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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第九話【銭奴】

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「不味いわね……」


 タリムの声が、苛立ちに拍車を掛けた。


 左腕に力が、全く入らなかった。ナイフを受けた時は、大した傷では無かった。其れなのに、出血が止まらない。赤黒く変色して、どんどん悪化して往く。こんな事は初めてで在った。毒や呪いの類いでは無い。


 此の儘では、死に至る。此れ以上に悪化する為らば、腕を斬り落とさなければ為らない。


「どうやら……やっこさんの能力は《貸付》みたいよ。受けたダメージを返さなければ、利息が付く様ね」


やつを斬らないと、傷の悪化は止まらないと謂う訳か……」


 魔徒を追いながら、羅刹は焦りを感じていた。


「タリム。喚装して、奴を追うぞ!」


 戦騎の羽根を広げて、羅刹は飛んだ。


 飛行には通常よりも力が消費される為、喚装していられる時間が極端に短く成る。猶予は余り無い。


 魔徒との距離を、一気に詰める。既に相手は、鬼神化していた。


「せからしかッ!」


 二本のナイフを、投げ放つ魔徒。


 剣で薙ぎ払う。だが三本目のナイフで、右腕を斬り付けられた。


「其の両腕ば、貰うけん。覚悟しんしゃい!」


 構わず魔徒に、斬り掛かる。


 剣先には炎を宿していた。羅刹の刃が、魔徒の胴を捉える。……が、ダメージには繋がらなかった。


 平然とした表情で、反撃をする魔徒。


 醜く肥大化した身体から、複数のナイフを飛ばして来た。


 虚を突かれて、羅刹は咄嗟に防御体勢を執っていた。全身をナイフが、五月雨さみだれの如く襲う。


 ナイフを躱し、払うが、其の内の何本かが羅刹の身体に突き刺さる。


 全身に痛みを感じた。此の儘では不味かった。


「何故、攻撃が効かない?」


「貴方が受けたダメージを、相手に返さなければ無駄みたいね。本当に厄介な相手だわ……」


 魔徒は又、距離を置こうと逃走を始めていた。


 攻撃と退避ヒット・アンド・アウェイを繰り返して、此方が自滅するのを待つ心算の様だった。


 長期戦に成れば、羅刹に勝ちの目は無かった。受けたダメージの利息が貯まって、死に至ってしまう。其れに、戦騎を喚装していられる時間も、既に残り僅かだ。


 非常に苦しい展開で在った。焦りが羅刹の心を、秘めやかに撫で附けている。死のイメージが、羅刹の脳裏を残酷に抉り取って往く。此の儘では本当に、不味かった。策も時間も、皆無と謂うしか無い。


 所謂、絶体絶命の危機で在る。


「此の程度の相手に、何を梃子摺てこずっている?」


 冷酷な声音が、背後から聞こえて来た。其の声に、敵意は感じられなかった。


 振り向くと、其処には香流羅が居た。意外で在った。


 雰囲気が、以前とは異なっている。其れに全身を纏う氣の密度が、段違いに濃く成っていた。明らかに、以前よりも強く成っている。


「青丸、奴を討つぞ!」


「イエッサーッ!」


 香流羅の声に呼応して、青白い光の鷹が出現した。


 香流羅の使役する霊獣は、周囲の氣を取り込んで、みるみると巨大化していった。


 巨大化を続けながら、魔徒の元へと凄まじい速度で飛行している。


「人に仇為す魔徒は、此の俺が討ち滅ぼしてやる!」


 鷹の霊獣が、魔徒を撃ち貫いていた。


 音も無く、魔徒が消滅した。


「戦騎騎士など、必要ない!」


 小太刀の切尖きっさきを、羅刹に突き付ける。


 香流羅に向けられた眼差しは、相変わらず憎しみに染まっていた。


 手負いで勝てる程、今の香流羅は甘くは無かった。


「だが……今回は、見逃してやる。此の間の借りが、在るからな」


 小太刀を納める香流羅。


「後悔する事に成るぞ?」


「今、お前を斬れば、彼奴あいつに嫌われる」


 微かに、香流羅が笑った様に見えた。


 少し先の方から、刹那が駆け寄って来る。


「其れは、不味いな……」


 羅刹は、苦笑いを浮かべていた。奇妙な感覚で在った。


 憎しみが消えた訳ではないが、其れ以外の感情を共に共有している。其れは、刹那へと向けられた想いで在る。護りたい者が、互いの利害を結び附けているのだ。


「だが、忘れるな。いずれ、決着は付ける。必ずだ!」


 香流羅は去っていった。


 何れは、死合う定めに在るのかも知れない。戦騎騎士と《禍人の血族》の間柄は元来、そう謂った物なのだから仕方が無い。


 ——仕方が無いのは理解わかっている。


 羅刹は刹那を見ながら、短剣を納めていた。



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