タク 2012 冬 前編
昼休み、カズを捜していた。
カズは、最近よく分からない理由をつけて、、俺達と昼飯を食べなくなっていた。
曰く、委員会の仕事だの、部活のなんたらだの…
お前は、委員会も部活も入ってないだろう…とツッコミたかったが、面白そうなので泳がしていた。
「カズちゃん、嘘下手だよな…」
「アホだからな。」
「突撃しちゃう?」
「ナオの時の怨みを晴らす時が来たな…」
俺とナオも、初めは一応カズとノブに気を使って、隠れて二人っきりで昼飯を食べていた。
だが、ある日物好きなカズとノブが突撃と称して、二人きりの、ラブラブな時間をぶち壊しに来たのだ。
「あの時の怨みは忘れらんねぇぜ…へへ。」
「タクちゃん怖いっす…」
ノブと購買部でパンを買い込んで、カズが飯を食いそうな場所を片っ端に捜した。
裏庭、中庭、食堂何処にも居なかった。
「カズちゃん何処にもいないね…」
「ああ、カズのくせに生意気だ。」
「アレだよね、カズちゃん彼女出来たんだよね?」
「ああ、あの浮かれっぷりは、間違い無くな…」
カズは、隠し事が苦手で、昔から何事も、顔に出ていた。
今日も、浮かれたアホ面で言い訳をしていた。
「じゃあ、校舎裏の一本桜とかは?よくカップル居るよ?」
「ベタだな~…でもカズベタなの好きだしな、行くか!!」
とノブと笑っていたが、フッと気付く。
「俺とナオが見付かったのも、其処だったよな…」
「うん。カズちゃんも同じ事言ってた。」
俺は、カズと同レベルなのか…と軽く落ち込んでしまった。
「あ~ん。」
カズは、待っていた。
口を大きく開けて、彼女が弁当のおかずを食べさせてくれるのを…
彼女は、顔を真っ赤にしながら、
「も、もう…カズ君ったら…甘えんぼさんだな…」
と、頬を膨らませて、
仕方ないな~、と卵焼きを食べやすい大きさに切って、
カズの口に入れてあげた。
ムグムグと食べて、美味しいと満面の笑みを浮かべていた。
そんなやり取りを、さっきから焼きそばパンを食べながら見ていたが、
二人は、こっちに全く気付かない…
ノブなんて、腹抱えながら写メを撮りまくっていたが、
全く気付かない。
仕方ないから、俺は自分の存在をアピールしなくてはいけなかった。
「ちょ~ラブラブっすね~」
と、感情を込めず、棒読みで言ってやった。
二人は、ビクッとしてやっとコチラを見た。
「た、た、タク…」
「た、タクちゃん!?」
「カズ君とヒナちゃん超ラブラブで、羨ましいっす。」
カズとヒナが慌てて、取り繕うとしていたが、
ノブが間髪入れず、あ~んとしたので、
「もう、ノブ君ったら…甘えんぼさんだな…」
とわざとらしく言いながら、焼きそばパンを食べさせた。
案の定二人は、真っ赤な顔になって俯いた。
「つかさ、めでたい事だろ?隠すなよ!!」
「…」
「ああ~もしかして、俺とナオの事気使ったりした?」
「…いや、するだろ。」
カズは、苦笑いしながら俯いた。
「はぁ…カズのクセに…」
「あのなぁ、お前等がくっついて一番喜ぶの、ナオだろうがよ…」
「ヒナは、押しが弱すぎるから、私がギュウギュウ押してやんなきゃって張り切ってた。」
「な、ナオちゃん…」
「で、押して押して、今があるんだろう?」
「う、うん…」
「な?なんだか嬉しいじゃん!」
「また皆で、飯食おうぜ!俺とナオの事散々いじったろ?」
「俺にも、いじらせろ。」
「…そうだな。」
カズが、いじれ!と笑い、つられて皆笑った。
…
これでいいんだ、カズもノブもヒナも、前を向いている。
高校生活を謳歌している。
祝福しよう心から…
俺は、一人裏庭のベンチに座っていた、
ベンチの背もたれに、背中を預け、空を眺めながら、
自分の心の中の、感情を整理しようと、目を瞑って深呼吸をした。
しばらくその態勢で動かないでいると、足音が近付いてきた。
「隣いいですか~?」
声で、エミだと分かった。
「どうぞ。」
エミは、隣に座って俺と同じ格好になる。
「タクちゃん、何か、悩んでるでしょ?」
「バレバレか…」
「バレバレだ。」
「…」
「カズとヒナが付き合ってる。」
「!」
エミは驚いて、体を起こし俺に向き直る。
「へぇ~!へぇ~!そっかぁ~へぇ~…めでたいね。」
「おう。」
「でも、素直に喜べない。」
「まだ、早いだろ?って思う…」
「ナオの事忘れて、前に進んでしまうのかって…」
「はぁ…心狭いな…」
「うん。」
「あのさ、ナオが心に居続けるのって、辛い事じゃないかな?」
「きっと、壊れちゃうよ…」
「皆それを感じているから、逃げたい…ううん、進みたいって思うんだよ。」
「タクちゃんの心の中には、ナオが居続けるの?」
「…知ってるだろ?」
「…」
「大好きだった。忘れろって言われても、無理だ…」
「…忘れさせてあげる。」
「…」
「私が、ナオの代わりになる…」
「……」
「はは…だよね。」
「知ってる。タクちゃんはナオにベタ惚れだもん…」
エミは、立ち上がって一歩前に出た。
「…タクちゃん、好き。」
「…」
「心の中のナオが居なくなったら、返事下さい。」
そう言うと、エミは走って行った…
俺は、いつも通りナオに会いに来ていた。
ナオに、カズとヒナの事報告して、あのカズが彼女作りやがったと笑ってみせた。
おばさんが、お茶を淹れてきてくれた。
そういえば、今日はおじさんが居ない…
「おじさんは?」
「ああ…お仕事よ。」
「有給も、もう無いみたいだしね。」
「ヒナちゃんのおかげかな…」
「ヒナちゃんが謝ってくれたから、あの人も踏ん切りついたみたい。」
「おじさんも、前を向けた訳ですね…」
「そうね。」
「おばさん、俺ナオのこと大好きです。」
「今でも、大好きなんです…」
「学校に居ても、家に居ても、風呂に入っていても、寝ていても…」
「ずっと、ナオが居るんです…」
「俺は、忘れたくない、前を向きたくない…」
「ずっと、ナオを忘れずに生きていきたい。」
「そうやって、ナオちゃんにすがるの?」
「…」
「タクちゃん、忘れなさい。」
「ナオちゃんの事、忘れなさい。」
「アナタはまだ若い…」
「未来は希望でいっぱいじゃない。」
「でもね、ナオちゃんは違う、もう死んだの…」
「もうこの世に居ない。」
「そんなナオちゃんにすがってどうなるの?もう居ないのに…」
「ナオちゃんの事は、私が覚えておきます。」
「ナオちゃんのお母さんである、私が一生涯覚えておきます。」
「だから、ね?安心して忘れなさい。」
「……」