アキ 2011 春
高校の入学式の日だった。
私は、小さな時から、他人とお話するのが苦手だった。
無口。暗い奴。
周りのクラスメイトからの私の評価は大体そんな感じ。
高校に入って、小、中と暗い青春を送ってきた私は決心した、
明るく生きよう、と
お弁当を一人で食べたり、休日を一人で過ごすのは、
本当に寂しかった。
先ずは、挨拶をしよう。
隣の席の女子に、明るく元気に。
目を瞑り、深呼吸をする。
ただ挨拶するだけなのに、緊張していた。
恥ずかしくて、言葉が胸の辺りでつっかえて、心臓が高鳴っていた。
「…お、おはよう。」
「?…おはよ。」
私の隣の女子は、岡恵、メグと呼んでいた。
明るくて、とてもかわいいポニーテールが似合う子だった。
お喋りが大好きで、私はいつも楽しく相槌を打っていた。
そして、メグと仲良しだったミウ、東山美羽とも仲良くなった。
ミウは、なんと言うか…怖い子…ヤンキーだった。
初めは、怖くてビクビクしていたが、話している内に、
荒っぽい口調の中にも優しさがある事に気付き、いつの間にか打ち解けていた。
「何だか、告白されているみたいだった。」
ミウの疑問だった。
曰く、メグがアキみたいなタイプの子とツルムなんて不思議だ、と
失礼な話だったが、実は私もそう思っていた。
メグは、人気者だった。
男子から人気があったし、女子の友達も多かった、
なんと言うか、華やかだった…そんな子が地味で暗い私と…
「可愛かったのよ。」
「か、可愛い?」
「うん!」
メグは満面の笑みで頷く。
「隣でさ、急に深呼吸初めてさ、真っ赤な顔でおはよう、て」
「なんだか、告白されてるみたいでキュンってなっちゃった。」
私は、その時と同じくらい真っ赤になりながら下を向いていた。
「初めましてって、ドキドキするよね?」
「そっかぁ?」
「いや、アンタじゃなくて。」
「あん?」
、とミウとメグがじゃれ合う。
「うん。とってもドキドキした…」
二人が私を見る。
フッとメグが笑い、
「そんな思いしながら、話し掛けてきてくれたんだよ?」
「勇気だして、自分から。」
「もう仲良くなるしか無いでしょ。」
「…だな。」
二人の満面の笑みを見ながら、目頭が熱くなるのを感じた。
「おいおい、泣くなよ。」
気付くと涙を流しながら、
「ふ…二人の友達になれて、よかったよぅ…」
急に泣き出した私を見ながら、
ミウはあわあわと慌てながら。
「あ、アイスでも食いに行くか?奢るよ?」
メグがガッツポーズをしながら、行こう、と言った。
「あの子苦手なんだよね。」
メグがクラスメイトの一人を見ながら呟いた。
金城雛、皆ヒナと呼んでいた。
容姿端麗で成績も学年トップと、ちょっと羨ましくなる女の子だが、
無口で、暗くて、オドオドしている、なんだか自分を見ているような女の子だった。
「私と似てる気がする。」
正直に、そう口にしてみると、
「ヒナが?アキと?」
「あっいや、可愛い所じゃなくて性格が、ね?」
「似てないよ…」
メグは少し、不機嫌になったような顔をして、言う。
「アキは努力してる。」
「えっ?」
私が?何の努力をしてるんだろう?
「アキは、人と話するの苦手、でしょ?違うね、だった、でしょ?」
当たっている、苦手だった。
今は普通に、メグとミウと、或はクラスメイトと、男子と喋れる。
でも、それはメグとミウのおかげだよ。と言うと、
違うよ。
「それは紛れもなく、アキの努力。」
「えっ?」
「だってアキは、話し掛けた、私に。自分から。」
「アキは踏み出したんだよ、自分から、それは紛れもない、努力。」
嬉しかった…自分を変えたかった、一人ぼっちの殻を破りたかった。
それを、努力と認めてくれた。
親友が出来たことが、堪らなく嬉しかった。
「あの子は違う。」
「いつも受け身で…イライラする。」
「ヒナとね、小学生の時からずっと同じ学校なんだ。」
「てか、クラスも一緒。変わんない子だよ。」
ヒナは、私よりずっと暗い女の子のようだった。
小学生の時から社交的だったメグは、声を掛けた。
仲良くなりたくて。
でもヒナは、無言だった、シカトされたんだ、と思い…
メグはもう話し掛けるのを止めたそうだ。
「ああいう子見ると、イジメたくなっちゃうんだよね。」
「えっ?」
ドキリ、と心臓が鳴った。