ヒナ 2011 秋
私は、手を引っ張られ、下駄箱に連れて行かれる。
手を引っ張る人は、とても力強く、ズンズンと進んで行く。
やがて下駄箱につくと、そこには、メグとアキとミウが何か話をしていた。
彼女は、メグの前に立ち、
パシィィン…
「ってぇ…」
メグの頬を打った。
「何するのよ、ナオ!」
「アンタ最低だよ…メグ!!」
「…」
私は、ずぶ濡れの体を震わせながら、立っていた。
「ヒナに、こんな酷い事…」
「ミウ、アンタも?」
「違うよナオ、ミウは今メグを止めてたんだよ。」
アキが、ミウを庇い話す。
「そう、か…」
ナオは、少し嬉しそうに、ゴメンとミウに謝った。
「メグもう止めなさいよ、こんな下らない事。」
そう言うと、ナオちゃんは再び私の手をとり、
「行こう、ヒナ。」
と、学校を後にする。
学校を出て、しばらく歩いていると、
「家近くだから…」
「え?」
「そんな恰好じゃ、お家の人心配しちゃうよ?」
「あ、そ、そっか…」
「家で乾かしていこう。」
「…うん。」
変な話だけど、私は少し嬉しかった。
友達の家に行くなんて、初めてだったから。
「あら、お帰り直美。」
「うん、ただいま~友達連れてきたから。」
ナオちゃんの家にお邪魔すると、すぐに階段を上がった。
階下から、お母様の声が聞こえる。
「何か飲み物持っていこうか?」
「あ~うん、温かいのがいいな。」
「はいはい」
ナオちゃんの部屋に入る。
自分以外の女の子の部屋に入るなんて初めてだった。
綺麗に整頓された部屋、カーテンやベッドカバーは青で統一されていた。
机の上の壁に、コルクボードがあり、
タクちゃんとのツーショット写真や、ミウちゃんや友人との写真が大切に飾ってあった。
「殺風景でしょ?はは」
と、笑うナオちゃん。
そんな事無いと、首を振る。
コンコンと、ナオちゃんの部屋の扉がノックされる。
「ココア淹れてきたわよ。」
「うん、ありがと。あっそうだアイロン借りるね?」
「いいけど。何に使うのかしら?」
「いいから、いいから」
ナオちゃんは、お母様を一階に返し、
「アイロン持ってきたよ。ヒナ服脱いで。」
「う、うん…」
服は、上着から下のシャツ、スカートまでとにかくずぶ濡れだったので、
全部脱がなくてはいけなかった。
少し恥ずかしかったが、女の子同士だと思い、脱いだ。
「私の服あるけど、ヒナ胸大きいし、キツいかな?」
と、ニッコリ笑って、おっさんくさいねと言っていた。
私は、赤面してフルフルと首を振った。
「この布団でも被ってて。」
と、ベッドの掛け布団を渡してくれた。
フワッと私の体を、包んでくれて、冷えた体を、ゆっくり温めてくれた。
ナオちゃんの匂いがして、とても心地よかった。
ナオちゃんが、アイロン台を組み立て、私のスカートを乗せた。
「あ、じ、自分で…」
「いいから、いいから、ココア飲んでて。お母さんのココア美味しいよ。」
ナオちゃんは、当て布を使いながら、器用にアイロンを掛けてくれた。
私は、ココアを頂きながらその様子を見ていた。
美味しいココアが、私の心と体を温めてくれた。
私は、いつの間にか泣いていた。
悲しくて泣いていたんじゃない、ナオちゃんの優しさが、お母様のココアが美味しくて、
泣いてしまった。
その涙に気付いたのかは、分からなかったがナオちゃんは、穏やかな声で、
「いつから?」
テキパキとアイロンを掛けながら、自然に聞かれたので、
「夏休み明けから…」
と、自然に答えられた。
「そっか、ゴメンね…気付いてあげられなくて。」
私は、首を振った。
だって、気付いてくれたから…気付いてすぐ助けてくれた。
私は救われた?
まだ分からない、メグに文句を言ってくれただけ、明日には変わらずイジメられるかも…
ううん、私は救われた。
たとえ明日からまたイジメられても、ナオちゃんがいてくれる…
それだけで、私の心には勇気がわいていた。
「これからは、私が守るから、大丈夫!!」
ナオちゃんは、そう力強く言ってくれた。
その言葉が嬉しくて、私はみっともなく泣いた。
やがてナオちゃんは、両手を胸の前に広げ、おいでと言った。
私は、ナオちゃんの大きな胸に飛び込んだ。