漆
華がカツ丼を半分程、平らげた時で在った。
柄の悪そうな男達が、来店していた。
其の中には、田辺の姿が在った。華の胸中を、昏い物が満たして往く。
「あれぇ〜……。ウチで金を借りて措きながら、カツ丼ですかぁ。良いご身分ですねぇ〜!」
「おい、田辺。次の返済期日は、まだ先だ。勝手な事をしたら又、社長に怒られるぞ?」
男の一人が、見下した様に田辺を止める。
「解ってるよ、うるせぇなぁ〜!」
男の手を払い、田辺は不機嫌そうに席に着いた。其の時には既に、華の表情は、翳りを見せていた。
——愚かな奴等だ。人間は皆、愚かだ。
又、頭の中で声がした。甲高い男の声だった。けれど、其の姿は何処にも無い。
「どういう事だよ、華。まさか、お前……闇金に、手ぇ出したんじゃねぇだろうな!」
咎める様に問う健吾。健吾にだけは、知られたくは無かった。心配を掛けたく無かったからだ。掛け替えの無い友達だから、迷惑を掛けたく無い。
「そうだよ。悪いか……?」
口から出た声には、険が含まれていた。
「何で、俺に相談の一つもしないんだよ!」
「おい。こいつ等、内輪揉めし出したぞ!」
「放っとけ。そんな物、ウチの客じゃ珍しくもないだろ」
口々に卑しく笑う男達。
翳る健吾の表情。
「此の間、彼女が消えて……代わりに、こいつらが突然、やって来たんだ!」
「……んで、お前が女の借金、肩代わりしたんだよなぁ〜……華ぁ?」
田辺が楽しそうに、高笑いを上げる。
「何だよ、其れ……」
「お前を、巻き込みたくなかったんだよ。健吾、俺達……親友だろ?」
「水臭い事、言うなよ。金なんか、俺が払ってやるよ!」
健吾が財布から、五万円を取り出そうとした。
「足りないんだよ!」
健吾の手を、慌てて止める。金を出させれば、健吾からも取り立て兼ねない。そう為れば、本当に友情に亀裂が入る気がした。其れだけは、絶対に嫌だった。
「そうそう。其れっぽっちじゃ……全然、足りないの。こいつ、ウチから五百万も借りてるから。けど、社長は優しいんだぜ。女の借金、肩代わりする代わりに、利息をトイチに負けてるんだからな!」
嘲笑が、店内を木霊する。
——薄汚く、醜い奴等だ。お前の女も、こいつ等と出来てるぞ。
内なる声が、悪魔の様に華の心を撫でる。どす黒い感情が、心を掻き立てる。
「其れは、本当か?」
——本当だ。こいつ等が、憎いか?
「あぁ、憎い……」
「おい、華。どうしたんだよ……。一体、誰と話してんだよぉ……?」
狼狽えた様な表情の健吾。健吾を見ていると、胸が締め付けられる様に痛かった。けれど、心の奥底から沸き起こる感情を、どうにも抑えれ無かった。憎しみの念が、田辺達に向けられる。
「ごめんな、健吾。お前の大切な店で、こんな事になっちまって……」
——我を受け入れろ。そうすれば、此処に居る奴等を殺してやろう。
内なる声の誘いに、抗えない。
「あぁ……受け入れる!」
染まる憎悪が、心地良く華の心を変貌させた。




