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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第八話【武芸】

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 強く成りたかった。


 誰よりも、強く成りたかった。()の一心で修練を積み、己を研磨する。身体を鍛え只々、一向(ひたすら)に強さを求める。武に身を置く者は、本来そう()るべきだ。


 幼い頃から、爪倉戎三(かくらいぞう)は武の道を歩んできた。江戸時代から()る流派の家に生まれ、弟と共に技を磨いてきた。()の弟は悪を討つ為に、警察官の道を選んだ。


 ()の一方で、戎三(いぞう)は強さを求め続けた。修練を積む程に、強く成る。()れを実感するには、実戦しか無い。様々な門派を叩いては、己が力を振るった。ボクシング、空手、ムエタイ、柔道、レスリング。()の他のあらゆる格闘技を相手にして来た結果、国内で戎三(いぞう)に勝てる者は居なく成った。


 更なる強敵を求めて、世界を渡った。素手だけでは無い。刃物、鈍器、果ては銃火器ですら相手にした。()れも多対壱(たたいいち)での闘いが多く、常に利は相手側に()状況(シチュエーション)。けれども全力を振るえる相手には、一度として巡り()えなかった。


 戎三は強く成り過ぎていたのだ。一体、どれ程の力を習得したのかが、解らない。全力を振るう相手が居ないのだから、己の底を測り得ないのだ。


「おい、オッサン。何見てんだよ?」


 若い盛りのチンピラ風情が三人、戎三を囲む様にして見ていた。皆、一様に(がら)が悪い。人気の無い裏路地で、華奢(きゃしゃ)な女に不埒(ふらち)な行為を働こうとしていた。全く、反吐(へど)が出る。


「助けて下さいっ……お願いします!」


 半裸姿の女が、涙を浮かべて懇願(こんがん)していた。


 男の一人が、女を抑え付けて離さない。


 白昼から、堂々と恥知らずな(やから)()った。全く見知らぬ女で()ったし、正義の味方振る気は毛頭ない。だが()れでも、見過ごす訳には()かない。


「あ〜……()れだ。お前達、怪我をする前に女を、離してやりなさい」


 欠伸(あくび)を噛み殺して、戎三は男達に忠告した。隙だらけの男達。制圧するのは、赤子の首を捻る程に容易い。


()めてんのか、てめぇっ!」


 戎三の胸座(むなぐら)を掴む男。


 ()の行為が如何(いか)に愚かで()るかも知らずに、(いき)がる小童(こわっぱ)。余り滑稽(こっけい)過ぎて、笑いが込み上げていた。


「何笑ってやがんだ、てめぇ……っ!」


 間接に()る様にして、男の腕を捻って()る。大した力は入れていない。


「痛でっ……痛でぇ!」


 苦悶に顔を歪めながら、男は酷く情けない表情を浮かべていた。男で()()らば、如何(いか)なる時で()っても、そんな顔を見せては()らない。


 戎三は何の躊躇(ためら)いもなく、男の腕を折った。短い悲鳴。情けない声だ。骨の音が、枯れ木の様に軽い。栄養不足なのか、骨密度が低い。間髪入れずに、顔面に拳を叩き込んだ。鼻骨(びこつ)もスカスカなのか、容易く破砕(はさい)できた。最近の若者は、見掛けだけで軟弱(なんじゃく)()る。簡単に壊れてしまう。


 力なく倒れる男。地に伏しながら、何やら(うめ)いている。残る二人が呆気に取られた表情(かお)で、此方(こちら)を見ていた。()り足で間合いを詰めて、女を抑え付けている男に寄る。耳を狙って、ゆっくりと手刀を放った。


 小指と中指で挟み込んで、耳を引っ張ってやる。大きく体勢を崩して、女を離していた。肩から(たい)をぶつけると、あっさりと倒れた。


 思いっきり、顔面を踏み付ける。


 歯が砕け散るのが、足の裏に伝わる感触から解った。蛙の潰れた様な悲鳴を上げる男。全く、情けない奴だ。悪に染まるなら、(はな)から覚悟を決めておくべきだ。今更、後悔しても遅い。


 残る男が、鉄パイプで殴り掛かっていた。()表情(かお)は既に、恐怖に染まっている。大抵の人間は恐怖すると、武器に頼ろうとする。


 どんな獲物でも、間合いの内側に入ってしまえば無力と化す。男の懐に潜り込んで、(えり)(そで)を外側から掴んで投げ飛ばした。逆関節を取って、踏み付けると容易(ようい)に骨が折れた。()の男も骨がスカスカで()る。全く、貧弱極(ひんじゃくきわ)まり無い。


 女を見ると恐怖に顔を歪めて、小便を漏らしていた。


「つまらん……」


 強い相手と闘いたい。己の力を存分に、振るってみたい。心の奥底から沸き起こる願望を、満たしてくれる相手が欲しい。無聊(ぶりょう)()げて生きる日々に、辟易(へきえき)としていた。死闘の末に、全力を尽くしてみたい。


 戎三は一度として、全力で戦った事が無かった。未だ見ぬ強敵に想いを馳せ、常に苦慮(くりょ)を寄せている。決して満たされぬ想いで()る。強さに惹かれ、強さを求めた。強き者を求めて、渇きと飢えを感じている。


 戎三は強く成り過ぎていた。


 女を残して、立ち去った。



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