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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第十話【虚月】

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 東山昭久が初めて人を殺めたのは、十歳の時で在る。


 幼い昭久には、二つ下の妹が居た。可愛らしい容姿の女の子で在った。


 ——在る日の事だ。


 其の日、家には両親が不在で在った。幼い兄弟は、仲良く家で留守番をしていた。幼い昭久に取って、妹の存在は大切で在った。いとおしくて、可愛らしい妹が、大好きだと感じていた。だから其の日も昭久は、妹の面倒をていた。


 昼食を終えた二人は、隠れん坊をした。鬼と成った昭久は、妹に見付かるまいと押し入れの蒲団の中に躯を隠していた。中々、妹は自分を見付けてはくれなかった。


 何時の間にか、昭久は眠りに堕ちていた。


 幾許いくばくかして、妹の泣き叫ぶ声で目が覚めた。異様な空気を悟った昭久は、押し入れの隙間から外を覗き視た。


 其処には、見知らぬ男が居た。男は妹の腹を割き、腸を引き摺り出している。其のおぞましく異様な光景は、幼い昭久の心を異様に昂らせた。


 恐怖は無かった。


 妹が殺され掛けていると言うのに、怒りや哀しみと言った感情は一切も浮かばなかった。


 此の時、昭久は確かに妹と目が合っていた。


 ——お兄ちゃん……助けて。


 力無く動く妹の唇は、言の葉を放つ事は無かった。だが昭久は、妹の言葉が理解わかっていたのだ。


 助けを懇願する妹。


 其の瞬間、果てしない快楽が全身を突き抜けた。……と、同時に。心の奥底から、途轍も無く激しい欲求が沸き上がっていた。


 ——此れは、驚いたな。


 気が付くと、昭久は姿を現していた。


 言葉とは裏腹に、見知らぬ男は穏やかな表情で昭久にナイフを手渡して来た。


 ——君には、素質が在る。


 優しい男の口調。


 恐怖と困惑が入り乱れた妹の表情かお


 昭久の心の奥底から、姿をあらわ本性かお


 見知らぬ男の愉悦に浸った嘲笑かお


 心地良く甘美な欲求に抗えずに、昭久は妹の喉を掻き切った。


 吹き出る妹の血を浴びて、昭久は生まれて初めての射精をした。


 ——ゴメンよぉ……理沙ぁッ!


 何故だか、涙が溢れ出ていた。


 ……びくんッ、びくんッ。と、痙攣する妹を視て、昭久は得も言われぬ快楽に包まれていた。


 只、涙だけが溢れ出ていた。


 思えば此の出来事が無ければ、殺人鬼としてのさがは芽生えてはいないだろう。


 為らばの見知らぬ男には、感謝しなければ成らない。


 彼のお陰で自分は殺人鬼と成って——人を超越した存在に成れたのだ。


「邪悪なる魔獣・タタラ。兄さん、此奴こいつを倒せば、天丞院付けの戦騎騎士に成れるかな?」


「勿論だ。だが、気を付けろよ。此奴は、とんでもない化物だ」


 双子の戦騎騎士が、此方を窺っていた。


 どちらも、恐怖に身体を強張らせている。己と相対する者は皆、一様に恐怖に染め上げなければ為らない。


 殺すと言う行為には、美学が必要だ。


 幼い頃に出逢った見知らぬ男は、間違いなく己に美学を懐いていた。


 昭久が妹を殺害した事に満足したのか、見知らぬ男は自ら警察に通報した。後に調べたのだが、男は警察の取り調べで昭久の事を一切、洩らさなかった様だ。其の後、裁判で死刑判決を受けた時に、見知らぬ男はこう述べたらしい。


 ——満足だ。


 昭久には、其の言葉が自分に向けられた物に思えて成らなかった。


 間違い無く見知らぬ男と自分は、同種の人間で在った。


 まるで見知らぬ男に、何かを託された様で在った。


 其れ故か昭久は、人を殺める時は必ずナイフを用いていた。


「君達、美学は在るかね?」


 ゆっくりと二人の騎士に歩み寄りながら、悠然と語り掛ける。


「黙れッ……化物が!」


「遣るぞッ……兄さん!」


 二人の騎士は、戦騎を喚装させた。


 茶色の虎と緑色の亀の戦騎だった。どちらも、己の相手にすら成らない。


「嫌だ、嫌だ……ふふふ。そんなに此の私が、怖いかね……君達?」


 茶虎の騎士が、三叉槍トライデントを構えて突進して来た。


 其の推進力と瞬発力は、目を見張る物が在った。並の使い手ならば、余りの速さに其の躯を貫かれていた事だろう。だが其の動きは、余りにも単調で在った。


 ——半歩。


 たったの半歩、躯を翻すだけで昭久は難無く避けていた。


「銅が、瓦落空がらあきだ……ふふふ」


 鎧の隙間を縫う様にして、ナイフで切り刻んだ。


 ……だが。全くと言って、手応えが無かった。


 後方から緑亀の騎士が、レイピアを繰り出していた。其れと同時に、茶虎の騎士が反撃を繰り出す。


 とてもじゃないが、避けれるタイミングでは無い。


「ほう。……凄いじゃないか……ふふふ。凄い、凄い……」


 レイピアが脳を、三叉槍トライデントが心臓を、的確に貫いていた。


「何故、死なないッ……?」


「此の……化物めッ!」


 二人共、恐怖のボルテージが格段に上がっていくのが解った。


「嫌だ、嫌だ……ふふふ。其れじゃあ……そろそろ、私も本気で往かせて貰おうかッ!」



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