ナオ 2012 冬
星を眺めていた、
いつもは青空をあるいは曇り空を眺め、
お弁当を食べたりただお話をしたりしていた
お気に入りの場所で、夜の景色を眺めていた。
プルルル…
空虚な静寂に無粋な電子音。
携帯のディスプレイには私の大好きな彼の名前。
「はい…」
「ナオか…良かった、メール見た。」
「うん…」
「どういうことなんだ?別れたいって…」
「そのまんまの意味だよ。別れよう。」
「俺に、何か…」
「違うよ…大好き。」
「だったら!!」
「違うの、きっとね、タクちゃんが私の事嫌いになっちゃう。と、思う。」
「分かんねぇ…ナオ、会って話そう。今、どこにいる?」
「…学校の屋上。」
「学校?…なんで…いや、とにかくすぐ行くから、待ってろよ?」
「…」
タクちゃんが来てくれる。
来て欲しいのかな?私は決心したんじゃないか…
揺れている、
タクちゃんが居てくれれば、頑張れる…違う、
きっと私の事を知ったら、タクちゃんは私の事嫌いになる。
ならないよ、タクちゃんは優しいもの…
じゃあ、やめる?優しいタクちゃんに受け止めてもらう?
出来ない、出来ないよ…
タクちゃんに私の事知られたくない。
気が付くと、両目いっぱいに涙をためていた。
「ぅうう…くっ…」
悔しかった、情けなかった
何だか分からない感情が頭の中で、グルグル渦巻いて、涙が止まらなかった…
目を瞑ろう。
瞑ったら、もう二度と開かない。
それが覚悟、決意。
そのまま、消えてなくなろう。
未練はある、たくさんある。
まだ十六歳だ…将来の夢もあるし…あったし、
タクちゃんと付き合えたけど、まだキスしかしていない…
結婚もしたかったし、赤ちゃんだって…
止めよう。
私は、フェンスを越え縁に立つ、
一歩踏み出せば私は解放される。
「ごめんね、タクちゃん。」
もう、疲れちゃったんだ。
私は目を瞑り、跳んだ。
嫌な予感がした。
ナオは最近思い詰めていた、俺が何度聞いても、
「なんでもない」
と答えていたが、その顔はやつれ、かつての快活さは何処にも無かった。
自転車で学校を目指す俺は、
きっとその場面を想像していた…
今、目の前に広がる光景を。
ナオは、屋上には居なかった。
空を仰ぎ、目を見開いたナオは、
俺の呼び掛けに答えてはくれなかった。
ナオの葬式に参列していた。
クラスメイトがさめざめと泣く姿を見て、
白々しい、と唾棄したい気持ちだったが、
おじさんとおばさんの姿を見て、その感情を押し込めた。
おじさんとおばさんは泣いていた、今も泣いてる。
羨ましいくらい、仲の良い親子だった。
ナオは一人娘で、
お父さんが門限にうるさくて、とデートを打ち切られたのを思い出す。
そんな大切な娘を失ったんだ、きっと張り裂けそうな思いだろう。
焼香を終え、ナオとのお別れになる。
ナオの棺に花を添える…これが、最後。
そう思うと、流し尽くした涙が、溢れた。
ナオが運び込まれた病院で、俺は警察に軽く事情を聞かれた。
程なくして、おじさんとおばさんが到着した。
ナオとの対面後おじさんがやって来た。
「やぁ卓也君。」
「こんばんは…この度は…」
「いや、はは…いいんだ」
「母さんから聞いたよ。直美と付き合ってたんだって?」
「はい。お付き合いしてました。」
「そっか、そうか。はは、は」
「…」
「直美が何故自ら死を選んだか、何か知っているかい?」
おじさんは、険しい顔をしながら俺を見つめる。
俺は、一呼吸置くと、
「…イジメ、」
「直美さんは、クラスメイトからイジメられていた、と思います。」
「…思う?」
おじさんは、俺をジッと見据え、次の言葉を待っている。
「直美さんは、話してくれませんでした。何度聞いても、私は大丈夫、と」
「直美の悪い癖だよな…」
「君がもっと気を付けてくれれば、なんて言える筋合いは無いよな…」
「私も知らなかった、君や私や母さんに、言えなかったんだろうね…」
そう言うと、おじさんは目頭を押さえ、
声にならない嗚咽をもらした。
「…イジメていた連中を知っているかい?」
「…」
「すみません…」
ナオの葬式の次の日。
俺は登校していた。
学校なんて胸くそ悪い、と思っていたが…知りたかった。
ナオが死んだわけを、死に追いやったものを。
エミがナオの机に花を供えていた。
エミはナオと俺の一番の友達、幼馴染みだった。
「エミ…」
「タクちゃん…」
エミは目を潤ませ俯いた。
ナオの死が、すべての始まりだった、と後に気づくことになる。