表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第七話【魔窟】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/111



 漆黒の闇に(とら)えられて、羅刹は身動きが取れなく成っていた。


 前に進もうにも、自分が何処(どこ)を向いているのかさえも解らない。一体、此処(ここ)何処(どこ)なのだろう。闇と静寂に包まれている。何の気配も感じられなかった。


 ——此処(ここ)は、貴方の心の中の闇。


 何処(どこ)からか、砂羅の声が聴こえて来た。


 ——貴方は己の闇に(とら)われている。


 闇の奥から並々ならぬ憎悪と共に、殺気が伝わって来た。羅刹は殺気の主を知っている。


 ——さぁ、剣を取りなさい。


 殺気の主は、自分自身だ。目の前には、闇に染まり切った自分が居た。憎悪に()られ、殺意を振るう事しか知らない鬼子。


 悪意を携え、刀を振るう事しか出来ない愚かな男だ。闇を裂いて、悪意の刃が迫って来た。


 短剣を引き抜いて、受け止める。重く鈍い剣圧に、羅刹は圧されていた。


 ——己の闇を斬りなさい。そうすれば、貴方は更に強く成れる。


 相手が踏み込む気配を感じて、羅刹は動いていた。左手に持つ鞘を盾に、迫り来る裏拳を受ける。短剣を突き出して、相手の胸部を狙う。相手は身を捻って、刀の鞘で軌道を逸らしながら前進して来ていた。()の勢いを利用して、下から斬り上げて来る太刀を辛うじて(かわ)す。僅かにれる重心。追い打ちを掛ける様に、相手は蹴り上げて来た。


 後ろに倒れる様にして、寸での(ところ)(かわ)すが追撃は止まない。体重の乗った斬り降ろしが、羅刹を完璧なタイミングで(とら)える。


 雪崩(なだ)れ込む憎悪。全てが憎かった。両親や異端の眼を向ける村人達も、己を裏切った友も、何もかもが憎かった。憎しみの中で、死んだ時の事を思い出していた。冷たい雪の降る夜。村は炎に包まれていた。慶長(けいちょう)九年の師走。薄れ()く意識の中で、羅刹と出狗を見下ろしながら(わら)う外道丸の姿が、最後に見た光景で()る。


 全てを恨みながら、江戸の世を生きた。


 全てを妬みながら、死んだ。


 騎士として蘇ってからも、()れは変わらなかった。憎悪に心を(ゆだ)ねて、魔徒を一向ひたすら——只、一向に斬り続けた。晴れる事の無い憎しみ。決して報われる事のない怨恨(えんこん)。出狗や外道丸が、憎い。最早、憎しみの対象は、()の世に居ない。だからこそ、憎しみが晴れる事は無い。魔徒を斬れば斬る程に、憎しみの炎は大きく成っていた。


 そんな自分が、何時(いつ)の間にか変わり始めていた。他人の事が、どうでも良かった筈なのに、護りたいと思う様に成っている。


 刹那に出逢って、憎しみの感情が次第に和らいでいた。抱いた事の無い想いを知った。感じた事の無い痛みに(さいな)まれた。人の痛み。心の温かさ。闘う事以外で人と交わる事が、こんなにも居心地が良い事が不思議で()る。


 初めて誰かを護りたいと思った。


 初めて人間を護りたいと想った。


 憎しみでは無く、護る為の剣を知った。


 次第に胸の刻印が、光を帯び始める。


 体を大きく捻って、羅刹は回転しながら短剣で斬撃を捌いた。


 人間を護りたい。


 刹那を護りたい。


 ()の想いが強く成る度に、胸の刻印の光が強く成る。


 騎士として、人として、愛する者達を護る。


 (まばゆ)い光が、闇を照らし出す。胸の刻印が弾け()び、羅刹の左腕に(まと)わり()いた。


 ()れは、籠手(こて)()る。防ぎ(さば)く、護る為の武具だ。戦騎以外の新たなる力だ。


 ——()れが、貴方の選んだ新たな力。さぁ、貴方の闇を斬りなさい。


 迫る斬撃を、籠手で受け流す。ゆっくりと間合いを詰め、剣を衝き出した。心の奥深くから、熱い物が込み上げている。()の想いに呼応するかの様に、(まばゆ)い光りが闇を照らし出している。


 胸を刺し貫かれて、自身の幻影は消滅した。


 何時(いつ)の間にか、元居た部屋に戻っていた。


()れが、貴方の新たな力」


 胸の刻印は消滅して、籠手の中央に刻まれていた。


()の刻印は【護りの刻印】と呼ばれている。貴方の心次第で、()の姿を変えるわ」


 砂羅は、穏やかな笑みを浮かべていた。


「さぁ、そろそろ刹那が待ち草臥くたびれてる頃ね。今度は本当に、御節(おせち)をご馳走(ちそう)するわ」


 優しくて、温かな笑顔だった。


「護る力を授けてくれて、感謝する」


 何時か戦騎騎士と《禍人の血族》が、肩を並べて闘う日が来るかも知れない。


「良いのよ。刹那の事を、頼んだわよ」


 少なくとも、砂羅の様な人間が居る事が解った。


 羅刹は砂羅に、微笑みを返していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ