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Vendetta  作者: tama
ヒナ
10/19

ヒナ 2011 冬

体育は、苦手だった。

運動が苦手だったのは勿論だが、特に苦手なのは、チーム分け。

先生が、適当に割り振ってくれれば、どうというわけではないが、

好きな者同士…なんて言われた日には、消えて無くなりたい気持ちになった。


その日は、バレーをする事になっていた。

好きな者同士…と、先生の声が掛かる。

また、誰にも声を掛けれず、一人ぼっちで、

誰かが、入れてあげなよと、私を押し付けあう時間が始まるのか、

そう思うと、内心溜め息をつきたくなった。


「ヒナ。」


ナオちゃんが、私を呼んでいた。


「一緒にやろう。」


ナオちゃんは、とても可愛い笑顔で、私に手を差し伸べてくれた。

ドキドキと、心臓が高鳴っていくのが分かった。

ありがとう、と素直に言って、仲間に入れてもらいたかったけど、

同時に、私なんかがナオちゃんのチームに入っちゃったら、足引っ張って迷惑かけちゃう…

という考えが浮かんで、差し伸べられた手をとれないでいた。


「ウチのチーム、一人足りないのお願い。」


ナオちゃんは、差し伸べられた手すら、自分で掴みに行けない私の為に、

一歩踏み込んで、私の手を掴んでくれた。


「皆で頑張って、他のチームボロクソにしちゃおう。」


ナオちゃんは、ニコッと歯を見せて笑った。

私は、ナオちゃんみたいに素敵な笑顔は出来なかったけど、自分に出来る最高の笑顔で、

「ありがとう」と言った。

普通の人から見たら、きっと大袈裟だな、と思われるだろうけど、

ナオちゃんの、一歩踏み込んで来てくれる感じは、とても有り難かった。

私は、例え手を差し伸べくれても、その手を掴めない、臆病者だから。

ありがとう…ナオちゃん。




チームごとに、試合が始まった。

私は、やっぱり足を引っ張っていた…

でも、ナオちゃんは、運動神経がとても良く、同じチームのエミちゃんと、ミウちゃんとのチームプレイで、

面白いように勝っていった。

私が、何の役にも立てず、むしろ足を引っ張って、情けないなと、肩を落としていた。

すると、ナオちゃんが、私の肩をポンッと叩いて、


「いいじゃない、運動が苦手でも、」


ヒナは、運動が苦手でも私達の為に、一生懸命じゃん!

出来ないって、諦めるんじゃなく、チームの為にって頑張ってくれたら、私達も嬉しい。

いつの間にか、他のチームメイトも集まって、私を励ましてくれていた。

…体育が楽しいって、初めて思えた。


「最後の相手は、手強いよ。」


チームに分かれて、対抗戦みたいな事をやっていて、

私達は、最後まで勝ち残っていた。

最後のチームには、女子バレー部のメグが居た。

私は、正直怖かった…

あの日以来、特にイジメられていなかった。

ナオちゃんが、いつも傍に居てくれて、仲間外れも無視も気にならなくなっていた。

けど、メグと目が合うと、ナオちゃんから貰った、たくさんの勇気が、どんどん無くなっていく…


「ヒナ、大丈夫。」


ナオちゃんが、私とメグの目線の間に割って入ってきて、私と目を合わせてくれた。

ニコッと笑って、「大丈夫、頑張ろう」と言ってくれた。

ごめんね、ナオちゃん、手間のかかる子だよね…

ありがとう。


試合は意外にも、私達のチームが優勢だった。

ナオちゃん、エミちゃん、ミウちゃんのチームプレイが凄くて、メグも苦戦しているようだった。

メグは、肩で息をしながら不機嫌そうな表情になっていた。

すると、また私とメグの目が合う。

メグは、ニヤリと笑って、ボールを持つ。

ああ、嫌な笑顔だ…私に意地悪する時の、嫌らしい笑顔だ。

でも、私は逃げない。

ナオちゃんに、大丈夫って言って貰えた。

頑張ろうって言われた。

逃げないといっても、いつもの様に俯かないってだけなんだけど…

私は、力強くメグを見つめ直した。

それが、メグをさらに苛立たせたようだった…

メグは、ボールを高く上げ、自らもジャンプした。

ああ~あんなに高く跳べるなんて凄いな。

なんて、素っ頓狂な事を考えていたら、

メグの強烈なスパイクが、私目掛けて飛んできた。


ど、どうしよう!!あんなボール受けれないよ…

避けなきゃ、でもでも、避けるってことは、逃げるってこと。

逃げるってことは、頑張らないってこと。

ナオちゃんが、頑張ってるって言ってくれた、

頑張る…それすら出来ない奴に、ナオちゃんから助けてもらう権利なんてない!

そんな考えを巡らせながら、私は、スパイクを受ける決意をする。

いや、受ける事も出来ないだろう…

私に出来ることは、逃げずに立ち向かう事だけ。

きっと、痛いだろう、当たり所によっては怪我するかも…

でも、いい。

ナオちゃんを落胆させるくらいなら…

私は、目を瞑り、歯を食いしばる。


バシィィッ

痛みは無かった。

その代わりに誰かが、私に圧し掛かってきた。

私は、その人の重みでバランスを崩し、尻もちをついた。


「ナオっ!!」


エミちゃんと、ミウちゃんが、血相を変えて走り寄ってきた。


「っ~たたた…」


鼻血が出て、鼻を押さえ苦笑いになっていた、ナオちゃんが居た。


「な、ナオちゃん…」


「何やってんだよナオ!!」


「イヤ、すまんね。メグの気合の入ったスパイクに、挑んでみたくなっちゃってさ…」


タハハと笑いながら、答えていた。

どうして、そんな嘘を…

どう見ても、私を庇って前に立ってくれたのに…


「ったく、メグ!なんつー球打ってんだよ!」


「ごめんねナオ、負けそうで苛ついちゃってた。」


と、メグが白々しく言う。


「いいって、たたたっ…」


「とにかく、保健室行けよスゲー血だ。先生には私から話しとく。」


「ははっ、頼むよミウ。」


「エミ、ヒナ、ナオ連れて行ってやってくれ。」


「うん。」


「あっは、はい。」


エミちゃんが、ナオちゃんに肩を貸して、抱き上げてあげた。

私は、ポケットからハンカチを出し、ナオちゃんの鼻を拭こうと近づいた、


「わわっいいって、ハンカチ汚れちゃう。」


「そ、そんな事…」


気にしないでって言おうとしたが、言葉が詰まって、上手く喋れなかった。

私が、ハンカチを鼻にあてがうと、白いハンカチがみるみる、赤く染まっていった。

ナオちゃんは、ごめんと謝ったが、

私は、首を振った。


「な、ナオちゃん、私のせいで…」


私が、変な意地持ったせいで…


「逃げなかったね。」


「えっ?」


「カッコよかったよ。」


「…」


「鼻血なんて、ティッシュ詰めとけば治るよ。」


ナオちゃんは、いつものように素敵な笑顔で私を見てくれた。




保健室には、保険の先生は居なかった。

仕方がないので、私達で治療することになった。

エミちゃんが、私不器用なんだけどなと、不吉なことを言いながら。

棚を色々と漁っていた。


「いやいや、鼻血だよ?ティッシュ詰めとけば治るって…」


「えっ?消毒は?」


「消毒って、鼻を?痛そう…」


鼻血って、消毒しなくっていいんだっけ?とエミちゃんが聞いてきた。

エミちゃんに任せてると、とんでもないことになりそうだったので、


「は、鼻に、詰め物して、ベットに座って上を向いてるのが一番かと…」


エミちゃんと、ナオちゃんは「だよね。」と笑い、指示に従ってくれた。

私は、冷やすのも効果的だと聞いたことがあったので、氷嚢を作りに行った。

うちの高校の保健室は、妙に広くて、ベットと冷蔵庫が離れたところにあった。

なので、エミちゃんは安心したんだろう…小声でナオちゃんに話し掛けてた。


「…もうやめなよ…」


「何を?」


ナオちゃんは、天井を眺めながら答えた。


「さっきの…ヒナ、庇ったんでしょう?」


「…うん。」


「ナオも、イジメられちゃうんじゃないかな…」


「う~ん…かも、ね…」


「でも、ヒナって可愛い子だよ?」


「ちょっと、大人しいけど話すと、楽しい。」


「友達なんだ…友達イジメられて…無視なんて出来ない。」


「ま、見ててよ。いつか、メグとヒナの手取り合わせて、一緒にご飯食べに行って見せるから。」


あはははと、笑いながら話すナオちゃん。

ナオちゃん…

そんなナオちゃんを、心配そうに見ていたエミちゃんだったけど、

フフッと笑って、


「その時は、私も一緒に連れてってね。」


と言った。

私は、深呼吸をしてナオちゃんのところに戻った。

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