捌
「《嘲りの鉈梛九》よ。貴方の目的は、在の蒼馬の霊獣ですね?」
セレスの其の声は、邪気に包まれても尚、美しかった。
争い事は、好ましくは無い。話し合いで解決する成らば、其れに越した事は無い。セレスには、闘う力が備わっている。相手が皇渦陸仙と謂えども、セレスを討つのは容易くは無かった。双方共に、争いは得策では無い筈で在った。
けれど鉈梛九は兵を率いて攻め入って来た。争いを避ける心算は無さそうで在る。、
「解っておるならば、話は早い。さっさと、奴を引き渡して貰おう」
「間も無く此処に、騎士が顕れます。諦めて退散した方が、身の為ですよ?」
セレスには、未来を予見する能力が在った。そして其の騎士が、鉈梛九の兵力を根刮ぎ屠り去った事も気付いている。
「世迷言をほざくな。高々、一介の騎士に何が出来る?」
「お前が《皇渦陸仙》の一角か?」
背後の気配に、鉈梛九は身構え様としていた。
——だが、其れよりも速く羅刹の大剣が、鉈梛九の肩を貫いていた。
「ほう……。霊石で出来た我が躯を貫くとは貴様、中々に侮れぬな」
鉈梛九には、全く焦った様子は無かった。
寧ろ余裕すら、窺えた。
「タリムを其れ程迄に使い熟すには、相当に骨が折れたで在ろう?」
「貴様、何を言っている?」
「気を付けて、羅刹。其の男は、戦騎を産み出した張本人よ。私の力も当然、熟知しているわ!」
「だから、どうした?」
蒼馬の霊獣を駆りながら、炎の斬撃を放つ。
「タリムよ。喚装じゃ……」
鉈梛九が、ぼそりと呟いた。
其の瞬間。羅刹の戦騎が解けて、鉈梛九に喚装された。
其の一連の流れを、セレスは予知していた。自分のすべき事も、理解している。争いは好ましくは無い。だが、回避不能で在る事も、解っている。だからこそ、羅刹に託す道を選んだのだ。




