肆
「白鷹戦騎タリムよ、良くぞ参られた」
【裁きの門】の番人で在る【嘆きのエリザ】が厳かに言った。エリザは天界の神々の眷属で在るが、千年前の闘いで粗相を起こして、極界に追いやられた。以来、此処で番人としての役目を与えられている。
「羅刹は、漸く騎士としての使命が芽生えた様ですね」
「はい。今は在の子に取って、大切な時期。厳正なる御裁きを願い申し上げます」
羅刹の処遇は、エリザの気分次第で幾らでも変える事が出来る。エリザの機嫌を損ねれば、即刻にでも地獄へ逆戻りと謂う事も起こり得る訳で在る。
零落れたとは言え、エリザは神々の眷属で在る。其れだけの権限が、彼女には与えられていた。
「今日は羅刹の事で、貴方を招いた訳では在りません」
「其れでは、どう言った御用向きで御座いましょうか?」
エリザの招集は、何時だって悪い予感しかしない。大抵はエリザの尻拭いが多い。そして其の殆どが、碌でも無い事ばかりだ。
きっと今回も、面倒事を仰せ附けられるに違いない。
身構えるタリム。
「邪悪なる魔獣・タタラが、現世に蘇ってしまいました」
「タタラが……そんな、馬鹿な。奴の復活は、未だ千年以上も先の話では、在りませんか?」
タタラとは、古の時代より多くの人々を苦しめ、数多の戦騎騎士を屠って来た魔徒の名だ。
強大な力を有した魔徒。四百年前に多くの騎士や戦騎の犠牲と引き換えに、漸く封印したのだ。其の闘いにタリムも又、参加していた。そして此の時に、多くの《禍人の血族》が犠牲に成った。
タタラの強大で巨悪な力は、其の躯に嫌と言う程に染みている。
「万が一、タタラと相対したら……倒せとは、言いません。人々を安全な場所へと避難させなさい」
本当にタタラと相対したの為らば、逃げる事すら至極困難な事で在った。
其れに羅刹の性格を考えれば、逃げる事は絶対にしない。
面倒事が又、一つ増えてしまった。
「我々は、貴方を失いたくは在りません。良いですね。呉々(くれぐれ)も慎重な行動を御願い致しますよ」
要するにエリザは、自分の保身を考えているのだ。
先の大戦で、多くの戦騎を失った。現存する戦騎の数は、千年前の十分の一しかない。魔徒達との闘いに勝ちこそはしたが、エリザの立案した作戦の所為で、多くの戦騎を失ったのも事実。エリザの立場からしたら、此れ以上の失態を晒す訳には往かなかった。何せエリザには、後が無いのだ。
「何れ天界より、タタラ討伐隊が編成されるでしょう。貴方は其れまで、何としても生き延びなさい。話は以上です」
エリザは直ぐにではなくて、何れと言った。詰まり未だタタラ復活の報告を、天界にしていないと言う事だ。
そうでなければ、天界で非常事態が起きているかだ。どちらにしても、タリムにどうこう出来る話ではなかった。
「畏まりました……」
タリムには、渋々ながらに受け入れる他なかった。




