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Vendetta  作者: tama
ヒナ
12/19

ヒナ 2012 冬 中編

私は、一人で、体育館倉庫の掃除をしていた。

初めは、一人じゃなかったけど、皆何かと理由をつけて帰ってしまったので、

今は、一人だ。

本当に用事なんてあるのかな…と、頬を膨らませながら、用具の整頓を始めた。

…これは、ちょっと大変だなぁと、溜め息をつきながら、セッセと作業していた。

すると誰かが、体育館に入ってきた…今は放課後で、今日は部活無い筈なのに…

誰だろう?と、別に悪い事をしている訳でも無いのに、隠れて様子を伺う。

やがて、侵入者の正体が分かり、

私は、ロッカーに隠れた。

ミウに、メグ、アキ、マサ、レンだった。

なんで、私の天敵ばっかり…

ロッカーに隠れちゃったので、奴等が帰るまで、出れなくなってしまい、

はぁと溜め息をついた…

早く帰んないかなと思ったが、奴等は私の居る体育館倉庫に来た。

私は、また溜め息をついて、なんでこんな所に隠れちゃったんだろう…

と同時に、奴等は何しに此処に来たんだろう?

という疑問がわいた。

私の経験から、この五人が集まった時は、嫌な事が始まる前兆だ…

私が此処に居て、奴等が其処に居る。

何かが起こるなら、その被害を被るのは、ナオちゃんだろう。

私の心の奥底から、怒りがわいてきた…

掃除用具のロッカーに、隠れていた私は、右手で箒を手繰り寄せた。

もし、私の想像通りの展開になったら、

私は、闘う。

箒をもった程度じゃ、何も出来ないだろうけど…

ロッカーから急に、人が出てきたら、怯むだろう。

そしたら、ナオちゃんの手を引いて、逃げよう。

あの時、私を助けてくれたように、私だってナオちゃんを助けられる。

そんな妄想をしながら、息を潜めた。




私の、想像は当たってしまった。


「ヒナっ!!」


息を切らし、全身汗だくになったナオちゃんが体育館倉庫に入ってきた。

ハァハァと、荒い息でヒナは?と聞くナオちゃん。


「ヒナが、どうかしたか?」


ミウが、笑いながら答えた。


「ヒナがまた、イジメられてるって聞いたんだけどなぁ…」


「ははっ、なるほどね…あの子もグルか…」


ナオちゃんが、ははっと、悲しそうに笑うと、

ミウとメグが、クスクスと笑った。


「ヒナは、無事なんだね?」


「ああ、何もしてない。」


「そっか…良かった。」


ナオちゃんは、私の無事を知ると、ホッとしたように笑った。

私は、唇を噛み泣いていた。

ナオちゃん…自分も辛い筈なのに…

私の心配を…ありがとう、ありがとう…うぅ…

そんな、ナオちゃんの優しさにつけこみやがって…うぅ…クソッ!

騙したんだな、私をダシに…卑怯者共…許せない。

私は、箒を握り締めロッカーのドアに、手を掛けた。

待ってて、ナオちゃん絶対助けるから…逃げよう。




でも、ナオちゃんは立ち向かった、立ち向かってしまった。


「で?」


「あの子使って、ヒナダシにしてまで呼び出して、何の用?」


「…」


「わざわざこんな手の込んだ事しなくても、」


「アンタ達の呼び出しくらい、受けて立つっての。」


「ナオちゃん、カッコいぃ~」


メグが、わざとらしく言うと、

ナオちゃんは、はぁと溜め息をつきながら、


「てかさメグ、そういうノリ、マジ勘弁…」


「虚勢丸出し…見てて痛々しいっつーの。」


「メグちゃんは、誰に対しても斜に構えてて、カッコいいね。」


「…」


メグは、何も答えなかったが、眉が吊り上っていた。


「あとさ、アンタ等なんなの?」


マサとレンに言った。


「あっ?」


「ヒナの時から思ってたけどさ、女子の喧嘩に首突っ込むとか…」


「アンタ等本当に男の子?」


「マサは、メグに頭上がんなくて?ダセェ…」


「レンは、ヒナにフラれて腹いせで?…それからズルズル?…さらにダセェ。」


と、ナオちゃんは、心底軽蔑した表情で笑った。

その笑いで、二人の顔はみるみる、紅潮していった。

ま、いいやと言葉を句切り、


「で?どうしたいの?」


「そこにあるボール、皆でぶつけて、私泣かしちゃう?」


「それとも、恥知らずな男子使って、私の裸の写メでも撮っちゃう?」


ナオちゃんは、心底イラついた表情で、五人を睨みつける。


「なんでもいいけどさ、やるならやれよ。」


挑発するナオちゃん。

駄目だよ、そいつ等は本当にやるよ?

ナオちゃんは、甘く見てる…そいつ等は個人じゃない、集団なんだ…

集団の心理は怖いんだよ?

逃げてよ…逃げようよ、ナオちゃん!!


「友達に裏切られる事より、辛いことなんて、無い…」


ナオちゃんは、ミウを睨みつけていた。

ミウは、一瞬とても複雑な表情になったが、

それでもナオちゃんを睨み返していた。


「半分、正解。」


メグだった。


「私ね、考えたの。」


「ナオにはさ、ボールとかバケツの水とか効かないよね?」


わかってる、と笑顔で話すメグ。


「でもね、ナオが辛~くなる事、思いついちゃった。」


「それはね、タクちゃん…」


ナオちゃんは、タクちゃんと言う言葉に激しく反応する。


「お前ら…タクちゃんに何かしたの?」


「違う、違う…」


「タクちゃんには、何もしてないよ~。つか、しない。」


「要はね、ナオがタクちゃんにどう思われるかって事…」


「…」


「この意味、解るかな~?」


それって、ナオちゃんに、タクちゃんから軽蔑されるような事させるってこと?

此処には、男子が二人居て、ナオちゃんは一人囲まれてる…

ああ…理解した。

メグの野郎がしようとしている事。

半分正解ってのは、ナオちゃんが言った、裸の写メって事だ…


「さぁ、恥知らずな男子諸君、やっちゃいなよ。」


その合図で、マサとレンが一歩前に出る。

ナオちゃんは、一瞬怯んだが、

逃げても無駄だと思ったのか、逆に男子に向かっていった。

ナオちゃんは、マサに思いっきり、殴りかかった!

しかし、やはり女の子の力、マサにあっさり、腕を掴まれ、後ろ手にされる。

そこに、ロープを持ったレンが来て、腕を縛る。

さらに、ハンカチで猿轡をされ、マットに押し倒された。


「…ん、ぐっ…」


メグは、ナオちゃんの無様な姿を満足そうに眺め、笑う。


「安心して、さすがにマサやレンにそんな事させないよ。」


「もっと相応しい人、呼んでるのよ?」


メグは、ナオちゃんの目の前まで顔を持っていき、ニコニコ笑ってた。


「準備オッケーで~す。入ってきてくださ~い。」


「ま、る、や、ま、せ、ん、せ、い。」


ニヤニヤと、下卑た笑みを浮かべながら、丸山が入ってきた。

メグと、一言二言喋ると、丸山から手渡された、紙をヒラヒラさせながら、


「こんなに貰っちゃった、一人二万だよ~。」


と、笑いながら話した。

ナオちゃんは、尻餅をついた状態だったので、立ち上がろうとした。

が、丸山に押さえ付けられた。


「っぐぅ~」




今じゃないか…

今しか無いじゃないか、今一番、ナオちゃんが助けを求めている。

ロッカーから出て行って、丸山のクソ野郎の、ハゲ頭に箒をぶち込んでやろう!

そして、ナオちゃんの手を引っ張って逃げるんだ…

それだけじゃないか…それだけなのに、なんで動けないんだ…


きっと、あっさり捕まるだろう。

でも、いい。それでも、いい。

ナオちゃんと、おんなじ事されたっていい。

ナオちゃんの、苦しみを少しでも肩代わり出来るなら…

でも、心が動いても、体が動かなかった。

膝が震え、歯がカチカチ鳴って、涙が溢れた。




意を決して、ロッカーの扉を開く。

でも、其処にはナオちゃんしか居なかった。

ナオちゃんは、静かに泣いていた。

やがて、私に気付いて驚いたが…自分の今の姿を見せたくなかったのか、身を丸めた。

私は、顔をぐしゃぐしゃにしながらナオちゃんの、猿轡と手のロープを外した。

そして、散らばっていた、スカートや下着を拾い集めた。


「ありがとう…ヒナ、ごめんね…」


ナオちゃんは、私にありがとうと言った。

私は、胸が締め付けられそうになり、また泣いた。


「そ、傍に、傍に居たのに…ごめんなさい…」


役立たずで、ごめんなさい…

弱くて、ごめんなさい…

何も出来なくて、ごめんなさい…

悔しくて、腹立たしくて、床を掻き毟りながら、泣いていた。

ナオちゃんは、私の姿を見ながら、やがて、うっすらと笑い、

私の頭を、大きな胸に抱いてくれた。

母が子をあやす様に、頭を撫でながら、


「ヒナ泣かないで、私大丈夫だから…」


私は、ナオちゃんの背中に手を回し、ギュッと抱きしめた。


「う、嘘です…ぅう…」


「…」


うん、ごめん嘘。

と言いながら、私を抱きしめて泣いた。


「ヒナぁ…私にはもう、ヒナとタクちゃんしか居ないんだ…」


「ヒナは、最後まで味方で居てくれるよね?」


「も、勿論だよ…絶対にどんな時でも、私はナオちゃんの味方。」


「うん。ありがとう…。」


ナオちゃんは、涙を拭いていた。

少し落ち着いていたようだったので、


「な、ナオちゃん、学年主任の先生に訴えましょう。」


「えっ?」


「わ、私が、証言します。」


「こ、これだけの事したんです。」


「あ、あの教師も、五人も只じゃすみません…」


丸山は懲戒退職、五人は少なくとも停学、いや退学だろう…

奴らの人生狂うだろうけど、それだけの罪を背負った。

罰を受けるべきだ!!


「駄目…」


「えっ?」


「嫌だよ…内緒にしてて…」


「…どうして?」


「タクちゃんに…知られたくない…」


「そ、そんな…」


「あ、アイツ等…写メ、撮ってた。」


「こ、これからずっと、ずっとそれを盾に、イジメられちゃう…」


「耐えるから…」


「ヒナは、ずっと友達で居てくれるんだよね?」


「うん。」


「なら、耐えられる…」


「…」


ああ…ああメグ、クソ野郎…

アンタの言う通りだ…ナオちゃんは、自分よりタクちゃんを選んだ。

メグ、アンタの刺した包丁は、ナオちゃんの心臓に達している。


「お願い、ヒナ…言わないで…言わないで…」


「タクちゃんに、嫌われたく無い…」


ナオちゃんは、また泣き始めた…

私は、ナオちゃんを強く抱きしめた。

こうやって抱きしめていないと、粉々に砕け散りそうだったから…


「う、うん。言わないよ、ナオちゃんがそう言うんだもの…」


私は、ナオちゃんの味方だよ。




教室に戻り、自分の鞄と、ナオちゃんの鞄を取ってきた。

風に当たりたいと言っていたので、

校門で待っててくれてるかなと思っていたが、ナオちゃんは居なかった。


「ど、どこだろ…」


というか、私は何故、ナオちゃんを一人にしたんだろう…

今ナオちゃんは、傷付いている、それはもう自分を消し去りたいほどに…

ナオちゃんの心情を考えて、私は直感した、屋上だ!!


「ナオちゃん!!」


私は、持っていた鞄を投げ捨て、走った。

階段を駆け上り、屋上についた。

そこには、ナオちゃんが居た。

ナオちゃんは、フェンスを越えた先に居た。


「な、ナオちゃん?」


「…ヒナ。」


「そ、そんな所に立ってたら危ないよ?」


「帰ろう?」


「ごめん、ヒナ、もう疲れちゃった…」


ナオちゃんは、一度も私のほうを向かずに、跳んだ。


「そ、そんな…」


私は、フェンスに駆け寄り、

聞いた。

ナオちゃんの死にゆく音を。

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