漆
塁留は拳を強く握り込んでいた。
無力な己を呪った。
既に、己の戦騎は解けている。萌羅の加勢に行けば、逆に足手纏いと成ってしまう。
萌羅の三叉槍が、昭久の躯を貫いていた。
「……嫌だ、嫌だ。此れだから……学習能力の無い奴は、嫌いなんだ。そんな、生っちょろい攻撃が……此の私に効くとでも思ったのか?」
「余り俺達、戦騎騎士の力を嘗めるなよ。確かに今……此処では、お前を討つ事は出来ない。だが、必ずお前を討ち滅ぼしてみせる。——必ずだ!」
萌羅の肉体から、神々しい迄に目映い光が溢れ出していた。
「萌羅は今。命を賭して、御主を護ろうとしている。在の美しい光は、生命の最期の煌きだ。其の輝きは……決して、闇に墜ちる事は、断じてない!」
塁留の背後に、赤毛の男が立っていた。
「貴方は……」
其の姿を見た時、塁留の張り詰めていた緊張が解けたのか、涙が頬を伝っていた。
「遅れて、済まない……」
「申し訳ありません……師匠。僕の未熟さ故、兄さんは——」
萌羅の肉体は、既に灰に成りつつ在った。
「此の……死に損ないがぁっ!」
昭久の兇刃を受けながらも、萌羅は突進していた。
「糞がッ……槍が、ぬ……抜けんッ!」
壁に張り付けにされる昭久。
其れと同時に、萌羅の肉体は消滅した。只一つ——温かな暉と成って、塁留の胸に在る刻印を残していた。
「今の内に、逃げよう。そして必ずや……萌羅の死を、希望の光に繋げるのだ!」
赤毛の男に促される儘に、塁留は立ち去った。




