13。 楓藍という子はいませんか?
『あれ?君たちは?』
まりあとシイナは後ろに振り返る。するとかつて写真の中で見た、背の高い黒髪の何ともさわやかな男が立っていた。
まりあ『おまえから名乗れ。』
シイナ『こらっ。』
『僕かい?僕はこの文芸部の部長をしている真山だよ。よろしく。…と、君はたしか2年C組の』
シイナ『椎名です。』
マヤマ『それじゃあ、君も』
まりあ『2年C組のまりあエリザベスです。座右の銘は“飛ぶ鳥を落とす勢いで”です。』
シイナ『聞いてないよ。(そもそもそれ座右の銘っていうのか…?)』
マヤマ『ハーフなの?』
シイナ『いやオレはよく小橋賢児に似てるとは言われますがハーフではないです。』
マヤマ『君じゃないよ。それに似てないし。』
シイナ『……………。』
マヤマ『君だよ君。』
まりあ『は?』
マヤマ『まりあエリザベスっていうからさ。ハーフなの?』
まりあはにっこり微笑む(目は笑ってない)と、シイナに強制的に後ろを向かせコソコソ話を始める。
ボソボソ
まりあ『ちょっと何よ。コイツ。何で今更誰も触れないこと突っこんでくんのよ。』
マヤマ『ねえハーフなの?』
まりあ『うるせえ!!!』
ボソボソ
シイナ『まあ初対面ならそれが普通だと思うけど。』
マヤマ『ねえ名字はなんていうの?ねえ、ねえ。Hey!GIRL!』
まりあとシイナは再びマヤマへと向きを変える。
まりあ『すみません。急用を思い出したので今日のところは失礼します。』
微笑みながらそう言い残すとまりあはシイナを(強制的に)引き連れて歩き出す。
マヤマ『えぇ!ちょっと待ってくれよ!ハーフかい?ハーフなのかい?せめて好きな食パンの種類だけでも教えてくれないか?おーい!』
まりあ『超熟だよ!!!』
ジーーーーー。
そのやり取りの一部始終を影に隠れてDVD+HDDビデオカメラで撮影している少女がいた。
カエデ『………あーのーやーろぉーー……。』
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マヤマ『ちょ、ちょっと待ってくれ。シイノくん。』
シイナ『シイナですから。』
マヤマ『まりなくんも。』
まりあ『もう!!一体何ですか!!』
マヤマ『な、何ですかって……そもそも訪ねてきたのは君たちじゃないか。』
まりあ『……まあ……そうですけど…。8割方そうですけど……。』
マヤマはどこか怯えた様子で落ち着きがなかった。
シイナ『……………?』
マヤマ『………。』
シイナ『……マヤマさん……?』
マヤマ『えっ!?…あっ…ごめん…なんだい……?』
シイナ『……一体どうしたんですか?何かあったんですか?』
マヤマ『…い、いやね……。…どうやら……僕……霊感があるようで……いつも……何だか落ち着かないんだ……。ハハ…。』
まりあ『…どんな風に?』
マヤマ『何か…こう、いつも誰かに見られているような……。…いや…、見られている……。それも去年からなんだよね……。昔はこんな事なかったのに……。』
まりあ『……………。』
シイナ『……………。』
マヤマ『…なあ…。だからさ、これも何かの縁だし、頼むからこれから仲良くしようよ?ねっ?ほら!3人よればもんじゃの知恵って言うじゃない。』
シイナ『もんじゅです。』
まりあ『お断りします。』
マヤマ『そんな事言わないでよ。まりなくん。いえ、まりなさん。』
まりあ『家は“読売”って決めてるんで。』
マヤマ『洗剤もう一つサービスしますから。』
シイナ『何か変な方向に行ってる。』
マヤマ『なぁ、まりなちゃん人助けだと思ってさ。』
まりあ『私、渡辺満里奈じゃありません。割と蛯原友里です。』
シイナ『やっぱ蛯原友里に間違われたいんだ。』
マヤマ『………どうしても、だめかい?どうしても嫌だと言うのかい?…………。』
まりあ『ていじゅうにお断りします。』
シイナ『ていちょう。』
まりあ『ていちょうにお断りします。』
マヤマ『ふーん。ああそう。』
まりあ『…え?…』
シイナ『…………?』
マヤマ『君は後悔する。』
まりあ『……………。』
マヤマ『まりあエリザベス。君は先週道に迷っていた老婆に近づき親切心を装って故意に全然違う道を教えたね。』
まりあ『!?!?!?』
シイナ『……………。まりあ本当なの?』
まりあ『若気の至りよ。』
マヤマ『またある日は街で配っているポケットティッシュを何食わぬ顔で堂々と段ボールごと盗んでいった。』
まりあ『……………。』
シイナ『……………。』
マヤマ『そしてまたある日、君はペットショップのハムスターのケージに偶然を装って火のついた』
まりあ『マヤマさん、今度の休みにどこ行きましょうか?』
マヤマの視線はまりあからシイナへと移る。
マヤマ『椎名明人。君は』
シイナ『友達になりましょう。』
まりあ『!?!?!?』
マヤマ『君は話が早いな。』
シイナ『それほどでも。』
まりあ『ちょっ!何よ!あんた!結局私の秘密暴露しただけじゃない!!つーか、何で知ってんだよ!!!』
マヤマ『悪いけど僕の情報網は世界中のありとあらゆるネットワークと繋がってるんだ。ハハハ。』
まりあ『何言ってんだコイツ。』
シイナ『3年A組。真山翔。あなどれなりん。』
マヤマ『ん?何か言ったかい?シイナくん。』
シイナ『マヤマンて呼んでいいですか?』
マヤマ『……かまわないけど……。』
シイナはふと、まりあに視線を移す。まりあは俯き黙り込み何かを考えているようだった。
シイナ(……まりあ……。)
まりあ『……………。』
シイナ『……まりあ?』
マヤマ『………?』
まりあ『……マヤマさん……。』
マヤマ『………。何だい?まりなくん。』
まりあ『………あなたの…そのご自慢の…世界中のありとあらゆるネットワークと繋がっている情報の中に…………』
マヤマ『……………。』
シイナ『……………。』
まりあ『………楓…藍……という子はいませんか………?』
カエデ(………まりあ………。)
マヤマ『………………。』
まりあ『………………。』
シイナ『………………。』
カエデ『………………。』
マヤマが口を開くまでの数秒の間は、カエデにとっては時が止まり何時間もの長さに感じられる。
マヤマ『もちろん知っているよ。』
カエデ(……………!!)
マヤマ『……あれは、去年の事だった。
学校の帰り道に野原さん家のシロを撫でようとしたらなぜか噛まれてしまってね。少し指から血が出てしまったんだ。ふと気がつくと、僕の目につく所にハンカチが落ちていた。いや落ちていたというより誰かの意思によりそこに置かれていたとでもいうのか。ハンカチに刻まれたAI KAEDEの刺繍。そして走り去る少女。
……そんな優しい子だと記憶している。』
カエデ(………センパイ………。)
明日への扉
作詞・作曲 ai
光る汗、Tシャツ、出会った恋
誰よりも輝く君を見て
初めての気持ちを見つけたよ
新たな旅が始まる
雨上がり、気まぐれ、蒼い風
強い日差し
いつか追い越して
これから描いていく恋の色
始まりのページ彩るよ
占い雑誌
ふたつの星に2人の未来を
重ねてみるの
かさぶただらけ
とれない心
あなたの優しさでふさがる
いつの間にか
隙間あいた
心が満たされてく
ふとした瞬間のさりげないしぐさ
いつの日にか
夢を語るあなたの顔をずっと
見つめていたい
微笑んでいたい
マヤマ『だから僕はそのハンカチをシロに結びつけてあげたんだ。』
まりあ『……………。』
シイナ『……………。』
カエデ『!?!?!?』
マヤマ『綿あめのように白くもこもこしたシロ。しかし飼い主の5才の男の子があまりお散歩に連れて行ってあげないようでね。彼女もそんなシロをかわいそうに思ったんだろう。彼女がシロに送ったささやかなプレゼント、シロいハンカチ。なるほどなと思ったよ。』
まりあ『……………。』
シイナ『………で、ご自分の血が出た指はどうされたんですか?』
マヤマ『こんな僕を不憫に思ってくれたらしくてね。シロがペロペロ舐めてくれたよ。』
まりあ『……ああそう。』
マヤマ『……さて。今日はもう時間も時間だし、また遊びに来てよ。オレはこれからちょっと部室でやることがあるからさ。』
まりあ『ええ。今度は“もう1人”を連れて。』
マヤマの口元が綻ぶ。
マヤマ『楽しみにしているよ。』
そう言うとマヤマは部室に入りすぐに扉を閉め施錠をした。
シイナ『一体中で何を…。』
まりあ『……帰ろっか。』
シイナ『ああ、そうだね。ほら。カエデ行くぞ。』
物影から出てくるカエデ。
カエデ『もう!あんたたち何やってんのよ!本当信じらんない!!』
まりあ『怒ってる?』
カエデ『怒ってるわよ!!』
まりあ『ごめんね。でもさ、』
カエデ『……何よ……。』
まりあ『やっと一歩近づけたね。』
カエデ『……うん。…ありがとう。まりあ。シイナ。』
シイナ『よしっ!今日はカエデの記念すべき第一歩の日としてぱーっとお祝いするかっ!』
まりあ、カエデ『賛成!!!』
真山翔。通称、マヤマ。(シイナのみマヤマン。)魔法少女まりあの3人目の被害者であると同時にカエデの片思いの相手。前々から嫌な視線に気づいてはいたがそれを霊の仕業だと思っている。(実際はカエデ)どこからか仕入れて来ている情報で他人の弱みをにぎり自分の思い通りに操る。文芸部だが色んな意味でバカ。




