漆
「こんな所に呼び出して、何の用だ?」
学校の屋上に刹那と神楽が居た。
「貴方に教えて貰いたいの……私の力の事を、貴方は私の事を《捧ぐ者》と言ったわ」
「矢張りお前は、何も知らずに育ったのだな。お前の家族は、優しいな。何も知らずに、普通の女子として過ごした方が、お前に取っては幸せだぞ?」
妖艶な笑みを浮かべて、神楽は問う。
「私は……皆の力に成りたいの。何も知らずに、護られてばかりじゃ嫌なの!」
「危険な日常を生きるよりも、平穏無事な日々を過ごした方が幾分、幸せだと思うがな。まぁ……私の知る物は皆、決まって命知らずばかりだ。ならば、教えてやろう」
「有り難う……!」
目を輝かせる刹那。
自分の背負う定めを知れば、其の笑みは消えるだろう。護られる日々を、無難に過ごす事だろう。
「《捧ぐ者》とは、其の名の通り己を捧ぐ者の事だ。己の命を削り、他人に力を与える事が出来る。傷を治す能力も、備わっている。軽い怪我ぐらいなら、代償も少ない。……だが、命に関わる傷を治すならば……寿命が数年、無くなる物と思った方が良い」
「凄い……。私に、そんな力が在るなんて」
嬉しそうに、頬を紅潮させる。
其の表情も、直ぐに消える事に成る。
「そして《捧ぐ者》の大きな特徴は、其の身を魔徒に捧ぐ事が可能だと言う事だ。例え其れが、魔徒の王族で在ってもだ。故に、魔徒や邪悪な者に狙われ易い。尤も……お前には、封印が掛かっている。狙われる可能性は、宝くじ程度にしかない」
表情を少し曇らせる。間違っても、封印を解きたいとは言うまい。
「戦騎騎士の力に成る方法は、無いの?」
「在るぞ。騎士を、とびきり強くする方法がな」
「どうすれば、良いの?」
「簡単な事だ。願えば良い。《捧ぐ者》の力は、祷りの力だ」
「だったら、御願い。私の封印を、解いて頂戴!」
決意に満ちた表情。
曇り無き其の眼を見て、神楽は満面の笑みを浮かべた。
「お前は面白い奴だな。気に入った。封印を解いてやる代わりに、私とも契約してみないか?」
「そんな事が、出来るの……?」
驚いた表情を浮かべて、刹那が問う。
「出来るさ。私は一応、神だからな。お前の負担を、私が軽減してやろう。其の上で、力を抑える術式を授けてやる」
「どうして、其処までしてくれるの?」
「単なる私の気紛れだ。気にする事は無い。《血の定め》や《地の掟》等と言う、まどろっこしい奴も要らない。但し、私を楽しませろ。良いな?」
笑みを浮かべて、刹那に問う。
神楽はいつも笑みを浮かべているが、其れは表面上の事に過ぎない。本心から、笑った事が無かった。だからこそ、心の底から笑ってみたかった。刹那と契約する理由も、菴の時と同じだ。
神楽は友として、刹那を気に入ったのだ。友と親しく成れば、愛着が湧く。菴の様に昵懇の仲に成れば、情も入る。
刹那は、呆気に取られた様な表情を浮かべていた。
「解った。楽しませる。……けど。貴方、変わってるわね?」
「お前も充分、変わり者だ!」
神楽は手を翳して、刹那の胸に触れた。
「今、封印を解いてやる!」




