伍
「久し振りだな、姉さん」
穏やかな表情を浮かべて、香流羅は砂羅を見た。
「どうやら、禁忌の術を会得した様ね?」
険しい表情をする砂羅。
無理も無い。
今の自分は、危険と常に隣り合わせの処に居る。力を得た代わりに一歩、間違えれば闇に墜ちてしまう。そうなれば恐らく、砂羅は自分を斬るだろう。其れだけの力も、砂羅は有している。
「言いたい事は、解っている。だが、俺達には力が要る。そうだろう?」
「嗟。其の通りだ。だからこそ、己を見失うな……香流羅」
砂羅の其の瞳には、哀しみの光が宿っている。
十数年前、幼い自分達の前で母は殺された。
闇に墜ちた騎士の手に依ってだ。
力を抑え切れなければ、自分もそうなるかも知れない。
其の事は重々、承知の上だ。
決して自分は、闇には染まらない。愛する姉と妹を、必ず護り抜いてみせる。
「姉さん達を護れるならば、俺は修羅の道を行こう。必ず俺は、強く成ってみせる」
「だったら、お兄ちゃん。羅刹とも歪み合わずに、協力しようよ」
刹那が割り込んで来た。
「其れは、出来ない」
「どうして?」
「《禍人の血族》と戦騎騎士は、互いに相容れない存在だからだ」
「そんな事ない。現に私は、羅刹と打ち解けてるじゃない!」
「其れは、お前が特別だからだ。其れに……俺には、戦騎騎士を許す事が出来ん!」
脳裏に蘇る記憶を押し込めて、必死に冷静さを保った。
——忌々しい記憶。禍々しい凶刃。舞い散る血飛沫の中、母は騎士に抱かれて死んだ。幼い自分と砂羅は、何も出来ずに見ている事しか出来なかった。そんな自分が何よりも憎かった。弱い自分が、決して赦せない。
だからこそ、自分は強く成らなければ為らない。
「待って……お兄ちゃん!」
立ち去る香流羅を、追い掛ける刹那。
「帰って来て早々、落ち着きの無い子ね」
溜め息混じりに、砂羅が呟いた。




