拾弐
羅刹は、戦騎を喚装した。
「愛する者と供に、逝くが良い!」
刀身に炎を宿して、刀を振り降ろす。
炎の斬撃が、二人の元へと飛来する。其れを真面に受けて、魔徒は消滅した。技の名は【灯燕】と言った。
斬ったのは魔徒だけで、女の方は傷一つ付いていない。
哭きながら、女は羅刹の頬を平手で打った。
「お願いだから、とっとと消えて……人殺し!」
「済まない……」
立ち去る羅刹。黙って、後を追う刹那。
大切な者だったのは、解っていた。
互いに愛し合っていたのは、解っていた。
けれども、魔徒は斬らねば為らない。何故ならば、自分は戦騎騎士なのだから。其れなのに何故か、胸の奥が痛かった。初めて感じる痛みで在った。
——羅刹。其れが、人の痛みよ。
頭の中で、囁くタリム。
「人の……痛み?」
——そう。貴方に、足りなかった物の一つよ。
「そうか。此れが……」
過去が脳裏を過ぎる。
「羅刹。さっき女の人が言った事、余り気にしないで……」
絞り出したかの様に、刹那が口を開いた。
「いいや。本当の事さ……。俺は、人殺しだ」
「え……?」
哀しそうな羅刹の横顔を、刹那は見た。
お互い其れ以上、何も言わなかった。
雪と共に只、哀しみだけが降り積もっていた。




