レン 2012 冬
アキは、俺と別れた後、自宅近くの公園で発見された。
夜の八時を過ぎていたため、目撃者も無く、
帰りが遅い娘を、家族が捜して、発見された。
腹部を、刃物でバッサリと割かれていたらしい…
「恨み…だと、思う。」
なんでアキは殺されたんだろう、とエミに聞くと、そう答えた。
「刺すとか、切り付けるとかじゃなく、割いたんだよ?」
「深く刺して、なお割いた。」
確かに、殺すだけなら、刺したりするだけで、十分だろう。
でも、割いた。そこに、恨みが見える気がする。
「アキは、恨まれるタイプか?」
アキは、とてもいい子だと思う。
大人しい子だったが、優しかったし、とても誰かから恨みを買う子じゃ…
「本当にそう思ってる?」
「いや、いい子だろ?」
「まぁ、ね。でも、恨みは買ってるでしょう?」
「ナオを、イジメてた。」
「…それが理由なら、俺が一番の容疑者か?」
「はは、私も容疑者かも。」
「恨みなら…まだ続くのか?」
「アキは言ってた。」
「イジメてたのは、アキ、メグ、ミウ、マサ、レン、丸山って。」
「あと、ヒナも何か関係してるとか…」
「丸山?…ヒナは…ナオのイジメの原因、かな。」
「原因?」
「ナオは、ヒナを助けたんだよ…ヒナがイジメられてたの、知ってた?」
「…いや、すまん。」
「ううん…私だって知ってたけど、助けなかった。」
「女子のイジメって助けると、巻き込まれちゃったり、ターゲットが移ったりするんだ…」
「私は卑怯者。ヒナもナオも助けなかった…」
エミも、悔んでいた、ナオの一番の友達だったのに何も出来ず、何もせず、見殺しにした。
「でも、ナオは違った。」
「助けに入った、大勢から、ううんクラス中からの、」
「心無い言葉から、暴力から、自分の身を盾に庇った。」
ナオは、イジメとか許せないタイプだったしな…
俺は、そんな頑張りに気付いてあげれなかった…一緒に戦ってやれなかった…
そう思うと、気持ちが沈んでいった。
「とにかく、エミが言うようにアキの件の犯人が、恨みを抱いていたなら…」
「他の奴等も危ないって事か?」
「う~ん…流石に考えすぎかな?」
ナオの自殺と、アキの殺害を無理やり結び付けてるだけ…
この時は、そう思っていた。
カズとノブとで、購買部に並び、パンを買い、屋上で食う。
それが、俺達の昼休みだったが、屋上が立ち入り禁止になっていたので、
教室で、食うようになっていた。
カズとノブは、中学からの友達だ、気兼ねなくツルめる、楽しくていい奴等だ。
たった二週間で、二人のクラスメイトを喪った、クラス内はとても沈んでいた…
「ま、無理も無いか…」
数が、焼きそばパンを食いながら話す。
「…だよね、いい気分はしないよ…」
と、ノブが相槌を打つ。
「それに、ナオの後に、アキだもんね…」
「…どういう意味だ?」
「おい、ノブ!」
「あっごめん、タクちゃん…」
申し訳なさそうに、ノブが謝る。
「あっいや…エミともそんな話になったけど、偶然だろ?」
「ま、俺達なら、そういう発想になるんだろうけどな…」
カズが言うには、ナオのイジメには、主要なメンバー以外にも、クラスメイトが大なり小なり関わってたらしい…
その連中が、噂しているらしい、アキを殺したのはナオの亡霊…
「…勝手な事を」
「俺もそう思うがな…そういう発想が蔓延してるって話だ」
馬鹿にしてるのか…ナオを屋上の縁に追いやったのは、アイツ等だろうが…
アキが死んで、それがナオの亡霊のせいだと…クソ!
「あぁ~おい、タク…落ち着こうぜ。」
「すまん。変な話しちまった…」
「…いや…」
カズは、パッと明るい表情になり、
「駅前にさ、旨いラーメン屋出来たらしいぜ、帰り食ってかね?」
「あ、いいね、行こう。」
カズとノブが、俯き苛立っていた、俺の肩を叩きながら、明るく話題をふる。
彼等なりの気遣いだ…
「ああ、食いに行こう。」
それに、明るく応じるのが、俺達のルールだった。
俺が、残りのあんパンを、牛乳で流し込んでいた時だった。
「ナオの亡霊なら、次は誰だろうね?」
クラスの女子のグループが、そんな話をしていた。
「ミウとか?結構酷かったし…」
「いやいや、メグでしょ?」
「レン君とかは?大丈夫かなぁ?」
と、噂話に花を咲かしていた。
こいつ等…勝手な事を…
俺が、苛立ち文句を言おうと立ち上がろうとしたら、
「うっせーよ!」
「ナオは勝手に死んだだけだろうが!」
「僕が何したんだよ!何もしてない…僕は悪くない…」
レンが、泣きながら女子に叫んだ。
「そうだよ、自殺じゃない…事故だった、」
ガンっ
俺は、思いっきりレンを殴っていた。
「じゃあ、ナオは夜の学校で何となく、屋上の縁に立ったのか?」
「そこに追いやったのは、紛れもなくテメェ等だろうが…」
「…」
クラス中が、シンと静まり返る。
「レン心配しなくてもよ、ナオにテメェは殺せねえ…」
「テメェ等が見事にナオの背中押して、殺したじゃねぇか。」
「ナオは死んだんだよ、死んだ人間が、生きた人間に何か出来んのか?あぁ?」
俺は、いつの間にか泣いていた…
「タク…もう止めよう…」
カズが、肩を叩き宥める。
「お前ら…」
カズが、クラス中の向かって話す。
「ナオと仲良かった奴等や、アキと仲良かった奴等が一杯いるんだ…」
「下らねぇ噂は止めようぜ、マジでよ…」
噂をしていた女子も、そうじゃない奴等も、俯き、やがて頷いた。
「レン、次下らねぇ事言ったら、タクの前に俺がぶん殴るからな…」
亡霊なんて、あり得ない…
そうさ、タクの言う通り、ナオは死んだんだ…
アキは、通り魔に殺されただけ…
僕に、何かあるわけじゃない…
「レン」
振り返ると、そこにナオが居た気がした。
ナオは、何かを振り上げ、ニヤリと笑い、一気に振り下ろした。
何かは、僕の頭に命中し、激痛が走り、目の前が真っ暗になった。
前のめりに倒れ、アスファルトに顔を埋める。
意識が途切れる寸前に、確信した。
これは、ナオだ。
ナオが、復讐しに来たんだ。
「ナ、オ…僕は…悪くな、い…」
「いいえ、有罪よ。」
ナオは、カナヅチをもう一度振り上げ、レンに止めをさした。