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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第四話【呪毒】

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 昭久は焦っていた。


 平然を装ってはいたが、髪の所為で体内はボロボロだった。身体の中を、無数の虫が蠢いている様で在った。激痛が常に迸り、身悶えそうだった。


 計り知れないストレスを感じた。全身を、厭な汗が撫でていた。此れが、恐怖と謂う物なのだろう。生まれて初めて感じる其の感情に、苛立ちを覚えていた。


 こんな事は初めてだ。とにかく此の髪の呪いを、どうにかしなくてはならない。其の為には、原因を取り除く必要が在る。


 つまり、皆川一乃を始末すると謂う事だ。しかし其れは、至極困難で在った。


 今の皆川一乃は、化物だ。其れもとんでもない化物で在った。並大抵の事では、殺す事は出来ないだろう。


 神話の中でペルセウスが、メデューサの首を切り落として殺している。皆川一乃も神話の様に、首を切り落としてしまうしかない。


 だが一体、どうすれば良いのか思い附かない。策を練る時間はなかった。今こうしている間にも、体内の髪が臓器を蝕んでいる。耐え難い苦痛だった。まるで獰猛な蟲が、体内を貪り喰っている様な激痛と不快感が常に在る。立っているだけが、此れ程に迄も辛いのは初めてで在った。


 正直な事を言うと、発狂してしまいそうだ。不意に、妙な笑いが込み上げて来て、唐突に笑っていた。自分でも不気味な笑い声で在った。余りにも滑稽で在る。


「東山先生……?」


 背後から声を掛けられ振り向くと、御法院刹那がいた。


 彼女は昭久の通う私立晴明女学院の生徒だった。


 御法院刹那も又、以前から目を付けていた生徒の一人で在る。全身を切り刻んで、其の純真無垢な心を恐怖に染め上げたい処だ。だが、今は其れ処ではなかった。


「どうしたんですか……。全身、傷だらけで。其れに、酷い火傷っ……!」


 心底、心配そうな表情が又、邪念をそそらされる。全身をナイフの刃で、愛撫したかった。ゆっくりと切り刻みながら、じっくりと絶望を味わわせたかった。ねっとりと、恐怖を植え附けてしまいたい。どうやら欲望の方が、苦痛を遥かに上回っている様だ。痛みを一時的に忘れていた。


 慌てて駆け寄る御法院刹那。優しく触れた手が、白く輝いている。其の瞬間、どういう訳か体内から痛みが消えた。


「一体、君は何をしたんだ……?」


 痛みが、体内を這い廻る髪の感触が、綺麗さっぱりと消滅した。しかも、傷と火傷も全て癒えていた。


 御法院刹那が、呪いを浄化させたとしか考えられなかった。


 だが、当の本人も困惑している。


「矢張り、何者にも私を止められない。運が……此の東山昭久に味方している!」


「東山先生……?」


 突然、笑い出した昭久を、怪訝そうに御法院刹那が見ている。


 彼女は使える。だが、皆川一乃だけではなく警察も、そろそろ自分を捜し出す頃合いだった。警察官が二人も死んだのだ。


 今頃、警察側は昭久を重要参考人か、下手したら犯人として捜索するに違いない。


此方こっちへ来い!」


 乱暴に御法院刹那の手を引いて、昭久は歩き出した。


「東山先生、痛いっ……」


「私は今、化物に追われている。お前には、協力して貰うぞ」


 人気の無い廃ビルへと歩を進めながら、昭久は淡々と語り出した。


「訳在って、化物に追われている。どうやら、お前には化物の力を中和する力が在る様だ。皆川一乃を始末するまでは、丁重に扱ってやる」


 全て方が着いたら、堪能させて貰うとしよう。柔らかな其の肌を、ケダモノの様に蹂躙してやる。御法院刹那——此の町の最後の獲物に相応しい少女で在る。


「私は其の化物を知ってる。そして、化物を滅ぼす者の存在も……だから、落ち着いて下さい!」


 強い意志の宿った瞳をしている。益々、支配したく成ってくる。


 廃ビルの奥へと入っていく最中に、遠くからサイレンの音がした。


「ちっ……。もう、警察の方が来たか。だが、運は私に味方している」


 今、確かに御法院刹那は言った。


 化物を滅ぼす者の存在を知っている——と。為らば、そいつを利用しない手はない。


「東山昭久、大人しく投降しろ!」


 刑事らしき男と複数の警察官が、拳銃を突き付けて来た。


「御法院君、実は私は殺人鬼なんだ。全てを片付けたら、君も優しく切り刻んであげるよ……ふふふ」


 御法院刹那の耳元で囁きながら、ナイフで頬を撫でる。刃先を目玉に突き立てながら、静かに嗤った。此の儘、眼球を抉り出してしまいたい。残された左目で、涙を流しながら喪失感に侵されて往く様を見たかった。想像しただけで、全身を得も謂われぬ快感が突き抜けて往く。だが今は、遣るべき事が在る。


 今、此の空間を支配しているのは自分だ。何故なら、総ての事態を把握しているのは自分だけなのだから——。


「東山、ナイフを捨てろ!」


 安っぽい台詞を吐く刑事らしき男。全く、つまらない男だ。一切の興味が沸いて来ない。


「嫌だ、嫌だ……ふふふ。君達、気を付け給えよ。もう既に、奴は来ているぞ?」


「何を言っている、貴様!」


 叫ぶ刑事らしき男の背後で、悲鳴が上がった。精々、暴れて貰うとしよう。事が済んだ後の闘争ルートを、確保しなければ為らない。其の為には、警察官が邪魔で在った。


 一同の視線が、悲鳴がした方へ集まっている。


「そうら……。メデューサの御出座しだ!」


 高笑いを上げる昭久。皆川一乃には、咬ませ犬に成って貰う。今の内に喰い荒らすが良い。


 次々に石化していく警官達。皆、一様に恐怖に歪んでいる。


「誰にも、邪魔はさせないわよ。其の男を、私に寄越しなさい!」


 メデューサさながらの化物に出会でくわして、刑事らしき男は声を失っていた。そして、瞬く間に石化していった。


 あれこれよと謂う間に、全ての警察官が石化してしまった。そして皆川一乃は、此方を見ていた。


「何故、其の小娘は石にならない!」


 困惑する皆川一乃。矢張り、運が味方してくれている。


 御法院刹那を連れて、更に廃ビルの奥へと向かった。


 ——必ず、逃げ切ってみせる。



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