03 母への誤解
気がつくと柔らかい布団に寝かされていた。そばで女性が泣いている。何だか懐かしい気がする。懐かしい声の女性が何か謝りながら泣いている。
「ゴメンネ、ミツアキゴメンネ」
目を開け、泣いている女性を見た。
「……母さん?」
「え? 光明 気がついたの!? 良かった。目が覚めて、本当に良かった……」
そこには、前世の母親が居た。涙でぐちゃぐちゃな顔に無理矢理笑顔を浮かべたあと、僕の右手を両手で握って大声で泣き始めた。
いつもいつでもきっちりきっかりしていたあの強かった母がこんなにも泣くなんて、僕は母を思い違いしていた。母の理想にほど遠い僕は、母には嫌われているのだと、出来が悪すぎて呆れられているのだと思い込んでいたのだ。
「何かありましたか?」
騒がしさに様子を見に来たらしい看護師が、僕を見て驚いているのが見え、急いで医師を呼びに行ったようだった。
慌てた様子の医師が到着し、母は僕から一旦離れ、医師は簡単な診察をしたあと検査の予約を看護師に指示して、母と少し話したあと戻っていった。
少し落ち着いた母によると、僕は現在中学生で、学校の帰り道で事故に遭い、生死を彷徨う怪我をおって半年ほど入院しているらしい。難しい手術も受けたが意識が回復せず、今後、生命維持装置をどうするかと、決断を迫られていたそうだ。
大学進学の為にと貯めていた貯金をはたいて手術と入院費に使ったが、貯金が底をつきそうで、生命維持装置を使い続けられそうになく、無力さに泣いていたらしい。なお、事故を起こした相手は外免で、更に死亡していて、一円たりとも慰謝料が取れなかったと話してくれた。
「母さん、心配かけてごめんなさい」
「ううん、生きていてくれるだけで良いのよ」
母の発言に僕は驚いた。母のハードルが下がりすぎている。進学の為にと貯めていたらしい貯金も使い果たしたそうだし、将来に光が見えないのかもしれない。
学校にも連絡してもらうと、クラスメイトや担任と副担任がお見舞いに来てくれた。
「大丈夫か? 目が覚めて良かったな!」
親友やクラスメイトは明るく訪ねてきた。僕はまだ殆ど動けずにいるが、意識ははっきりしている。先生たちは泣きそうな顔で喜んでいた。
「来てくれてありがとう。これからリハビリだよ」
皆と仲良く話したあと、帰りがけに言われた。
「リハビリ頑張ってな。クラスでノートを分担してるから、そのうち持ってくるからな」
そう声をかけてきたのは学級委員長だった。
「そうなのか? ありがとう!」
学級委員長は心底驚いた顔をしていた。
「喜ばれると思わなかったよ。あはは」
確かに、昔の僕ならそんなことは言わなかったと思う。
2週間くらいあと、清書された全教科のノート半年分が持ち込まれた。持ってきたのは学級委員長ではなく、担任と学年主任だった。
「リハビリ頑張ってるか? お待ちかねのノートを預かってきたぞ」
「ノートを喜んだって聞いてな。わからないところを教えられるように来てやったぞ」
先生たちは冗談めかして挨拶してきた。
「先生、ありがとうございます!ちょっと相談したいことがあるのですが、母がいない時に相談に乗ってくれますか?」
「構わないが、親御さんに内緒の相談なのか?」
「はい」
担任と学年主任は顔を見合わせていたが、相談に乗ってくれると約束してくれた。
まだ長く起きていられないが、母が仕事で来られないのが確定している日に、再度学校の先生に来てもらった。今回来たのは、学年主任と副校長だった。
「それで、どんな相談だ?」
「結論から言います。入院費で使い果たして学費がないので、これ以上母に負担をかけずに高校や大学に行けるようにちゃんと勉強したいと考えています。具体的にどうしたら良いか教えてください」
先生たちは少し驚いた顔をした後、物凄く笑顔になり、雄弁に語り始めた。
要約すると、私立の学校で特待生枠を取得するか、成績によって全額免除になる奨学金を使うのが一番お金がかからないと教えてくれた。




