表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Vendetta  作者: tama
アキ
3/19

アキ 2011 秋

放課後、私はトイレの個室のドアを押さえていた。

中にいるヒナが、外に出てこれないように。


「や…めて、」


そんな悲痛な叫びなど、聞こえないフリをした。


メグがバケツいっぱいに水を注ぎ、私が押さえてる隣の個室に入る。

洋式の便器を踏み台にし、仕切りの上までバケツを持ち上げ、

バケツの中身を、ヒナの居る個室にぶちまけた。


「キャ…」


、とヒナが小さく悲鳴を上げると、

メグはニヤニヤ、と満足そうな顔をしながら、


「あははは、ばーか」


「行こ、アキ。」


メグが澄ました顔でそう言った、


「…うん。」


そう返事をした私の心には、何とも言えない気持が残っていた。

罪悪感。



ヒナが、何かをした訳ではなかった。と、思う。

曰く、態度や仕草がムカつく、と

そんな理由が始まりだったと思う。

メグはクラスの女子の中心的な女の子で、

ヒナは仲の良い友達が一人も居ない女の子だった。


初めは、シカトだった。

クラスの殆どの女子と、男子の何人か、

ううん、見て見ぬふりと言う話なら、クラス中から無視されていた。

でも、ヒナはそんなに堪えてないように見えた。


「ま、元々一人ぼっちだったしね。」


、とメグがつまらなそうに話した。


「やっぱり、直接的なのがいいかな。」


体育の着替えが終わり、ヒナや他のクラスメイトが体育館に向かうのを見届け、




メグと私と、数人の女子でヒナの机の中を漁る、

整った字が綺麗に並べられたノート、

分かりやすいようマーカーで線を引いた教科書を引っ張り出し、

メグは黒の油性マジックで落書きを始める。

他の女子も混じり、汚い言葉を書いたり、文字を塗りつぶしたり、

皆キャッキャと、さも楽しいことをしているように、笑っていた。



フッと、遠巻きで見ていた私とメグの目が合い、

ニッコリと笑いながら、


「ほら、アキもやんなよ。」


、と油性マジックを渡された。

直感的にこれは踏み絵、だと思った。



私はいつも、遠くにい居た。

メグの傍に居たが、イジメに参加してなかった、と思う…

何故なら、私にはヒナの痛みが分かるから。

皆から無視されて、悲しくない筈が無い。

気にしてない素振りを見せても、ヒナが痛みを感じている事を、知っていた。




「ホラ、はやく…」


それでも、私の傍に居るじゃない。

メグに、そう言われてる気がした。


結局は、私も同罪。

ヒナが痛がってるのを見ながら、メグを止めなかった。

今も止めずに、見ていた。

誰でも分かる、こんな事されたら嫌な事くらい。


「止めようよ、こんな事。」


そう言ったら、どうなるだろう。

きっと私も、ヒナになる…

そう思うと、怖くなり…油性マジックを受け取った。




ヒナをトイレに残し、下駄箱に向かうと、

ミウが居た。


「あら、ミウじゃない…どうしたの?一緒に帰る?」


メグがそう言うと、ミウはニッと笑いながら、


「随分とご機嫌だな、メグ。」


「…」


「そうね、楽しいことしたし、」


「ご機嫌よ。」


空気が変わった気がした。

ミウはヒナの事に関して、関わりを持とうとしなかった。

勝手にやってろ、というスタンスだった。


「くっだらねぇ!!」


ミウがメグを睨みつける。

流石にヤンキーなだけあって、凄く怖い…

そんなミウを、負けじと睨み返すメグ。


「何が?」


「てめぇがやってる事全部だよ!」


ミウはメグの目の前に立ち、胸ぐらを掴む。

咄嗟に止めようとしたが、メグに制される。


「だから、何が、よ。」


「あ?」


「ミウに迷惑かけてる?」


「私がヒナにしてる事で、ミウは何か困るの?」


「困らないでしょう?」


メグは、嫌らしい笑顔になって、


「あっそれとも何?クラスのリーダー気取ってる?」


「クラスメイトのヒナがイジメられて、可哀想…止めなきゃって?」


「あははは偉い、偉い、」


「で?どう止める?」


「私はくっだらない女!優しい優しい美羽ちゃんの言葉じゃどうにもならない。」


「先生に言いつけちゃう?」


「無駄だよ、無駄無駄。」


「美羽ちゃんってホラ、素行が悪いじゃない?」


「先生、真面目に聞いてくれるかなぁ?」


「無理だろ…」


「メグっ!!!」


叫んだのは、私だった。

私のほうに振り返る二人。


「…っく…止めてよ…止めようよ…」


私は泣いていた。

悲しかった。苦しかった。

夏休みまでは、あんなに楽しかったじゃないか、

三人で買い物行ったり、海に行ったり、

夏休み早々、金髪にしたミウを笑ったり、

私服がダサい、私の服を二人で見繕ってくれたり、

メグがクラスメイトのマサに告白されて、

付き合うようになったり。

楽しかったのに…


「っ…なんで喧嘩なんかしてんだよぅ…」


あんなに仲良かったのに、

なんで…


「ごめん、アキ。」


「ごめん、ミウ。言い過ぎた。」


メグが謝る。


「別に…気にしてない」


「…」


「アキはどうなんだよ?」


涙でグショグショになった顔を上げると。

ミウは怒っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ