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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第九話【銭奴】

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「ガルムよ。此処は一体、何処だ。現世ではないのか?」


 戌咬出狗いぬがみいずくは戸惑っていた。


 漸く【闇の牢獄】を、暗黒戦騎ガルムと共に破る事が出来たと言うのに。漸く現世に舞い戻ったと思ったのに、目の前の光景は、不可思議で溢れ返っている。見た事も無い様な建物が聳え立っていた。


 無数の鉄の塊が、町を走っている。町行く人々は、見慣れぬ衣服に身を纏い。手には、奇怪な板を持っている。


 此処は一体、何処なのだ。自分の識る現世とは、余りにも掛け離れている。


「間違いなく、此処は現世だ。出狗よ、お前には人々の闇が見えぬか。時が変われば、人の世は変わる。しかし、人の闇までは変わらぬ」


 饒舌に、ガルムが応える。自分を闇から抜け出し、此処まで導いてくれた。其のガルムの言葉を疑う訳では無いが、出狗は呆気に取られていた。其れ程までに、現世は様変わりしていた。


 此の世界の何処かに、羅刹が居る筈だ。地獄で閻魔大王が、羅刹に言い渡した裁きを聞いていたから間違いない。戦騎騎士として、罪を償う為に羅刹は現世に蘇っている。尤も魔徒に討たれていれば、話は別だが簡単にくたばる奴ではない。


 そう易々と、くたばられては困る。


 自分は羅刹を殺す為に、現世に蘇ったのだ。


「其れにしても、此の強い邪気の持ち主は……一体、何者だ?」


 途轍とてつもなく強大な気配を感じていた。心の奥底から恐怖を掻き立て様とする程に、邪悪な闇が肌へと侵食しようとしている。


 真面まともり合っても、勝ちの目は薄い。


「邪悪なる魔獣・タタラ。其の名ぐらいは、聞いた事が在るだろう?」


 突然、背後から声がした。


 気配は全く、感じられなかった。


「お前、何者だ?」


 不敵に笑う男。


 異様に高い背。鍛え上げられた体躯。金色の長髪。其の身からは、圧し潰されそうな程の威圧プレッシャーを感じた。自分と同じく戦騎騎士で在る事は、間違い無い。為らば、闘いは避けられない。


「不味いな、出狗。全力で、逃げろ!」


「四百年振りに、剣を振るう機会が訪れたんだ。其れも此れだけの上玉。逃げるのは、勿体ない!」


 其の顔を狂喜に染めながら、出狗は抜刀していた。久しい刀身の重みが、何処か心地良く懐かしい。再び剣を握る悦びに、心が滾る。闇が出狗を怪しく鈍く照らして往く。獣の様に、静かに押し殺した息遣い。呼吸を読むのは、至極困難だ。出狗から先を奪う事が、困難を極める事を意味している。


 短刀二刀を構えながら、出狗は男を窺う。獣の本能が、警告している。肌を死の気配が纏わり附いている。先に動くのは得策では無かった。出狗は元々、後の先を取るのを得意としている。


 格上の相手と相対するのは、初めてでは無い。出狗の心は、静かに弾んでいた。 


「其の男の名は、夷蕗竟いぶききょう。最強の騎士だ。闘うのならば、我を喚装しろ」


「ほう。此奴こいつが、話しに聞く《金獅子》か。ならば、ガルム。喚装だ!」


 出狗の身体を、禍々しい程の黒い鎧が包み込んだ。暗黒に染まった獅子のレリーフが、禍々しく嗤う。


 出狗が纏いし戦騎は、暗黒戦騎ガルム。曾て最強と称された二対の戦騎の一つで在る。


「凄いな小僧。鎧に喰われていないのか。俺の目的は、暗黒戦騎ガルムを斬る事だ。小僧……鎧を置いて去れば、見逃してやるぞ?」


「嘗めてるのか、貴様。咬み殺してやる!」


 安い挑発で在ったが、出狗は動いていた。


 前傾姿勢の構えから、男に飛び掛かる。短刀二刀流に依る上下段への斬撃を放っていた。


はやいな。其れに、斬撃が重い」


 男は一本のナイフで、出狗の攻撃を往なしていた。


「……竟。仮にも我が兄者を相手に、ナイフ一本では足許を掬われるぞ?」


 男の戦騎らしき声が聞こえた。


「そうだったな、レオン。小僧の戦騎は、お前とは兄弟分。なら、此方も喚装といこう!」


 男の身を金色の光が包んだ。


 金色に輝く鎧には、荘厳な獅子のレリーフが刻まれていた。其のレリーフが、何処かガルムのレリーフと似ている。


「ガルム、どういう事だ?」


「知れた事よ。奴の纏う金獅子戦騎レオンは、此のガルムの弟。奴等は強いぞ」


 男は腰に差した大剣を、引き抜いていた。


 優雅に構えながら、此方を見据えている。


「来るぞ!」


 ガルムが声を発した時には、既に男は突進を始めていた。


 出狗は極界から、暗黒の炎を召喚して身構える。大柄な男の見掛けからは想像も付かぬ程、素早い動きで間合いを詰めて来た。


 男の斬撃が、出狗の頭部を捉える。完全に男の間合いの内に居る。


 大剣が、出狗を両断した。


 其の刹那、炎の揺らめきと共に、出狗の姿は消えた。炎の陽炎かぎろいは、鬼火の様に唐突に姿を現した。


 ——完全に背後を捉えている。【糸游】を駆使して、間合いを制する事に成功した。此の気を逃せば、勝機は無い。


 右の太刀を、男の背に叩き衝ける。


 だが、振り向き様に大剣の柄で受けられた。構わず左の太刀を、下段から放った。其れも防がれる。尚も連続して、斬撃を放つ。出狗の剣撃は、決して軽い物では無い。速く重い刃は、受ける者の身体を大きく揺さぶり続ける。


 上下左右と縦横無尽に放たれた連撃。其の速度は、目で捉えられる物では無かった。


 出狗の剣は、まるで獰猛な獣の様で在る。故に其の剣は、獣刃じゅうじんと名付けられた。


「ぬるいッ!」


 僅かな隙を突いて、男は大剣を放った。


 出狗の剣は弾かれ、大きな隙が生まれた。


「終わりだ……小僧!」


 大剣の追撃が、出狗の身体を捉える。



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