参
「良くぞ、参ったな。白鷹戦騎タリム……其れに、羅刹よ」
エリザが厳かに、羅刹を見据える。其の表情は、冷やかで在った。
冷たい眼差しが、羅刹の心を射抜こうとしている。
「貴方達に、火急の指令を与えます。猶予が無いので、説明は省かせて頂きます」
羅刹はエリザが嫌いで在った。傲慢な態度。此の女に自分の命を握られていると思うだけで、吐き気がする程の嫌悪感が込み上げる。自分勝手な女だ。尚且つ感情的で、頭が悪いのだから、質が悪い。
エリザの指令は、何時で在ろうと碌でも無い事ばかりだ。
「直ぐに《奈落の森》に、向かって下さい。途轍も無い禍が、訪れています」
「禍だと……。一体、どう言う事だ?」
「行けば、解ります。禍を取り除くのです」
エリザが手を翳すと【裁きの門】が開いた。此の世のあらゆる場所に繋がる門で在る。其の気ならば神々の住まう天界にも、魔徒の王族が住まう極界の奥深くにも赴く事が出来る。冷淡な口調のエリザは、羅刹を冷ややかに睨み附けている。
ぐだぐだ言ってないで、さっさと行けと言う事だろう。
「他に適任者は、居なかったのか?」
羅刹は尚も喰い下がっていた。抗議は無駄だと理解ってはいるが、穏和しく従うのが癪で在った。其れに極界は、天丞院の管轄で在る。自分の認知は飽くまでも、御影町の守護で在る。
天丞院付けの戦騎騎士が向かうのが筋と言う物だった。
「皆、忙しいのです。貴方しか、向かえる者は居ません」
小馬鹿にした態度に腹を立てたが、此れ以上の口論は時間の無駄だった。
エリザは端から、自分の事を咎人としてしか視ていないのだ。本来ならば、自分は地獄の業火に焼かれる定めに在った。自分が犯した罪は償おうとも、決して消滅る事は無い。だからこそ、一人でも多くの魂を掬いたい。自分の認知を空けると謂う事は、人々を危険に晒す可能性が格段に上がる事を意味している。
釈然としないが、羅刹は【裁きの門】を潜り抜けた。
さっさと、終わらせて帰るしかない。




