捌
口々に、卑しい言葉を放つ男達。
虫酸が走った。
「羅刹、気持ちは解るけど……駄目よ」
「解っている」
戦騎騎士は、人間を傷付けてはいけない。其れが例え、どんなに虫酸が走る様な醜悪な人間で在ってもだ。人間を裁くのは、人間の役目だ。自分が立ち入るべきでは無かった。
其れよりも、今は魔徒だ。どの人間に、魔徒が憑いているのかを、見極めなければ為らない。早くしなければ又、犠牲者が出る。今迄の自分ならば、決して抱く事の無かった感情。其の想いが、羅刹を焦らせている。
——人を、護りたい。そんな想いが、羅刹の心に芽生えていた。
「貴様等、良い加減にせんか。寄って集って言いおって。恥を知れ!」
店の大将が、堪り兼ねて叫んでいた。
「何だと、此の糞ジジィが!」
男の一人が叫んだ瞬間、魔徒が動いていた。
少年の一人が、男の胸を手刀で刺し貫いていた。
「糞、遅かったか……」
又、一つの命を護る事が出来なかった。
自分は、騎士失格だ。だが、今は嘆いている暇は無かった。
魔徒が、もう一人の男に手刀を放とうとしている。短剣を引き抜き、手刀を受け止める。悲鳴と共に、店内を混乱と恐怖が蠢いていた。
「お前達、逃げろ!」
例え、虫酸が走る人間で在ろうとも、護り抜いてみせる。
己は、戦騎騎士なのだ。
全ての人間を護る。
我先へと逃げる男達。
少年と大将は、逃げなかった。
「お前達。何故、逃げない!」
「そいつは、俺の親友なんだ。見捨てるなんて、出来る訳がないだろ!」
又、魔徒と親しい人間が傍に居る中での戦いで在った。
だが、斬る事を躊躇う訳には往かない。誰かが傷付く事に成ってからでは遅いのだ。
「良く言った坊主。おい、兄さん。此処は儂の店だ。微力ながら、加勢するぞ!」
包丁を取り出しながら、大将が笑った。
「余計な事は、しなくても良い!」
はっきり言って、大将が居たら逆に足手纏いだ。
居ない方が良い。
「刹那、二人を頼む!」
「……え、頼むって?」
「お前には、タリムが居る。二人の近くに居るだけで、結界が張られる。行け!」
三者を背に庇う様にして、羅刹は前に出た。
「邪魔をするな、小僧!」
どうやら今回の魔徒は、依代の心を完全に支配している様だ。
最早、少年の自我は何処にもない。
次第に鬼神化する魔徒を睨み付けて、羅刹は戦騎を喚装した。
「華ぁ……お前、身も心も、化物になっちまったのかよぉ!」
「そうだ。奴を斬らねば、お前の友は永遠に化物の儘だ!」
「そんな……」
表情を暗くする少年。
「羅刹。魔徒の能力が、未だ解らないわ。気を付けて!」
「其の必要は無い。俺が逃げれば、後ろの三人が死ぬ。俺には、前にしか道は無い!」
炎を纏わせた大剣を構えて、前へと全身した。
其の突進エネルギーを利用して、魔徒へと大剣を刺し貫いた。
其の剣に最早、迷いは微塵も無かった。
人を護る。今の羅刹の胸は、其の想いで溢れていた。
——何が在っても、必ず護り抜いてみせる。




