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Vendetta  作者: tama
ヒナ
13/19

ヒナ 2012 冬 後編

食堂でミウを見つけた。

窓際の隅っこの席で一人、うどんを食べていた。

今までは、弁当持ってきてメグとアキと食べていたが、ナオの死んだ日からいつも食堂らしい。

アキも死んで、尚更メグと距離を置いている気がする。


俺は、肉うどんを買うと、ミウの真正面の席に座った。

ミウは、俺に気付くと、チッと舌打ちをした。


「何の用?」


「おっ、奇遇だなミウも肉うどんかよ…美味いよな。」


「…シカトかよ!」


俺は、ミウを無視しながらうどんを啜った。

ミウは、イライラしてる様子だったが、俺が構わず食べていると、自分も食べ始めた。

しばらく、無言で食べてると、あっという間に食べ終わってしまった。

俺は、物足りなさを感じたが、水を一気に飲み干して、ごちそうさまと言って食事を終えた。


「…早っ!?」


ミウが、呆れ顔で呟いた。


「つか、ミウこんなんで足りるの?物足りねぇ…」


「だったらまた何か買ってきて食べれば?」


「私はこれで充分だ。」


私も一応女だしな、と言いながら、残りのうどんに手をつける。

俺は、お淑やかにうどんを食べるミウを見て、本当に女の子みたいだ、

と当たり前な事考えながら、ニヤニヤ見ていた。

ミウは、不意に俺と目を合わせた。


「で?用件は?」


「…ナオとか、アキとかの事?」


「ああ…」


ミウは、フゥと息を吐いて…


「タク…ごめん。」


「ナオには、もう謝れない、いや謝っても許してくれないだろうね…」


「それだけの事をしたって、後悔してる…」


「…ああ。」


ミウは、とても悲しそうな顔をして、唇を噛んでいた。


「ミウ。」


「何?」


「ナオが死んで、アキが死んで、レンも死んだ…」


「…」


「どう思う?」


「…どう、て?」


「クラスの連中の噂。」


「アキもレンも偶然、通り魔に…殺されたと思ってる。」


「…本気かよ?」


「つか、何が言いたいわけ?まさかナオの霊とか言い出すの?」


「アキは、何もしてない…」


「…」


「私や、メグ、マサ、丸山、レンが真っ先に殺されるなら…分かる気がする…」


「それだけの事したもの…」


「アキは弱い子だったかもしれない…私達に嫌われたく無くて、ずっとイジメに付き合ってた。」


「でも、でもね、アキは気付いた。自分が加わらなくとも、ナオに酷いことしてるって事に。」


「だから、止めてた、私達を止めてたんだ!」


「ナオも見てた。アキが私達を止めているの…」


「でも、私達は聞かなかった…それどころか、」


「アキを、脅した。」


「今更何言ってるのか、アンタも同じ穴の狢だって。」


「止めるなら、今度はアンタの番だねって…」


「卑怯な言葉で、アキを黙らせた。」


俺は、ギリギリと握りこぶしを作りながら、ミウの話を聞いていた。


「ナオが、アキを許さなかったと思う?」


「…結局は言いなりでイジメてたんだろ?」


「…うん。」


「でも、止めてた。」


「ナオは、そんなアキの気持ちを汲んでやれない女じゃないだろ?」


「…勝手なこと言ってるよな?ミウ。」


「ナオが、自分を壊すまで追い詰めた奴等だろ?お前等は…」


「…」


「ナオだって人間だ…アキがどんなに庇ってくれてても、結局はお前等側だ…」


「…それ、は」


「ナオは、なんで自殺したんだ?」


「ナオは弱くない、そんなナオを追い詰める、何をした?」


「…」


ミウは、俯き黙り込んだが、しばらく待つと、


「言えない…それだけは言えない!!」


「あ?」


「勝手だと思うけど、ナオの為に言えない!!絶対!!」


「タク…アンタの為にも、言えない、知らない方がいい…」


「お前な…」


「私の事殴ってもいい」


「ボコボコにしたっていい!それだけの事した。」


「きっと、知ったらそうなる…」


「ナオは、知られる事を望んでないはず…」


俺は、ナオとの最後の電話を思い出した。

ああ、確かに言ってた…私の事嫌いになるって…


「ああ、望んで無かった。俺がナオの事嫌いになるって…」


「ナオ…やっぱり…」


「ふざけんなよ…クソッ」


「いいさ、他の奴問い質すだけだ…」


「タク!」


俺は、ミウの制止を振り切り、食堂を出た。




俺は、もう一人の当事者に会いに裏庭に向かった。

すると、裏庭のベンチで楽しそうに弁当を食べている、メグとマサが居た。

俺が、メグ達の目の前まで行くと、


「あら、タクちゃん何か用?」


と、笑顔で聞いてきた。

その、白々しい態度に頭にきた。


「ナオの最後の日、何をした?」


「「…」」


二人から、笑顔が消え、黙って俯いた…


「答えろよ…人殺し。」


その言葉にカチンときたのか、メグは俺を睨みつけて、


「はぁ?勝手に死んだだけだろうが…」


「何だと…」


「ははは、いいよ!教えてあげる!!」


「め、メグ…」


マサが、止めようと近寄るが、メグが制した。


「いいってマサ、知りたがってるんだもん…教えてあげるのが友達だよ。」


「だよね?タクちゃん。」


「ああ、そうだな。教えてくれ…人殺し。」


メグは、不愉快そうに眉をひそめたが、

パッと表情を戻して、


「ナオはね、あの日…」


パシィィンっとメグの頬を打つ音がした。

ミウだった…俺を追いかけて来たのだろう。


「メグ…ナオは私達が殺したんだ…」


頬を押さえ、ミウを睨めつけた。


「だからさ…私ら関係なくね?勝手に…」


「そんな言い訳…通用しないって…」


「ナオは死んだ、私達が殺した。」


「だったらさ、ナオの遺志守るのが、私達の勤めだろ?」


「ナオは、タクにだけは隠したい筈だ!!」


「…」


「遺志だと…」


勝手なことを言う、ミウに腹が立ち、ミウの胸ぐらを掴み、

右手で握りこぶしを作り、睨み付けた。


「ナオは、誰のせいで死んだんだよ…」


「私達のせいだ。」


ミウは、覚悟を決めた目で俺を見つめていた。


「ナオにとって、一番大切なものを奪った。」


「だから、死んだ。」


「死にたくなるほど、酷いことをした。」


「だから、死んだ。」


メグもマサも俯いて黙っていた。


「でも、言えない!!だからこそ、言えない!!」


「ナオは、タクの事大好きだって知ってるから。」


「大好きなタクにだけは、知られたくない筈だから!」


「タク、殴れよ、気の済むまま、殴り殺したっていい…私には、それだけの罪がある。」


「でも、言わない!メグにもマサにも言わせない!」


ミウは、泣いていた。

ミウの気魄に気圧され、掴んでいた手の力を弱め、そのまま自分の頭を、

ミウの胸に埋めて、泣いた。


「…ぅあ…今更じゃないか…今更罪に気付いたって…」


「ごめん…でも…」


「分かったよ…もう聞かない、調べない…」


「ナオが望んでる事だもんな…」


そして、ミウは俺の体をギュッと抱き締め、またごめん…と呟いた。




毎日、ナオに花を持って線香をあげにいくのが日課になっていた。

だから、今日も学校の帰りに花屋に寄って、花を買ってナオの家に向かった。

すると、ナオの家の前に人影があった、ヒナだ。

インターホンを押そうか押すまいか迷っていて、挙動不審になっていた。

見てられなかったので、横からインターホンをチョンと押した。

ピンポーン


「あっ…」


ヒナは驚いてこっちを向いた。


「た、タクちゃん…」


「おう…」


「ナオに、会いに来てくれたんだろ?」


「あっ…うん…あ、謝りに…」


「謝りに…?」


『はい。』


「あっ、田上です。」


『ああ、タクちゃん…待っててね。』


「はい。」


「ま、毎日ですか?」


「ああ、まぁ…な。」


ヒナは、何故か俯いていた。


「わ、私は…皆さんに謝りに来ました…」


「謝るって…」


ガチャッ

玄関のドアが開き、おばさんが迎えてくれた。


「あら?今日はヒナちゃんも来てくれたのね。」


おばさんは、笑顔だったが明らかにやつれていた。


「ほ、本来なら、もっと早くにお伺い…」


「いいのよ、いいの…」


「ナオに会っていってあげてね。」


「…は、はい。」


「「おじゃまします。」」


俺達は、おばさんに花を渡してナオの居る部屋に向かった。


「ああ、卓也君いつもありがとうな。ん?君はヒナちゃんだったかな?」


「あっ…は、はい、おじゃまします。」


「今日は賑やかだね、直美も喜ぶよ。」


おじさんは、ナオが死んでから会社に行ってない。

最近働き詰めだったから、有給を取っていると言っていたが…

学校にイジメに関する、訴えをしているようだった。

俺が、ナオのイジメに関して調べるようになったのは実は、おじさんの役に立てれば、

と言う考えもあったからだった。




俺とヒナは、ナオに線香をあげた。

ナオに、一言二言声をかけ、おじさん達に向き直った。

ヒナが、何かを謝りたがっていたので、


「おじさん、おばさん。」


「なんだい?」


「ヒナから、お話があるそうです。」


因みに二人には、ヒナがイジメの原因らしいって事も、イジメの中心人物も話していた。

なので、そういう話しだろうと察したのか、真剣な顔になった。

ヒナは、俯いて黙っていたが、深呼吸をして真っ直ぐおじさん達の方を見た。


「わ、私は、イジメを受けていました。」


「…」


「は、初めは、小学生の頃でした…」


ヒナは、小学生の時から高校生まで、絶え間なくイジメられてきたと言う。


「お、大人しかったり、運動音痴だったり、イジメられる要素は沢山あったと思います。」


「な、何より弱かった。」


「な、何をされても、耐えていました…」


「い、いつかイジメてる子達とも、離れる時期が来ると思っていました。」


「で、でも、クラス替えがあっても、中学に入学しても、高校でさえ…」


「い、イジメられました。」


「も、勿論私自身の弱さが悪いのです。」


「で、でも、一番の原因はある女の子でした。」


「そ、その子は、美人で運動神経良くて、誰にでも優しい子でした。」


「で、でも、私にだけは優しくありません、私の弱さが気に食わないらしいのです。」


「か、彼女は、友達が沢山居たので、クラス皆で私をイジメました。」


「わ、私は、いつか終わる、クラス替えまで耐えようと頑張るのですが…」


「そ、その子はいつも私のクラスに居ました。」


メグだろうと思った。

ナオとエミが、すっと一緒みたいだと話していたのを思い出した。

おばさんが、学校をお休みすることは出来なかったの?と聞いた。


「う、家は厳しくて、よっぽどの事がないとお休みは…」


「そう…」


「で、でも、高校生の秋、私を救ってくれる友達に出会えました。」


「な、ナオちゃんです。」


「と、トイレで、ずぶ濡れになって泣いていた私を、助けてくれました。」


「な、ナオちゃんは、自分の家に私を連れて行って、服を乾かしてくれました。」


「あっ、あの時のアイロンって…」


「は、はい…あの時お母様の淹れてくださったココア、とても美味しかったです。」


それからナオは、文字通り体を張って、ヒナを守った。


「で、でも、それを面白く思わなかった、その子と友達は…」


「こ、今度は、ナオちゃんをイジメ始めたのです…」


おじさん達が息をのむ。

ヒナは、どうしていいか分からず、でもなんとか力になりたくて、ナオに寄り添っていた。

ナオへのイジメは、壮絶だったんだと思う。

おじさんも、おばさんも怒りに震えていた…


「お、お父様、お母様…」


そこで、ヒナは畳に手を付き、額を擦り付けて土下座をしていた。

俺も、おじさん達も驚いた…


「た、助けて貰っておきながら…私は何にも出来ませんでした…」


「ご、ごめんなさい。ごめんなさい…」


ヒナは、泣きながらごめんなさいを繰り返していた。


「わ、私なんか助けなければ…」


「わ、私なんか居なければ…」


「な、ナオちゃんは今も元気にしていた、筈なんです!!」


やがて、泣きじゃくるヒナの手に、おばさんの手が重なる。

ヒナは、ゆっくりと顔をあげた…

おばさんは、優しい笑顔だった。


「許します。」


「ナオちゃんに代わって、私が許します。」


おばさんは、ヒナの抱きしめながら泣いていた。


「…お、お母様…」


「ヒナちゃん、君は謝りに来てくれた。」


「それは、大切なことだ…ありがとう。」


「君は、悪くない。直美は君を見捨てなかった…誇りに思うよ…」


「私も、君を許すよ。」


「お、お父様…」


「ナオは後悔なんかしていない筈だ…」


「ヒナのこと大好きだって、いつも言ってたよ。」


「そんなヒナを救えたんだ、胸張ってるよ。」


「た、タクちゃん…」


ヒナは、ありがとうございますと皆に言って、また泣いた。




夜遅かったので、ヒナを送ることにした。


「ヒナ。」


「は、はい。」


「ナオの最後、何をされたか知っているか?」


「…」


「…はい。」


「俺にも、おじさん達にも…言えないんだな?」


ヒナは、唇を噛み締め、コクリと頷いた。


「…分かった。」

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