頑張ります」


 しかし忘れようとすればするほど鮮明に記憶されていく脳の不思議。

 家族になるために必要なのは、ささいなきっかけ。そういうことですよね。


―――――


 頑張るとは約束しましたが、滝沢さんに話さないとまでは誓ってません。


「それで、桐谷さんは言ってました。最近は、滝沢さんのことが少しだけ好きだって」

「…………」

「滝沢さん?」

「ぐすっ……っかしいな、花粉でも飛んでんのかな。目から汁が出るわ」

「……泣いてる」


 かくれんぼ再戦。最初に見付かった僕。次の脱落者は滝沢さんでした。

 なんか暇だったので、桐谷さんの本音を滝沢さんに伝えました。ごめんなさい桐谷さん。

 でも、滝沢さんの心には響きました。どうか僕の愚行を許してください。


「滝沢さんは、桐谷さんのこと大切ですか?」

「……ああ、もちろんだ。桐谷の誕生日に、ふんどし姿でブリッジしながら三百メートル走ったこともある。俺からのサプライズ企画だったけどさ」

「……それって喜ばれたんですか?」

「苦笑いはされたな」


 でしょうね。


「けど、桐谷のためなら命だって捨てられる。キュウリも我慢できる。……そうだな、二週間くらいは」

「みじかっ」

「あいつには、秘密にしておいてくれるか? 親しみやすいあにきのままでいたいからさ」

「分かりました。僕を信じてください」


―――――


「桐谷さんのことが好きで、桐谷さんのためなら死ねる。滝沢さんは、そう話してました」

「ふうん……ま、ちょっとだけ嬉しいかな。ふふ」


 最初に見付かる僕。二番目は桐谷さん以下略。

 まるで僕が約束破りに見えるかもですが、秘密にしておきますとは一度も言ってないのです。

 それに、まんざらでもない桐谷さんの笑顔を見ていると、ばらしてよかったなと思えます。


「ボク、気付いたよ」

「なんですか?」

「血の繋がりなんて単なる飾り。どんなふうに相手を想うかの方が、ずうっと大事なんだって」


 桐谷さんが発したのは明瞭な声。心の底からわき出た誠の言葉でした。


「あれ? 今ボクもしかして、ちょっとカッコいいこと言った?」

「そ、そうですね。ぐっと来るものがありました」


 でも、ちょいちょい話の途中でふざけるところは滝沢さんと似ています。

 でも仕方ないですよね。二人は家族ですから。


―――――


 もうじき夕方なので、みんなで滝沢さんと桐谷さんの帰宅を見送ります。


「じゃあねみんな! ほらあにき、いつまでもなつめちゃんに手振ってないで、行くよ」

「待ってくれ桐谷……あと少しで満足できそうなんだ。なつめさんまた来ますからー!」

「まったくもう……それなら、こうしてやるっ」


 やや遠慮がちに滝沢さんの手をにぎる桐谷さん。

 混乱のためか、滝沢さんの腕振りもぴたりと止まりました。


「き、桐谷……いきなりどうしたんだ?」

「い、いいじゃん別に」


 二人の手はしっかりと繋がれています。もう、簡単には離れません。


「……いつ以来だっけな、桐谷が自分から手をにぎってくれたのは」

「……嫌だったら、やめてあげるけど?」

「いやまさか! ……帰ろうか。俺たちの家に」

「それ、最初からボクが言ってたのに」

「そうだったな。……いつもありがとうな」

「……ばか」


 滝沢さんと桐谷さんは、仲良く並んで歩きながら、夕暮れ間近の道を帰っていきました。

 さまざまな家族の形。いろいろあって、それぞれみんなが正解です。


「どーしたんやろ? あんなに仲よかったと?」

「ふふ。どうやら、咲きかけていた愛が花開いたようですね」

「あい? なんねそれ」

「恋とは背中合わせの関係になっていますわ」

「こい、あい……こいあい背中、むむむ」


 真顔で悩むなつめ。二人を見守るゆりえさん。

 滝沢さんと桐谷さんの導き出した答え。孤独と別れられた今の僕には、深く共感できました。


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