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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第七話【魔窟】

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 一気に間合いを詰めて、香流羅(かるら)は上段斬りを放っていた。


 ()れを小太刀で受けるのは、予想済みだ。だから(あらかじ)め、己の小太刀に札を貼らせて貰った。(いおり)の動きが一瞬、止まっていた。ほんの僅かだが、相手の力を札の力が奪っていたのだ。


 小太刀を捨て、菴の懐に潜り込む。起爆札を握り込んだ左拳を、叩き込んでいた。二人を爆煙が包み込む。構わずに体を捻って、懐刀を菴の胸に突き立てる。


 刃先は心臓を捉えていたが、踏み込みが浅いのか菴は倒れない。


 迫り来る弐の太刀を、(さば)く余裕は無かった。


 斬撃を受ける寸前で、香流羅の全身が光を包んだ。其の刹那、()の動きが止まった。


「貴様、何をしている?」


 香流羅を睨み()けて、菴が言い放つ。魔徒の気配は、感じられなかった。どうやら、正気に戻った様だ。神楽が掛けた呪いとやらの効果のお陰だった。


「何をほうけている。さっさと、行くぞ!」


 刀を納めて、菴は歩き出した。


 どうやら菴は、魔徒(まと)でも()り《禍人(まがびと)の血族》でも()る様だ。()の力は、神楽の力に()って抑え込まれている。()れ故に気配を感じられないのだ。


 魔徒喰らいの魔徒。《禍人の血族》で()りながら、魔徒でも()る菴は、かなり異質な存在だった。


 ()れに神楽だ。自分の事を、半神半人だと()っていた。二人の目的は解らないが、()の二人組が敵に(まわ)れば相当な脅威と成る。だが幸いな事に、今は自分に味方してくれている。


「どうやら()の箱の中に、お前の欲しい物が()る様だな」


 小さな箱を、乱暴に投げて寄越す菴。


 箱を開けると中には、数珠が入っていた。禍々(まがまが)しい力が()められた()の数珠には、無数の邪気を感じた。数珠を手に取った途端、魔徒の思念が急激に雪崩(なだ)れ込んで来た。


 無数の声。


 邪悪な声。


 怨みの声。


 嘆きの声。


 憂いの声。


 美しい声。


 醜悪な声。


 羨望の声。


 魔徒達の声だ。


 ()の声を抑え込むには、相当な精神力が必要だった。


 ——成る程。こいつは、骨が折れる。


 香流羅(かるら)は数珠を、右腕に()めた。


 目を閉じて、精神を研ぎ澄ます。心の奥底から聴こえる声に耳を傾ける。怨みの()った声が、周囲の声を掻き消して往く。()の声の主が、内なる世界へと香流羅を引き入れる。()れを感覚的に、香流羅は理解した。己の精神力が魔徒に負ければ、身体を乗っ取られてしまうだろう。恐らく強大な力を有している。肉体が滅びているとは謂え、相手の精神世界に惹き込まれるのだ。


 並大抵の覚悟では、切り抜けれない。


 目を開いた時には、闇の中に居た。辺りには、無数の邪気が在った。


 数多あまたの魔徒の怨念に誘われて、魔徒の心の中に入り込んだ。其の奥底に沈み込む様にして、香流羅は其の者に吸い寄せられていった。強大で凶悪な気配。禍々しい其の風貌。打ち()ける重圧。並々為らぬ邪気が漂う濃い深淵。深遠の底の底。其処此処(そこここ)で悲鳴が、音楽の様に()(わめ)く。気が狂いそうで在った。香流羅は見えぬ眼で、(かばね)の山に鎮座(ちんざ)する魔徒を睨み附けた。


「お前の望みは、何だ。我は魔徒の王族の末裔・ガイア。何故、我を呼び覚ます」


 どうやら、とんでもない大物に出会でくわしてしまった様だ。恐怖よりも先に、(よろこ)びが在った。狂気にも似た狂喜。既に己が精神は、魔徒に侵され始めている。気を緩めれば、気付かぬ内に、憑かれてしまう。喰われれば、永遠に魔徒と成るか、憎き戦騎騎士に斬り滅ぼされるか——其れだけは、御免だった。騎士に斬られるぐらいなら、闇に墜ちた方が未だマシだ。


 既に思考が、魔徒に依って(ただ)れている。急がなければ、運が良くて精神異常者だ。気が触れる前に、魔徒を屈服しなければ為らない。


 其れにしても、自分は運が良い。


 此れ程迄に強大な力を、手に入れれるのだからな。


「我が名は、御法院香流羅。貴公の力を貰い受けに来た!」


「成らば、我を受け入れるが良い!」


「断る。俺は魔徒には、屈しない!」


 神楽の呪いは、未だ香流羅の中に存在していた。


 魔徒を抑え込む光だ。半神とは言え、神の力。例え魔徒の王族の末裔で在っても、効果は在る筈だ。


 手を(さざ)すと(まばゆ)いばかりの光が、深淵なる闇を照らしていた。


 其の姿をあらわにしたガイアは、想像を絶する禍々しさだった。蝋人形の様に、生気の無い老人。骨と皮だけに成った其の姿は、悪魔の様に憎悪に染まっている。


 ガイアは強大な力を有してはいたが、所詮は(かばね)に過ぎない。神の加護で更に弱体化されている。今の自分でも、充分に抑え込む事は可能な筈だ。


 ガイアの胸を、小太刀で刺し貫いた。


「愚かでさかしらな人間よ。(いず)れ……我が乗っ取ってみせよう……」


「負け惜しみにしか、聞こえないな」


 完全にガイアを抑え込んで、香流羅は呟いた。


 何時(いつ)の間にか、元居た場所に戻っている。


 全身を流れる力に、香流羅は驚いていた。此れ迄に無い程の大きな力を、自分の中から感じる。其れだけではない。周囲の()の流れが、手に取る様に解るのだ。今の自分にならば、【天涯の書】と【人外の書】の極意が理解、出来た。水面の水を掬い上げる様に、龍脈の氣に触れる。其れを、そっ……と、掬い上げる様にして術を放った。


 炎の塊が、社の壁を粉砕しながら爆炎を上げる。火柱が周囲の氣を取り込んで、弾けて往く。爆風から身を護りながら、(たし)かな手応えを感じていた。


 自分は今、新たな境地に到達したのだ。


 香流羅は高笑いを上げていた。



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