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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第九話【銭奴】

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「早よ、金ば返さんか!」


 冴子は、女を睨み付けていた。


 女の名前は宮城静香。年齢は二十五歳。専業主婦をしていたが、重度のパチンコ依存症を拗らせている。冴子が経営するアネスト金融の客で在った。


「もう此れ以上は、ジャンプ出来んばい。利息の十万だけでも、返して貰わんと此方こっちにも、考えが在るんやが!」


 ジャンプとは、追加の貸付を受けて利息だけを返す事を言う。


 借金が雪ダルマ式に増える危険行為だ。だからこそ、冴子は女にジャンプを勧めて借金を膨れさせた。最初はたったの二万円だった借金が、今では二千万円まで膨れ上がっている。女には地方銀行で在るが、重役の席に座る旦那が居る。回収する術は、充分に在る。だが、目的は其処では無い。


「もう少しだけ、待って下さい。本当に今、お金が無いんです!」


 涙目で懇願する女に、冴子は虫酸が走った。


 ほんの少し見た目が良いだけで、今まで男に持てはやされていたのだろう。そう言った輩が、冴子は気に喰わなかった。


 客層を若くて綺麗な女に搾ったのも、女達に地獄を見せてやる為だ。地獄の底の底を、厭と謂う程に味わわせて遣る。地を這い廻る獣の様に、惨めな生涯を送らせて遣る。全てを搾取した上で、無惨な人生を全うさせて遣る。


 若くて美しい女達の不幸が、冴子に取っては極上の愉悦と成る。だからこそ、女を破綻させるのだ。


「なら、風俗を紹介してやるたい。男の下半身ば、喜ばせてやるだけやが。好きやろうもん?」


 いやしい笑みを張り付けて、冴子は女に問い詰める。女衒ぜげんは此の業界では、別に珍しい事では無い。尤も冴子が斡旋する業者は、悪徳な輩だ。本番行為を強要している。避妊をわざとさせずに、旦那と揉めさせるのが目的だ。女の人生を破綻させる事が、冴子に取っては最優先事項と成っている。想像するだけで、笑いが込み上げて来る。


 周囲の男達も、同じ様に嗤っていた。


 事務所には冴子と女以外に、三人の男達が居た。皆、一様に厳つい顔をしていた。金の前では獰猛な男達ですら、従順な獣と化す。今の自分には、全てが意の儘に働くのだ。


「そんな事をしたら、旦那に殺されてしまいます。勘弁して下さい!」


「なら、良か。旦那に取り立てに行けば、良い事やが!」


 大抵の女は、其の一言で謂う事を聞く。


「そんな事されたら、困ります!」


「なら、さっさと金ば返さんか。ウチらも、商売にならんたい!」


 俯いてむせび泣く女。本当に、虫酸が走る。殺してしまいたい衝動を抑えて、冴子は煙草に火をつけた。メンソールの薫りが、鼻腔を擽る。紫煙を女の顔に吹き掛けながら、睨み附ける。女が落ち着く迄、待って遣る心算など無い。此処では自分がルールだ。


 誰にも、曲げさせる気は無い。


「泣くな。さっさと、決断せんか。風俗で働くんか、旦那に泣き付くんか。どっちか、決めんか!」


 契約書を突き付けながら、冴子は悪魔の様に囁いた。


 暫くの沈黙。


 女は遂に観念したのか、弱々しい声音で呟いた。


「……働きます」


 其の言葉を聞いて、冴子は嬉々とした表情を浮かべた。


 ……と、其の時だった。


 事務所の扉が、乱暴に開け放たれた。


「何だ、てめぇ……!」


 叫ぶ男。


 顔に傷の在る少年が、其処に居た。


 ——全く、忌々しい戦騎騎士だ。


「——どけ。お前に用は無い」


「何だと、此の糞ガキが!」


 少年に殴り掛かる男。


 難無く躱され、足払いを受けて派手に転んでいた。全く不甲斐の無い。結局は、誰も当てには出来ないのだ。


「坊や、ウチは金貸したい。返済能力の無いガキには、用はなか!」


「魔徒のお前には、金なんて必要ない!」


 短剣で斬り掛かって来た。椅子を蹴り上げて、少年を遮る。少年は、椅子を斬り払った。


 冴子は横に飛んで、ナイフを投げ放っている。


 左腕に突き刺さるナイフ。其れを見て、冴子は高笑いを上げていた。


「確かに、貸し付けたばいッ!!」


 そして、全速力で逃走した。


「逃がすか!」


 後を追う少年に、男達が掴み掛かる。


 従業員達は既に、死者と成っている。


 冴子の意の儘に動く傀儡だ。


 大した戦力には成らないが、足止めぐらいには使えるだろう。時間を稼ぎさえすれば、勝てるのだ。冴子はそう謂った能力を、身に附けている。譬え騎士とて、自分の課すルールからは逃れられない。



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