捌
大剣が出狗の身体を捉える寸前で、竟の身体は弾き飛ばされた。突如として現れた女の飛び蹴りを、今日は真面に受けていた。
「危ない処だったねぇ!」
出狗に駆け寄る女。
全く面識の無い女だった。だが、人懐っこい笑みを向けている。自然と、警戒が緩んでしまいそうになる。
「其奴を連れて、逃げるのじゃ。今、ガルムを喪えば……我々の計画は、大きく狂う事と成る」
出狗の前方には、小柄な老人が胡坐を掻いて宙に浮かんでいた。
気配からは、其の力を推し測れない。
「はぁ〜い、老師!」
どうやら、女と老人は師弟関係に在る様だった。
「矢張り、お前等が絡んでいたか」
竟が、老人を睨み付けながら言った。
「皇渦陸仙と暗黒戦騎ガルム。同時に相手取るのは、流石に不味いな」
「馬鹿を申すな。御主は……最強の名を、欲しい儘にしとる。戦力的には、未だ未だ足りておらぬぐらいだ」
何時の間にか、周囲を無数の人影が囲んでいた。
まるで気配を持たなかった。
「《嘲りの鉈椰九》に其処まで言われるとは、光栄だな」
竟は、余裕の表情を浮かべていた。
「死者を使うとは、お前等も随分、人手不足の様だな」
辺りを見廻す竟を、出狗は睨み続けた。
「そんな顔をしなくても、ちゃんと斬ってやるさ」
竟が何かを投げて、此方へ歩み寄って来た。其の刹那、周囲の死者達の首が飛んだ。力無く倒れる死者達。
投げられた武器が、持ち主の元へと帰っていく。どうやら、円月輪の様だ。
「役に立たない駒だったな?」
小馬鹿にした様に、老人を見る。
「そうでもない」
刹那、邪悪な気配が現れた。
死者達が、魔徒と成って蘇っていた。どう謂う理屈なのか、老人は魔徒を操っている。
「御主の相手は、其奴等がしてくれる」
竟に襲い掛かる魔徒達。
「流石に、数が多いな。こいつは、骨が折れそうだ」
言葉の割には、余裕そうな表情で在った。
竟の両側から、二つの影が近付いて来る。円月輪を両手に投げて、後方に飛んだ。
二体の魔徒が、飛散していった。
「さぁ、今の内に逃げるわよ!」
女が出狗に笑い掛ける。
自分と年恰好は、余り変わらない。可愛らしい顔をしていた。人の気配を、感じなかった。
「出狗よ。此処は一旦、退いた方が良策の様だ」
逃げる様に、促すガルム。
「解っている!」
苛立ちながらも、其の言葉に従う。
《金獅子》——夷蕗竟。
其の名は、憶えた。
次に相手取った時は、必ず斬ってやる。




