ヒナ 2012 冬 前編
屋上で、紙パックのジュースを飲んでいるナオちゃんを見つけた。
ボーッとしていたが、やがて、私に気付きニコッと笑った。
昔のように、笑顔に力がなくて、胸が痛くなった…
「お、お昼は屋上で食べてるの?」
「うん、そういえばヒナとはお昼一緒したこと無かったね。」
「タクちゃん達と食べてるよ。タクちゃん達は購買部でパン奪取中。」
ははっと笑う。
「私は、お弁当だし待ってるの、一緒に食べたいしね。」
「そうだ、ヒナも一緒に食べよ?」
タクちゃんに悪いし、いいよと言ったら、
「カズ君達も一緒だし、二人きりじゃないよ。」
カズ君もノブ君も、気が利かないよね、と笑った。
ナオちゃんは、ストローを玩びながら、なんとなく聞いた。
「何か用あった?」
「あっ…」
用はあった、私はナオちゃんを捜しに屋上に来たんだ。
でも…
「な、ナオちゃん最近、元気無いなって…」
私は、今ナオちゃんが措かれてる状況を、何とかしたかった…
私なんかじゃ、どうにも出来ないだろうけど…何とかナオちゃんの役に立ちたかった、
ナオちゃん最近、元気無いなって…私は、何を言っているんだろう…
ナオちゃんが、元気ない理由、私が一番よく知っているのに…
ナオちゃんは、イジメられていた。
私へのイジメを庇っているうちに、ナオちゃんにターゲットが移っていたのだ…
「…ご、ごめんなさい。」
なんで、謝るの?って聞かれて、またごめんなさい。と答えた。
フーッと、溜め息をつくナオちゃんは、
やがて、私の目を見て、ニコッと笑ってくれた。
「イジメなんて、どうって事無い!」
「って、思ってた。」
「私には、タクちゃんが居るし、エミやヒナも居る。」
「だから実際、どうって事無かったよ…」
「でもさ、」
と句切り、俯いた。
「最近、イジメにミウが加わったんだ…」
「ミウが、だよ…」
ナオちゃんは、ミウちゃんと親友だった。
以前、ナオちゃんが話してくれた。
ミウちゃんとナオちゃんは、中学一年からの仲らしい…
互いに女子バスケ部に入部して、初めに出来た友達だった。
初めは、見た目がヤンキーで、近寄り難かったけど、
一生懸命練習するミウちゃん見てたら、距離を置いていたのがバカらしくなって、
ナオちゃんから話し掛けて、すぐに仲良くなったらしい。
「ミウってさ、弟萌えなんだよ。」
と、嬉しそうに話していた。
弟と居る時は、あっマコちゃんって言うんだけどね、
とっても優しいお姉さんになるんだよ…ギャップが凄くて、すっごい可愛いよ。
と、満面の笑みで楽しげに話してくれた。
そんな、大好きな友達から、裏切られた…
「誰にイジメられたって、平気なんだけどな…」
「ミウにイジメられると、昔の思い出とか思い出しちゃって…」
「泣いちゃうよ。」
はぁと、溜め息をつくナオちゃん。
「ミウに何があったんだろう…私が何かしたのかな?」
と、独り言の様に話して、また、はぁと溜め息をついた。
「下らないよね…イジメって。」
「って当たり前か…」
「…うん。」
「わ、私は、何時でも何処でも、ナオちゃんの味方で、傍に居るから…」
ナオちゃんが、そうしてくれた様にと、
言いたかった事を言ってみた。
すると、ナオちゃんはさっきより、少し力強い笑顔で
ありがとう、って言ったくれた。
ナオちゃんと、お腹空いたねと、話していたら。
階段の方から、ドタドタと人が、やって来た。
「購買部、マジ地獄…」
とか言いながら、タクちゃん達が、私達の隣に座る。
お弁当を食べながら、ナオちゃんが、
「私、自分でお弁当作ってるし、タクちゃんの分も作ろうか?」
「えっ、マジで?」
「ははっ、ついでだし、いいよ。」
「ちょっと!!羨ましいんだけど、それ俺のも入ってんだよな?」
と、カズ君がナオちゃんに聞いた。
「私タクちゃんの分しか、作りたくな~い。」
ナオちゃんは、舌を出しながら、タクちゃんの腕に自分の腕を絡ませた。
「ヒナに作ってもらったら?」
「ヒナも確か、自分で作ってたよね?」
急にフラれて、ビクッとなった。
「う、うん…」
「マジで!?作ってくれ!!」
カズ君は、何だかよく分からないテンションで、私に懇願してきた。
私は私で、男の子にお弁当を作るってシチュエーションにドキドキしながら、
「ぁわ、わ、私の作ったお弁当なんかで良かったら…」
「頼むよ、ヒナ!アイツ等が、ラブラブで弁当つつく姿をパン貪りながら眺めるなんて、屈辱的だ。」
イヤ、気を使って、二人きりにしてやれよ、と思ったが流した。
「ヒューヒュー、決まりだね。」
と、ナオちゃんがニッコリ笑いながら、私の肩をポンッと叩いた。
「あ、あのう、宜しいでしょうか?」
「あっノブ、居たのか?」
タクちゃんが、何気に酷いことを言った。
「いやいや、俺の弁当は?」
「「「無い。」」」
タクちゃん、ナオちゃん、カズ君の三人が、綺麗にハモり、皆で笑った。