拾弐
矢紅は思案に暮れた。
《開門》に次いで、タタラ討伐の命を受けた。何方も片手間には出来ない。だが、何方も確実に果たさなければ為らない。でなければ、多くの命が失われる。既に《開門》に関する資料は、全て目を通していた。必要な準備や術式も、調べ上げている。天承院附けの騎士団に通達して、施さなければ為らない術式は現在、錬成中で在る。
此れまでに二度、天承院は壊滅的な被害を受けている。
たった一体の魔徒に依る被害で在る。
現在、其の魔徒を討つ術は無い。贄を捧げて、帰って貰う以外の術を知らない。如何なる騎士とて、対抗し得る術が無い。天界の神々の力も及ばぬ程に、其の力は強大なのだ。其の詳細も、神ですら知り得ぬのだ。故に討つ術は無い。封印する事すら敵わない。魔徒の住まう極界に只、帰って貰うだけで精一杯なのだ。
過去にも数度に渡って神々が極界に赴き、件の魔徒を討つべく部隊を編成した事が在る。其の何れも部隊は壊滅した。神をも喰らった魔徒は、更に増大した。故に全く手が附けられない。何者にも、討てないのだ。
被害を食い止めるには、帰って貰う縒り他は無い。
神々は常に魔徒を監視し続けている。先の未来を詠む力の在る神は、魔徒の出現時刻を割り出す事に全霊を尽くしている。故に魔徒が何時、何処に出現するのかだけは、在る程度は解っている。多少の誤差は在れども、其の時刻は概ね正確で在るらしい。
らしい、と謂うのは、矢紅が其の魔徒と相対した事がないからだ。天承院の永い歴史の中でも、稀有な事例で在る為、矢紅ですら事態を飲み込めないでいた。
《開門》に必要な贄の選出は、常に人間の住まう現世にて行われる。詰まり件の魔徒が、現世に送り込まれる事を意味する。下手をすれば、人の世が滅ぶ事態を招いてしまうのだ。
其れに加えて、タタラ復活が重なってしまった。頭を悩ませる最中、矢紅の脳裏を在る閃きが掠める。かなり突拍子も無い事だが、上手く往けば全て纏めて解決する。タタラ討伐の任が重なったのも、何かの運命を感じていた。
魔徒が天界に出現するまでに後、一月程の猶予が在る。其れまでに全ての事を運び通す事が出来れば、或いは死者の数を最小限に留められるかも知れない。
必ず皆を守護ってみせる。
其れが矢紅に課せられた使命なのだ。




