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そんなに好きなら、もうその世界に転生してしまいなさい。  作者: 葉山麻代


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05 低温殺菌

一抹(いちまつ)君、何か教えて欲しいこととか有る?」


 ある週末、団体の予約客の準備が終わって少し暇になり、社長兼料理長が、僕に声をかけてきた。


「えーと、何でも良いですか?」

「オレが知ってることならな」


 経験はないけど調理を担当したいとアルバイトの面接の時に希望したので、暇があったらなんでも教えようと言われていたのだ。他の従業員は、コーヒーを飲みながらこちらを見ていた。


「手作りマヨネーズって、作れますか?」

「それは、食いたいのか? 作ってみたいのか? 作り方を知りたいのか? 今すぐに教えられるぞ」

「作り方を詳しく知りたいです。ラノベで読んで作ってみたことがあるのですが、失敗しました」

「ほお。それはそれは」


 楽しそうに笑いながら卵と酢とサラダ油と、ボールと泡立て器を2組用意し、1組を渡された。


「まずは卵を割って、卵黄1個をボールに入れ、泡立て器で混ぜる。塩少々を混ぜ、酢を大さじ1加え、良く混ぜるんだ」


 横に並んで同じように作業し、油以外を混ぜた。


「ここに、サラダ油を150ml用意し、少しずつ加えながら、しっかり良く混ぜる。過剰かと思うくらい、良く混ぜる。それの繰り返しだ。失敗したのは、1度にサラダ油を加える量が多かったんじゃないか?」


 僕は驚いた。ラノベの記述では、「混ぜる」と簡単に出来上がっていた。昔作ったとき、ドレッシング状の何かが出来た。最後まで液状だった。それにしても、見てもいない失敗の原因までわかってしまうなんて、本当に凄い人だなぁ。


 説明された通り頑張って作っていくと、混ぜるのはかなり大変だったけど本当にマヨネーズが出来上がった。これは知っているマヨネーズそのものだ!


「まあ、手作りを食べたいだけなら、ハンドブレンダーとかで作ったら良いぞ」


 成る程。あのラノベの作者は、もしかしたら泡立て器で作ったことがなかったのかもしれない。1度でも作ったことがあったら、工程に混ぜることをしつこく書くんじゃないかな。


「あとな、外国の卵で作るなら、低温殺菌が必要だぞ」

「それはどういうものですか?」

「日本の卵は生で食えるが、日本以外の卵はサルモネラ菌が心配だから生食しないんだよ。60℃~64℃で5分以上加熱して、長くても60分くらいだな。終わったら氷水に取り出して急速冷却すれば良いぞ。それからな、65℃を越えると、卵は凝固するぞ」

「そ、そうなんですね! 全く知りませんでした。卵かけご飯は日本でしか食べないとは聞いたことがありましたけど、そうか、マヨネーズも生卵ですね」


 僕が言語化できなかったマヨネーズの更に詳しい知識まで説明され、呆気(あっけ)に取られていた。


「知りたいことは知れたか? そろそろ予約客が来るぞ。今日もよろしくな」

「はい! ありがとうございます!」


 長年(?)の疑問だったマヨネーズの正しい作り方を習得した。外国産卵での作り方まで教えてもらえた。これは僥倖(ぎょうこう)だ。異世界の卵が生で食べられるかはわからない。本当に良い情報だ。


 おにぎりの美味しい握り方や、お茶漬けのご飯は、軽く洗ってから使うなど、家でも役立ちそうなことも教えてもらえた。お握りって、ただ握れば良い訳じゃなくて、崩れないギリギリの強さでふんわりと握ると、別次元の美味しさになると実演で教えてくれた。食べ比べると、本当に同じ材料で本当に同じご飯なのかと驚いた。これはぜひ習得して、母さんに作ってあげようと思う。


 僕は自分用の賄いに、ひたすらお握りを作り続けていた。


光明(みつあき)君、今日も賄いお握りなの? 何食べても良いのよ?」


 社長の奥さんが声をかけてきた。


「社長直伝の美味しいお握りを習得しようと思って、練習しています。まだお客さんには出せませんし」

「そういえば、料理覚えたいって言っていたものね。そうだ、もし興味があるなら、お店で出しているお菓子を教えるわよ?」


 お弁当を売るとき、プリンやゼリーなどが一緒に並んでいる。先日は、お菓子だけを買いに来たらしい客が、もう無いのかと騒いでいた覚えがある。


「え? あれって、奥さんが作っているんですか?」

「夜の乾きものは違うけど、割りと私が作っているわよ」


 夜の乾きものって、サキイカとかカキピーだ。それは買ってくるだろうと思う。奥さんは基本的に販売や配膳を担当しているので、作っているのは社長だけだと思っていた。


「僕に作れそうなものがあるなら、ぜひお願いします」

「品揃えは見たことがあるわよね? 食べてみたいものを作るのが、覚えやすいわよ」


 見たことがあるデザートを思いだし、リクエストをした。


「カスタードプリンか、おからクッキーを教えていただけませんか?」

「カスタードプリンは、すぐ教えられるわ。おからクッキーは、おからから作る? おからは買ってくる?」


 何だか、意外な質問をされた。


「え? おからって家で作れるんですか?」


 僕が子供の頃に母がそうしていたのを見たことがあるので、豆腐を買った時に、豆腐屋から分けてもらうものだと思っていた。


「大豆を用意できれば、作れるわよ。豆乳も出来るし、豆腐も作れるし、何なら卵を使わないマヨネーズ風も作れるわよ」

「す、凄いです! ぜひ、おからも作ってみたいです!」


 お店で売っているおからクッキーは、お弁当を買いに来る若い女性に大人気なのだ。あまりに人気なので1度買って帰ったら、母が物凄く喜んでいた。口どけしなくて食べにくいのに、カロリーを抑えたい女性には食べた満足感があり、むしろそれが良いらしい。


「定休日(水曜日)にする? 土日の午前中にする?」

「水曜日は講義が目いっぱい入っているので、土日でも良いですか?」

「あ、そういえば、本業は学生さんだったわね」


 なぜか他の従業員の方まで、「あー」と、言っていた。授業の空き時間にも顔を出したりしていたので、いつも居ると思われていたらしい。

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