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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第一話【化物】

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「羅刹、気を付けなさい。奴の能力が、まだ解らないわ」




 人間が魔徒に憑かれ、人を殺すと鬼神化して怪物の姿となる。鬼神化すると軈やがて、憑かれた人格を支配する。




 そして完全体と為った魔徒には、特殊な能力が宿る。タリムには、魔徒を感知する能力が備わっている為、魔徒の詳細や能力を探る事が出来た。


 特定には、若干の時間が掛かった。


「小僧、咎人だろう?」


 確かに、自分は咎人だった。生前に多くの罪を重ねて、咎人となった。閻魔大王の計らいがなければ、今頃は地獄の業火に焼かれている。


「だったら、何だ?」


 無数の彫刻刀が、魔徒の周囲で宙を舞う。


「小僧も、我等と同じだと謂っているんだ!」


 彫刻刀が、巨大化する。


「違う。貴様等と一緒にするな!」


「人を喰らう我等と、人を殺す咎人。何処が違うと謂うのだ?」


 槍ほどのサイズの彫刻刀。真面まともに受ければ、危うかった。


 其の内の一本が、羅刹を目掛けて飛来する。


 大した速度ではない。羅刹は剣で薙ぎ払う。


「羅刹、残念な知らせよ」


 剣が途端に重くなった。


「奴の能力は加重。彫刻刀に触れる度に、重力が増すわ」


 次々に彫刻刀が、羅刹を襲う。其の全てを剣で薙ぎ、払い、受け止めた。


 とてつもない重量となった剣を、羅刹は支えていた。余りの重みで、アスファルトの足場が割れている。戦騎を纏っていなければ、とてもではないが持ち切れない。


 戦騎を纏うには、タイムリミットが在った。66、6秒。此れは、地獄の獣が持つ数字で在る。


「絶体絶命と謂う奴だな、小僧!」


 駄目押しとでも謂う様に、一際に大きな彫刻刀が迫り来る。今ならまだ、ぎりぎりで躱す事が出来た。


 しかし、羅刹は避けようとはしない。


「羅刹、避けて!」


 戦騎騎士の短剣は、戦騎を纏うのと同時に剣へと姿を変える。そして羅刹の持つ剣は、更に姿を変える。


 大剣で巨大な彫刻刀を受ける。


 持ち切れず、大剣を地面に垂らす羅刹。


 大剣の重量に依る衝撃で、アスファルトが砕け散る。


「どうして、避けないのよ?」


 羅刹の実力なら、全ての彫刻刀を躱せていた。


 なのに、其の全てを剣で受け流していた。


「俺が避けたら、アイツが死ぬ」


「羅刹、貴方……」


 後ろで佇む少女を護っていた。


 羅刹は此れまで、人を護ろうともしなかった。其れなのに、羅刹は少女を護ろうとしている。


「惚れたの?」


「黙れ!」


 解らなかった。


 何故、自分が少女を護りたいのかが、解らなかった。タリムの言う通り、少女に惚れたのかと聞かれれば、其れも解らない。只、少女を護らなければいけないと思った。


 其れだけだった。それに、惚れると謂う感覚が解らない。今迄、自分は多くの人間を恨んで生きてきた。色恋の沙汰とは、無縁な世界に其の身を置いてきた。だが少女の存在が、自分の中で違和感を生み出している事は、間違いなかった。其れが何なのかは解らないが、不思議と穏やかな気持ちにさせられていたのだ。


 だからこそ、死なせたくないと感じたのかも知れない。其れが、恋心かどうかは解らない。


 今は只、目の前の敵に集中しなければ為らない。状況は芳しくはなかった。秋宵しゅうしょうの月に照らし出された表情かおには、焦りは微塵も在りはしなかった。羅刹の眼には只、鋭いひかりだけが浮かんでいた。


 大剣を引き摺りながら、羅刹は走った。助走の勢いを其のまま利用して、羅刹は体を捻って回転した。助走の勢いと遠心力に依って、大剣は大きく宙を旋回する。


 だが其の動きは、余りにも大振り過ぎた。


 大剣の斬撃を、魔徒は躱す。


「何故、咎人の小僧が戦騎騎士になった?」


 巨大な彫刻刀を構えて、魔徒は問い掛ける。


 タイムリミットが、近付いていた。次の一撃で決めなければ、後がなかった。


 羅刹は大剣を、もう一つの形態へと変化させた。納刀して、居合いの構えを取る。今の形態なら、大剣の時よりも重量は軽くなる。


「咎人が、正義の味方気取りか?」


「違う。俺は、悪を斬る一振りの刀だ!」


 刀に依る斬撃が、彫刻刀ごと魔徒を捉える。


 魔徒の体を断って、羅刹は鎧の喚装を解いた。


「良くやったわ、羅刹!」


 初めて羅刹は、人を護った。


 タリムには、其の事が嬉しかったのだろう。全く、うっとおしい目付け役だ。いつも、人を護れ。騎士の使命を全うしろと、喧しくタリムは謂う。


 灰になった魔徒に歩み寄り、勾玉を翳す。


 魔徒の魂を放っておくと、他の人間に憑いてしまう。人間の闇は底知れない。幾らでも、魔徒の依代よりしろは見付かる。


 だから、勾玉に封じ籠めなければならない。


「あの……助けてくれて、ありがとう」


 応えずに、羅刹は少女を睨み付ける。


「逃げろと謂った筈だ」


「ごめんなさい……」


 俯く少女。


 矢張り、解らなかった。


 どうして少女を助けたのか、羅刹には解らなかった。


「私は刹那。(御法院みほういん刹那。貴方は?」


「羅刹だ」


 そう言い放って羅刹は、闇の中へと消えて入った。



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