06 豆乳、おから
土曜日の午前中。
「まずは、大豆を3倍くらいの水に浸けます。最短でも8時間くらい浸けるので、前日に浸けておくと良いわよ。寒い時期は長めにね。真冬なら24時間浸けるようよ」
社長の奥さんは、既に水に浸けてある大豆を取り出した。乾いていたら真ん丸の大豆が、吸水して豆型になっている。
「これは、昨夜水に浸けて、先ほどザルにあげました」
「はい」
「乾燥した大豆は、水に浸けると2.2~2.5倍くらいになります。これを茹でると、2.5~3.0倍くらいになります」
「随分膨らんで増えるんですね! 乾燥させるって凄いんですね」
僕が、乾燥させると凄いと言ったことを、なぜか褒めてくれた。着眼点が素晴らしいらしい。
「大豆は200g用意しました。教えやすい量といった作業性の問題なので、大量に作るなら大量に用意してくださいね」
「はい」
店の裏口の戸が開く音がした。誰が来たんだろう?
「こんにちは! あ、まだ間に合った?」
パートの女性が何故か来た。どうやら作業を見たかったらしい。
僕と違い手を出すこと無く、カメラを構えながら、じっと作業を見守っている予定のようだ。
「水500mlと一緒に、戻した大豆をミキサーやフードフロセッサーで細かく砕きます。機械がない場合、水を加えずに、擂り鉢と擂りこ木で頑張って擂り潰します」
機械がない場合、物凄く大変そうだなぁと思いながら説明を聞いていた。
「1度に作ろうと思うと綺麗に細かくならないので、何度かに分けて作ると良いですよ」
「はい」
僕はノートにメモを取りながら、簡単な絵を描き、説明をしっかり聞いていた。
「茹でる前の大豆を擂り潰したものを『生呉』と言います。もし面倒でないなら、大豆の皮を全て取り除いてから作ると、味が良くなりますが、商売的には現実的ではありません。暇があったら挑戦してみてください」
「はい!」
少しだけ、豆をミキサーに入れるのを手伝ったりして、家でも作ることが出来そうだなぁと考えていた。
「あ、そうだ。電気がない場合の機械で、豆を挽けるタイプのミンサーがあれば、擂り鉢で擂り潰すよりはるかに楽に出来るわよ」
「そういう器具があるのですね」
「ミートミンサーとか見たこと無いの? うちにもあると思うけど、今度探しておくわね」
「ありがとうございます」
豆を挽けるミンサーがあれば、味噌を作るときにも便利なのだそうだ。そうか、味噌も自分で作れるんだね。
「大豆を全て擂り潰したら鍋に入れます。ミキサーに残る生呉に、水500mlを使用し、綺麗に鍋に移します。水は合計で1リットルです」
簡単に移す方法を教えてくれて、とてもありがたい。ミキサーの中身って、綺麗に取り除くのが物凄く大変で、結構時間がかかる。母がゴムベラで大変そうにしていたのを見たことがある。分量の水で洗い流す方法は一石二鳥で素晴らしいと思う。
「少し大きめの鍋を用意しました。これは、吹きこぼれ防止のためです。強すぎない火にかけ熱します。少し沸騰してきたら火を弱め、しっかり底から混ぜながら10分くらい煮ます。非常に焦げやすいので注意してください。量が違う場合、生っぽい匂いが煮豆の匂いに変わるまで火を通します」
少し代わってもらい、鍋底からしっかり擦り取るように混ぜながら煮ていった。
何だか美味しそうな匂いがしてきた。
「そろそろ良いかしらね。生呉を加熱したので、これは『煮呉』です。火を止め、ボールに取っ手の有るザルをのせ、サラシ(布)を敷き、煮呉を流し入れます」
濃度があるためか、サラシの中の水分はタプタプな感じだ。
「菜箸を使い、サラシを絞ります」
サラシの四つ角を集めてねじり、菜箸に巻き付け絞っていった。木ベラも使いサラシを押し、熱さに気を付けて水分が出なくなるまでしっかり絞った。
「絞った液体が豆乳で、サラシに残るのが、おからです」
豆乳は900mlほど出来上がり、おからは250gくらい出来上がった。
「なんだか、感動します」
「全く別の形に変わるって感動するわよね」
「はい」
「続きは2時間後で良いかしら?」
「構いませんが、何かあるのですか?」
「予約分のお弁当を作るのよ」
「そうなんですか!? よろしければ、手伝います」
「あらありがとう」
パートさんは、このために来ていたらしい。土日のお弁当は、予約分だけの販売なのだそうで、今から24人前作るのだそうだ。僕が見ていない時に、お米を研いでご飯を炊き始め、下準備をしていたらしい。
お米は1升を炊き始めており、塩鮭がサラマンダーにセットされ、焼かれていた。サラマンダーって、炎を吹く怪獣みたいな名前だけど、焼き物を焼く機械の名前だ。初めて聞いたときは、何言ってるんだろう?社長が名付けたのかな?と怪訝な顔で見てしまった。
いつの間に作ったのか、色々なおかずがお弁当箱に詰め込まれていく。少し豪華なお弁当らしく、平日には見ないおかずがたくさん入っていた。僕はひとつ見本を作ってもらい、その通りにおかずを詰め込んでいく。
「3人だと早いわねぇ」
社長の奥さんが、笑いながらこちらを見ていた。
「副社長ー、箸が足りません!」
「これ、高い方の箸付けるから大丈夫よ」
「了解でーす」
パートさんは、社長の奥さんを副社長と呼んでいる。僕もそう呼んだ方が良いのかと尋ねたことがあるのだけど、どっちでも良いわ。と返された。他の人を観察してみると、どちらの呼び方も使われていて、どちらの呼び方も使っている人もいて、本当にどちらでも良いらしい。
予定より早くお弁当は仕上がった。
「一抹君、応援ありがとう。お陰で早く帰れるわ」
「光明君、お手伝いありがとうね。時給につけとくわね」
「どういたしまして。役に立って良かったです」




